第14話

 文太郎が静江の死を悲しんでいると、道場の扉が開く音が聞こえた。そして扉から二人組の男が入ってきる。チャンクォンはその二人に話しかけた。


 「ソンイム、早かったな」


 ソンイムと呼ばれた男達は何も言わず、ただ頷いただけだった。チャンは構わず二人に話しかける。


「二人とも任務はわかってるな。俺たちはこれから"レア"ゾンビを捕らえる。名前は須藤。おそらく奴はここに来る、だがいいか殺すなよ。生きて捕らえるんだ。銃弾はこっちで用意した強力麻酔弾を使う。それとここに、柏木と島木が向かってるそうだ」


 チャンは二人に強力麻酔弾を入った弾薬箱を数箱とライフル型の麻酔銃を渡した。

 

 ソンイムは黙って受け取る。そしてソンが質問をした。


チャン、"レア"は本当にここに来るのか?」


「わからん…… 残念だが確証はない、だが、他に"レア"を探す方法もない。これにかけるしかない」

 

 チャンがそう答えると突然、道場の外でドン!ドン!と何かをぶつけているような大きな音が聞こえた。四人はお互い顔を見合わす。


クォンソン、外に出ろ!来たかもしれんぞ。イムはここで待機だ、俺が合図したらこいつらを囮に使え」

 

 チャンが叫んだ。三人は道場の扉を開け外に出て行った。


「一体、どうなってる? 」

 

 文太郎は叫ぶと恭子が静かな声で話しかけた。


「文太郎くん、落ち着いて、大きな声を出さないで」

 

 文太郎はハッとした顔で恭子を見る。


「ご、ごめん……」


 文太郎が謝ると、恭子がジッと自分を見ている事に気づいた。なぜ見ているのか理由がわからず文太郎はキョトンとした表情をしていると恭子が文太郎に目配せし始めた。


 文太郎は不思議に思い、恭子の視線の先を見ると彼女の手には棒状の手裏剣が握られていた。

 

 恭子は先ほど文太郎に駆け寄った時、咄嗟に床に散らばっていた手裏剣を自分の懐に隠していたのだ。

 

 恭子は手裏剣を使って、イムに気づかれないよう結束バンドを切る。

 

 イムは外が気になっているようで、こちらの方を見ていない。恭子が結束バンドを切ると手裏剣を文太郎に手渡した。

 

 文太郎もすぐさま手裏剣で結束バンドを切るとドゴン!!と突然、外で爆発音のような大きな音が響いた。しかし、その後はなんの音も聞こえない。

 

 しばらく静寂が続くと、イムのヘッドセットからチャンの声が聞こえた。


イム、正門から須藤が入って来たぞ。俺達は隠れて様子を見ている。林(イム)、伊達をその部屋から出せ! 伊達を見た須藤はそっちに向かっていくはずだ。そしたら後ろから俺達が須藤を撃つ、頼んだぞ」


 イムは「了解」と言うと、振り向き、文太郎の所へ向かう。

 

「立て!」


 イムが、文太郎を立たせようと肩を引っ張る。伊達引きづられるように立ち上がる。と、その瞬間、文太郎がイムの顔面を殴りつけた。

 

 イムは一瞬、意識を失いヨロヨロとよろけると文太郎はすかさず、ライフルを取り上げる。


「動くな! 両手を上げろ!」


 文太郎はライフルをイムに突き付けた。ライフルには実弾ではなく、麻酔弾が装填されているが、ゾンビ用の麻酔弾の為、非常に強力だ。人間に打ち込めは普通に死ぬ。イムはそれを知っている為逆らわずに両手を上げた。


 文太郎はさらにイムからハンドガンとナイフを取り上げ、それをチャン達が出て行った方とは反対側の窓から捨てる。


 イムのヘッドセットからチャンの声が聞こえてきた。


イム、さっさとしろ! どうした?」


 しかしイムは両手を上げているため、ヘッドセットから聞こえるチャンの声に応答出来ずにいる。

 

 イムは文太郎を睨んでいた。そして恭子が道場に落ちていた日本刀を持ってくる。


「文太郎くん、刀を持って来たわ。あと、取り敢えずこいつを縛りましょう。仲間が戻ってくるかも」


「わかった。恭子悪いんだけど、こいつの結束バンドを取ってくれないか。慎重にな」


 恭子がイムの背中に掛けてある結束バンドを取る。そしてそれを文太郎に渡すとイムに命令した。


「後ろを向け」


 文太郎はイムの両手を結束バンドで縛る。


「文太郎くん、こいつのポケットに車の鍵があったわ。こいつらの車で逃げましょう」

 

 恭子が文太郎に車の鍵を渡した。


「サンキュー 恭子、こいつの仲間が戻ってこないかちょっと外の様子を見てみるよ。出入り口は向こうにもある。大丈夫だったらそこから逃げよう」


「わかったわ。文太郎くん、見つからないでね」


「了解!」


 そう言いながら文太郎は道場の窓から外を見ると驚きの声を上げた。


「きょ……恭子、た、大変だ。須藤だ! 須藤がいる!なんで?」


「え! 嘘!」

 

 流石の恭子も驚き窓から外を見る。


「ほんとだわ。何しに来たのかしら? あれ?でも、外に出ていくみたい」


 庭では須藤がジッと立って警戒するように周りの様子を伺っているとすぐに外に出て行った。文太郎は正門が壊れている事に気が付いた。


「本当だ、出ていくぞ! あれ?ちょっと待て、正門が壊れてる。さっきのあの爆発したような音は正門をぶっ壊した音か! で、でも、どうやって壊した? 」


 文太郎は何が起こったのかわからないまま窓から庭を見ていた。

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