第9話

当然、ゾンビが文太郎達に気づく。ゾンビは文太郎達を見て、威嚇するように咆哮する。


 静枝が悲鳴をあげた。ゾンビは悲鳴を上げた静枝に襲いかかる。それを見た文太郎は咄嗟に刀は抜くと向かってくるゾンビを水平に斬るとゾンビの腹部から血を吹き出した。


 しかし、痛みを感じないゾンビはそれを物ともせず、今度は文太郎に襲いかかる。

 文太郎は正眼の構えをとるとゾンビは慎重になって様子を伺い始めた。


 睨み合うゾンビと文太郎だったが、文太郎の方は恐ろしさで足が震え何も出来ずにいた。


(改めて見るとこいつはやっぱり人間じゃない……俺にこんな恐ろしい化け物を倒せるのか……)


 文太郎はゾンビの迫力に圧倒されていた。

 ゾンビはジリジリと近づきながら威嚇するように唸り声をあげると恐怖心のあまり文太郎は後ずさりしまう、そして全身から嫌な汗が吹き出した。

 文太郎はゾンビから距離を取ろうとしさらに後ろに下がるとゾンビの後ろに静枝を見えた、静枝は恐ろしさのあまりしゃがみ込んだまま両手を合わせて念仏を唱えている。


(ヤバイ、このまま距離と取り続けると、化け物と一番近い所にいるのは静枝さんになっちまう。もし、化け物の目に静枝さんが入ったら、あれが方向転換して静枝さんに襲いかかるかもしれない。まずい!これ以上は下がれない!)


 しかし、文太郎はこれ以上は下がれないと頭の中ではわかっていたが、ゾンビが威嚇するたびに恐ろしさのあまりつい後ろに下がってしまう。


 それを見て恭子が文太郎に声を掛けた。


「文太郎くん、しっかりして。それ以上、後ろに下がってはダメよ」


 文太郎は驚いて恭子を見た。


「こっちを見ないで。しっかりあの化け物を見るのよ。文太郎くん、あそこにいる人は誰? 知ってる人?」

 恭子が聞いた。


「ああ、今井静枝さんっていう名前で、さっき話した家政婦さんだ」

 文太郎はパニックになりそうながらも恭子の質問に答えた。


「そう、文太郎くんがこれ以上下がると、あの化け物はその静枝さんって人に襲いかかるかもしれないわ。だから、これ以上うしろに下がってはだめよ」


「わ……わかってるけど……ダメだ。恐ろしくて……俺にあの化け物は倒せない」

 文太郎は恐ろしさに震えながらも刀の切先を化け物に向け威嚇する。


「いいえ、文太郎くんなら問題なく倒せるわ。自信を持って!」


「む……無理だよ」

 文太郎が弱気に答えた。


「大丈夫、今日の文太郎くんを見てたらわかるわ。私、文太郎くんは誰にも負けない無敵な人だって信じてる」

 恭子の言葉に迷いはなかった。だが、文太郎の恐怖心は消えなかった。


「何を根拠に言ってるんだ。さっきは偶然トラックが通ったから化け物を倒せたんだ。偶然がなければ死んでたよ」


「そんな事ない、私にはわかるわ。文太郎くんならこの化け物を倒せるって。100パーセント信じられるわ!」


 そう言うと、恭子は突然化け物に向かって歩き出した。


「――何してる。恭子!」

 文太郎は信じられないと言った表情で恭子を見た。


「文太郎くん、このまま歩いて行けばあの化け物は私に向かってくるわ。だからお願い、あの化け物が私を殺す前に倒して!」

 恭子が迷いなくゾンビに向かって歩いていく。

 ゾンビが恭子の方を見て威嚇の唸り声を上げる。


「恭子ダメだ!」


 文太郎が叫んだが恭子は構わずゾンビに向かって歩いていく。

 どうやらゾンビは恭子を獲物として認識したようだ、咆哮を上げ恭子に向かって走り出した。

 

 しかし、驚くことに恭子の歩みは止まらなかった。


 ゾンビは恭子に突進し顔面を殴りつけようと右の拳を出した!


 だが、その瞬間不思議な事が起きた。


 なんとゾンビの目の前に文太郎が立っていた。文太郎は目にも留まらぬ速さで恭子とゾンビの間に移動したのだ。

 

 須藤との戦いの時に一瞬で間合いに飛び込んだ時のあのスピードだ。


 そして文太郎は刀を力一杯水平振り抜いくとゾンビの首が勢いよく吹っ飛びその場に崩れ落ち絶命した。


「はぁはぁ」


 文太郎は肩で息をしていた。


「恭子……無茶する……」


 恭子を見ながら文太郎は呆れて言うと、恭子は悪びれる様子もなく言った。


「ほらね。言った通りでしょ!」


「まったく……」

 文太郎は恭子に説教するのは諦めて静枝の方に向かった。


「静枝さん、怪我ないか?」

 文太郎が聞くと、静枝は震えた声で答えた。


「あ……ありがとうね。大丈夫よ……」


「ふう、良かった。とりあえず静枝さん、俺の家に入ろう。そして救助を待つんだ」


「ええ、本当にありがとうね」

 静枝は笑顔になった。


 文太郎達は道場を出ようと扉に手を掛けて開けようとした。

 しかし、扉は文太郎が開ける前に勝手に開いた。

 驚きのあまり文太郎は目を見開いた、扉は勝手に開いたのではない。ゾンビが扉を開けて入ってきたのだ。

 ゾンビは文太郎を勢いよく殴る。

 その衝撃に文太郎は吹っ飛ぶと後ろにいた恭子も巻き添いの形で一緒に吹っ飛んだ。


 静枝はゾンビを見て悲鳴を上げた。その悲鳴でゾンビは標的を静枝に切り替えた。静枝は必死になって逃げる。


 一瞬だが気を失った文太郎だったがすぐに目が覚めた。


「うう、恭子大丈夫か?」

 文太郎は自分の下敷きになってる恭子が心配で聞いた。


「私は大丈夫! 文太郎くんあの女の人が危ない!」

 恭子が叫んだ。


 文太郎はハッとして静枝を見た。

 ゾンビは静枝の首筋に噛みついていた。

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