第7話
文太郎と恭子は文太郎の家に向かって走っていた。恭子は走りながらスマホで電話をしている。
「お父さん、無事なのね?うん、大丈夫、今、友達の家に向かってる。そこに避難するわ。じゃあね。またあとで電話する」
どうやら恭子は父親と電話をしているようだ。恭子は父親と二人暮らしだ、母親は離婚してこの町にはいない。
「お父さんから電話?」
文太郎が聞いた。
「うん、実はお父さん2週間前に胃潰瘍になっちゃって、今、病院に入院してるんだ」
「お父さんが入院してる病院にも化け物がいるんだ? お父さん大丈夫?」
「うん、病院には化け物は入って来てないって、なんか入り口にバリケードして化け物が入ってこれないようにしているみたい。でも、病院の外では化け物が暴れて大騒ぎになってるって、だから、私のことが心配で電話掛けてきたみたい」
「そっか、でも、1匹とか2匹とかじゃなくて、あちこちに化け物がいるんだな……。だけど、なんなんだあの化け物……」
「あれって元は人間だったのかな? それが何かの病気であんな風になっちゃったのかな?」
「そうかもしれない。ってかそれしか考えられない。でも、どんな病気をすればあんな化け物になるんだろう?」
「わからないわ……」
文太郎と恭子が走っていると何処からか悲鳴が聞こえてた。おそらく誰かがどこかで化け物に襲われてるのだろう。
文太郎の顔から血の気が引いた。
「と……とりあえずはそれは置いておこう、今は避難するのが先だ」
「うん」
恭子が頷く、そしてしばらく走っていると、何軒か家が立っているのが見えた、文太郎が恭子に声をかける。
「あそこに俺ん家がある! 急ごう!」
ホッとしたような口調で恭子は返事をした。
「うん、無事着いてよかったぁ」
文太郎はいくつかある家の中で一番大きくて古い家の前で止まる。彼の家は立派な門構えと塀に囲まれていてまるで由緒正しい家柄の旧家のような家だった。
二人が正門の隣にある切戸を開け中に入ると、そこには大きな庭と昔ながらの木組みの家があり、そして隣には同じ木組みの建物が立っていた。
その建物の入り口には武道場と書かれた看板が立て掛けてあるのが見えた。
文太郎と恭子は玄関の前に立つ。文太郎の家の玄関は板子格子柿渋調の重厚感ある引き戸になっていた。それが昔ながらのこの屋敷と非常にマッチしている。
文太郎は引き戸を開けると二人は家の中に入る。そして、スマホを取り出した文太郎は110番にかけた。
「やっぱり、110番と119番は繋がらない、おそらくこの町の人間が何度もかけてるからかも……普通、110番は話中にはならないはずなんだけど……それだけ多くの化け物がウロついていてるって事か……これは異常事態だな……」
「取り敢えずは助けが来るまでジッとしてましょう。警察や消防が手一杯なら自衛隊が助けに来ると思うし」
「そうだね」
文太郎は頷いた。
「そうだ、少し何か食べよう。インスタントラーメンがあるよ。持って来る、そっちの部屋にテーブルがあるから座って待ってて」
文太郎と恭子は食事を終えると、二人は少し落ち着きを取り戻した。
「そういえば文太郎くん、やっぱり強いね。あんな化け物に怖がらず立ち向かっていくなんて」
恭子が関心したように言った。
「いやいや、怖がってたよ。ってか、俺よりも恭子の方がすごいじゃん、冷静に状況を見てたし、化け物に突進してっちゃうんだから」
「ああ、そういえばそっか、よく考えたら私の方が凄いよね。」
二人は笑いあった。
「文太郎くんの家、話には聞いてたけど本当に広いね。自分で掃除してるの?」
恭子が少し余裕が出てきたのか、文太郎のプライベートについて聞いてきた。
「いや、週に2度、家政婦さんが来てくれて、俺が学校行ってる間に掃除とか洗濯してくれるんだ」
「へー、文太郎くん家はお金持ちなんだね」
「そんなことないよ。まあ、ひいおじいちゃんの時まではそこそこ裕福だったけどね。今のこの家はその時に建てた家なんだ。まあ、うちって代々、武道を伝承してきた家系だからね。なんか基本的にご先祖が残したものは受け継ぐことにしてるみたいなんだ、だからこの家を残してるみたい。でも、昔の家なんでね。不便な所がいっぱいあって、色々リフォームしながら住んでるんだ。そんな訳で、すごいお金持ちって事はないんだけどさ。でも今は父親が海外で稼いでくれるから、まあ、そこそこ裕福かもね」
「ふ〜ん、そっかぁ。」
恭子は関心しながら文太郎の家を見回すと外でまた悲鳴が聞こえた。文太郎と恭子は顔を見合わせる
「なんか怖い……いつ助けが来るかわからない状況で、ここでジッとしてるだけじゃあ危ないかな? 化け物がこの家に入ってくるかも?」
恭子が怯えた顔で文太郎に聞いた。
「う〜ん、この家は古いけど塀は丈夫だから大丈夫だとは思うけど……でも、確かにいつ助けが来るかわからないから、それまで身を守らないと……」
文太郎はしばらく考えてると
「あっ、家の隣に道場があるんだけど、そこにいくつか日本刀や槍とか武器が置いてあるんだ、取って来るよ。とりあえず助けが来るまでそれで身を守ろう!」
「すごい、日本刀とかあるんだ」
「うん、うちは古武術の道場だからね武器術も稽古するんだよ。手入れは俺がやってるから錆びたりとかしてないし使えるはずだ」
そう言うと、文太郎は椅子から立ち上がり玄関へと向かう。
「文太郎くん、大丈夫? 外に化け物がいない?」
恭子が心配そうに訪ねた。
文太郎はゆっくりと扉を開けると恐る恐る顔を出した。
「大丈夫みたい。念のため俺が出たら鍵を掛けておいて」
家の庭に化け物がいないことを確認した文太郎はゆっくりと歩きながら道場に向かった。
そして文太郎は道場の扉の前に着く。道場の扉は南京錠で止めてあった。
文太郎は南京錠に鍵を差し込んで開けるとふと大門の方を見ると驚きのあまり声をあげそうになった。なんと大門の隣の切戸が開いていたのだ。
(ば……馬鹿な………確かにさっき開けたときにちゃんと閉めたはずだ!)
文太郎は急いで切戸を閉めに行こうとした時、後ろから声がした。
「文太郎ちゃん」
文太郎は驚きのあまり飛び上がった。
「文太郎ちゃん、ごめんね、私だよ、家政婦の今井」
文太郎の後ろから声を掛けてきたのは60代ぐらいで細身の女性だった。文太郎は驚き、目を見開きながらその女性を見た。
「わわわ、静枝さんか、死ぬほどビックリした! 死ぬほどビックリした!」
文太郎はパニックを起こした。
「ごめん、ごめん」
静枝が慌てて謝る。
「ど……どうしてここに?今日は来る日じゃないよね?」
文太郎が聞いた。
「ご、ごめんね。今日は仕事休みだから、家でご飯作ってたの。そしたら外で誰かが争ってるような声が聞こえてね、怖くなって家でジッとしてたんだけど、しばらくしたら何にも聞こえなくなったから気になって外に出て様子を見に行ったのよ、そしたら他のご近所さんの人も何人出てきてね。何だろうって話してたんだけど、お隣の須田さんが誰か倒れてるわよって言ってるのよ。そんで、あら大変ってことでその倒れてる人の様子を見に行ったら、急にその人が立ち上がってね、ビックリしたわよ、その人、目玉が真っ赤で動物みたいな唸り声を上げて急に周りの人を襲いだしたのよ。私、怖くなって急いで家に帰ろうとしたんだけど、自分の家の方角からもう一人その目玉が真っ赤な人が向かってきたのよ、私、咄嗟に反対方向に逃げたの、で、家に帰れなくなっちゃってどうしたいいかなと思っていたら、そうだ文太郎ちゃんの家に避難しようって考えついてこっちに来ちゃったのよ。ごめんね」
静枝は早口でまくし立てた。文太郎はその早口に圧倒された。
今井静枝は文太郎が子供の頃からの家政婦さんだ。文太郎は幼い頃に母親を亡くしていたので、子供の頃は母親がわりのような女性だった。
だが、文太郎が成長するにつれ、あまり話さなくなっていた。
最近では文太郎が学校に行ってる間に洗濯や掃除などをするようになっていたのでそんなに会うこともなかった。
「そうなんだ、静枝さん俺の家の鍵、持ってたんだね。よかった。だ、大丈夫だよ。むしろ、よく来てくれたね」
文太郎は何か気恥ずかしくよそよそしい感じで答えた。
「ごめんね」
静枝も何となくぎこちない感じで先ほどからずっと謝っていた。
「わ、わかったから、だ、大丈夫だよ」
文太郎は慌てて答えた。そして何かを思い出したようにハッとした顔になった。
「そ、そうだ、静枝さん、切戸開けっ放しだよ。閉めないと化け物が入って来ちゃうよ」
「あれ? そうだったけ? 鍵をかけ忘れちゃったかもだけど、扉は閉めたような気がしたけど」
「今、閉めて来るよ」
文太郎が切戸を閉めに行こうとした瞬間、どこかで獣の唸り声が聞こえて来た。
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