第16話

 チャンクォンはライフルの引き金を引いた。


 だが銃弾は須藤には当たらなかった。


 信じられない事に、須藤は軽々とSUV車を持ち上げ、自分の前にSUV車を横倒にして置く。

 

 銃弾は車の屋根に当たった。車を盾に使ったのだ。


 そして、突然、SUV車から大きな衝撃音が聞こえると、SUV車が勢いよくチャンクォンに向かって飛んで来た。


 驚いた、チャンクォンは飛んで来た車を横っ飛びで避けるとすぐさま起き上がり、先ほど須藤がいた場所にライフルの銃弾を撃ち込もうとした。

 

 だがしかし、その場所に須藤はいなかった。焦る、チャンクォン

 すると、チャンクォンの後ろから砂利を踏む音が聞こえた。


 チャンクォンは振り返ると、二人は驚きのあまり目を見開いた。なんとそこには須藤がSUV車を持ち上げた状態で立っていたのだ。

 

 須藤は体当たりしてSUV車を吹っ飛ばした時に、車の下回りにしがみついて車と一緒に移動したのだ。

 

 チャンがライフルで須藤を撃とうとするが、須藤はチャンに向かって車を投げ飛ばした。チャンはそれを寸前で交わすと全身に寒気が走った。

 

 チャンクォンに向かって叫んだ。


クォン! 殺せ! 須藤を撃ち殺せ!」

 

 クォンはライフルを投げ捨てて、ハンドガンを取り出して構えて撃とうとした。だが、それよりも先に須藤が動いた。

 

 須藤は庭にある灯篭にラリアットをぶち込んだ。灯篭は、クォン目掛けてすっ飛んで行く。


 灯篭はクォンの頭に当たった。クォンはヘルメットをしていたが、かなりの衝撃を受け後方に吹っ飛ばされていく。

 

 クォンは一瞬だが気を失う。だがすぐに起き上がり素早く構えて、須藤に向けて発砲しようとした。

 

 だが、それは叶わなかった。

 

 なんと目の前に須藤が立っていたのだ。


 須藤はクォンのハンドガンの銃身をまるで粘土のように簡単にグニャリと握り潰した。

 

 クォンは、目の前に起きた事が信じられなかった。どうして良いかわからず、クォンは咄嗟に須藤の顔面を殴りつけた。


 クォンは180センチの須藤よりも10センチも高い、そして全身筋肉の塊のような男だ。

 

 普通の人間が、クォンのパンチを食らったら一撃で気を失うか下手したら死んでしまう。

 

 だが、須藤はクォンのパンチを顔面に受けても涼しい顔をしていた。

 

 クォンは信じられないといった表情で何度も何度も須藤の顔面にパンチを食らわす。

 しかし須藤は痛くも痒くもないといった感じで無表情で立っている。

 

 須藤は無表情のまま、ゆっくりと右手の拳を上げると、その拳をクォンの顔面に当て、そのまま振り抜くと風船を針で割ったような「パン!」という音が聞こえる。

 

 それはクォンの顔面が破裂した音だった。

 

 クォンはあっけなく絶命した。


 それを見ていたチャンの全身に恐怖が行き渡る。そしてすぐさまケヤキの後ろに身を隠した。

 

 これは次元が違う。"レア"ゾンビは生きたまま捕らえるとか、殺すとかそんなことは初めから夢物語だったとチャンは理解した。今は、ただただ逃げる事しか考えなかった。


 須藤はクォンは殺すと、辺りを見回した。チャンの姿が見えない。だが、文太郎の家の庭は広いが隠れる場所は少ない。隠れるとしたら数本だけ生えているケヤキの後ろにしかない。

 

 須藤はケヤキの方へ向かって歩きだすと突然、チャンが姿を見せ、悲鳴を上げながら、ハンドガンを連射した。弾丸は須藤の肩に当たると肩から血が流れた。だが、須藤は気にした様子もなく構わず前に進む。

 

 チャンは再びハンドガンを撃ち続ける、

 

 銃弾は何発か胸や腹に命中したが、須藤は進むのを止めなかった。

 

 須藤は左腕を上げて顔面をガードしながらチャンに向かって走り出した。

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