第13話

 命令された長身の男は道場へと銃を構えながら進んでいく。

 

「あそこに"だて"いるな……お前も行くんだ」


 男は恭子にも道場の方へ行くよう命令した。道場の扉の前に着くと恭子と二人の男は扉を開けて中に入った。

 すると道場の中で驚く事が起きていた。文太郎が家政婦の今井静枝に首を締められていたのだ。静枝はゾンビになっていた。

 

 文太郎は静枝に首を締められたまま無抵抗の状態で意識を失いそうだった。

 

 恭子は驚き、文太郎を助けに行こうとした。がその瞬間、長身の男が静枝に銃を向け発砲した。

 

 銃弾は静枝のこめかみに当ると静枝はその場に倒れた。

 

 恭子は急いで文太郎に駆け寄る。


「文太郎くん! 大丈夫!」


 文太郎の意識は朦朧としていた。恭子はどうしたらいいかわからずに戸惑っていると背の高い男が恭子を文太郎から引き離した。

 

 そして、それとは別のもう一人の男が文太郎に銃を突きつけ質問をした。


「お前 "だてぶんたろう"か?」


 文太郎は何も答えず気を失ってしまった。


 ――――――


「うう……こ、ここは何処? 」


 文太郎は目覚めると一瞬、自分が何処にいるのかをわからなかった。

 だが、目の前に化け物になった静枝の遺体を見て、自分の家の道場にいるのを思い出した。


「静枝さん……」


 文太郎は静枝の遺体に近づこうとした。だがその時、文太郎は自分の両手の自由がきかない事に気がついた。


「文太郎くん……気づいたのね」


 恭子は意識が戻った文太郎を心配そうな顔で見ている。

 

 文太郎は何事かと思い恭子の方を見ると恭子の両手が結束バンドで縛られている事に気づいた。

 

 そして、文太郎も恭子同じように結束バンドで両手を縛られていた。


「ん……どういう事だ……」


 文太郎はボーとした頭で意識がはっきりしていないため今の状況を全く把握できていなかった。

 

 目の前に全身黒ずくめの迷彩服を着た男が二人立っていた。一人は文太郎と同じぐらいの身長で、もう一人は190センチほどある大男だった。

 

 文太郎と同じぐらいの身長の男が文太郎に片言の日本語で質問をした。


「お前の名前、教えろ」


 状況をよく理解してない文太郎はその男の問いに素直に答えた。


「伊達文太郎です」


 男は再度、文太郎に質問した。


「この2匹のゾンビ、殺したお前か?」


 文太郎は男が指を指した方を見た。首のない遺体が2体転がっていた。文太郎はその遺体を見て驚いた。が、しばらくすると先ほどゾンビと戦った記憶が蘇ってきた。


「え、ええ、確かに自分がやりました。でも、その人達は人間ではなく化け物です。襲われたんです! 信じてください!その証拠に目玉が赤いし、口に牙があります! 見てください…… え……あれ? 今、ゾンビって言いました? 」


 文太郎は、自分が人を殺したと誤解されてると思い、先ほど起きた状況を必死で説明し始めた。文太郎は目の前の男を自衛隊か警察の人間だと思ったようだ。

 だが、迷彩服の男が遺体を「ゾンビ」と言った事に気がついた。

 男は文太郎の質問には答えなかったが感心したような顔で文太郎を見ていた。

 

 そして、長身の男に日本語ではない言語で話しかけた。


クォン、" レア"になったという須藤は人間の時も相当な強さだったらしい。だが、"だて"はその須藤と喧嘩して勝ったって話だ。ならば"だて"もかなりの強さのはずだ。この男は今日初めて見たゾンビ2匹を殺した。だから、こいつが"だて"で間違いない」


「ええ、そのようですね。チャンさん、"だて"はこの武器でゾンビを始末したようですね。」

 クォンと呼ばれた男は床に落ちていた日本刀を拾って見せた。


「ほう、なるほどそれでゾンビを2匹殺したのか、大したもんだ」

 チャンは文太郎を横目で見た。


 文太郎は何を言っているのかわからない、チャンクォンの会話をキョトンとした顔で聞いていた。

 すると、恭子が冷静な口調で文太郎に話しかけた。

「文太郎くん、この人たちは自衛隊とか警察の人達じゃないわよ」


 文太郎は恭子を見て頷いた。


「そうみたいだね。それに日本人じゃない…… もしかして韓国人かも、言葉は理解できないけど、この二人、ハングル語で話してる気がする。俺、韓流ドラマが好きでよく見てたんだけど発音がハングル語っぽいよ」


「そう……、とにかくあの二人は私たちの味方ではないのは確実ね。私、さっき、銃を突き付けられたわ。あと、こいつらの目的は私達の救助ではなく、どうやら圭一を探しているようなの」


「え? 須藤を? どうして……」


「それもわからないわ…… しかも、圭一を探すには文太郎くんと私が必要みたいなの」


「俺たちが……必要……」

 

 文太郎は何が何だかわからずただ呆然としていた。恭子は話を続ける。


「とりあえずこいつらが言うには、抵抗しなければ圭一を見つけるまでは私達のことを殺しはしないみたい、だからとりあえずはジッとして様子を見ましょう」


 文太郎の頭は混乱していた。だが、確かに恭子の言う通りジッとしているしかなかった。

 

 そして、文太郎は静枝の遺体に目をやると悲しみと後悔の念が込み上げてきた。静枝は子供から世話になって母親代わりだったのに、文太郎は成長するにつれ、何となく気恥ずかしさから静枝と距離を取ったことを後悔した。

 

 なぜもっと感謝の言葉を伝えなかったのだろう、なぜもっと仲良くできなかったのだろう……と、しかし、いくら悔やんでももう静枝は戻らない。文太郎は悲しみに打ちひしがれた。

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