第6話


 柏木が車で走ってると、道端で座り込んでる島木を見つけた。


「おい、乗れ島木」


 島木が乗り込むと柏木は車を走らせた。


「柏木さん、この町やべーっすよ!柏木さんが来るまでに4匹ゾンビ襲われましたよ!」


「ああ、思ってた以上に感染のスピードが早いな。おそらくこの町はもうダメだろう」


 ゾンビが柏木達の車に襲いかかってくる。それを柏木は上手くかわしながら運転している。


「他の班はそろそろ伊達ってやつの家に着いてる頃だ。そこに須藤が来て捕獲できれば取りあえず仕事は終わりだがなぁ……」


「そうなればさっさと帰れるんでしょ?早く帰りてーっす」


「まあ、そう上手くいくかな?嫌な予感がしてしょうがねーな」


「マジっすか?柏木さんの嫌な予感って結構当たるから怖いっすよ。ったく、元はと言えばあんな事故さえ起きなければこんな事にならなかったのに……」


「ああ、だが、ある程度の事故が起こることは想定しているし、そのために俺らが雇われてるんだ。文句言っても仕方ねーよ」


 柏木が車を急いで走らせてると柏木と島木のヘッドセットから男の声が聞こえた。


「柏木、島木、聞こえるか?」


「はい、聞こえます」

 

 柏木が答えた。


「次の信号を右に曲がってくれ、そこから1キロ先で小坂と立花がゾンビにやられそうだ。二人からSOSがあった。彼らを助けて合流するんだ」


「わかりました」

 

 柏木が答えた。


「いくぞ」

 

 柏木が島木に声をかけた。


「はい」

 

 島木が返事をした。


 そして現場に着くと、一人の男が20匹ぐらいのゾンビに囲まれていた。


「おお、ヤベーっすよ、柏木さん。あれ小坂さんじゃないですか? やられそーっすよ」

 

 柏木と島木が急いで車から降りた。


 小坂と言われた男は次々襲いかかるゾンビにアサルトライフルで応戦していた。が、銃弾に恐れも痛みを感じないゾンビに苦戦していた。


「おい! 助けに来たぞ! 小坂! 立花はどうした?」

 

 柏木はゾンビを撃ちながら小坂に声をかけた。


「立花はゾンビにやられちまった。俺もやられそーだ! 助けてくれ!」

 

 小坂は必死にゾンビを撃ちながら答えた。


 柏木と島木は小坂の方へ向かって行くと、二人に気づいたゾンビが襲って来た。二人は向かってくるゾンビを確実に倒していく。柏木は島木に声をかけた。


「おい! 島木、後ろだ!」


「っと、了解っす!」


 島木は後ろから来たゾンビにローリングソバットを食らわした。

 よろけるゾンビだったがすぐに島木に向かってきた。だが、島木は冷静にゾンビの眉間に照準を当て、アサルトライフルで眉間に風穴を開ける。


「島木、やるじゃねーか」


「こんぐらいよゆーっすよ。おっと、柏木さんの所にも来ましたよ」

 

 島木の言うとおり柏木の左右からゾンビが襲って来た。だが、柏木は冷静だった。まず右から来るゾンビの顎を銃床で叩き後ろにヨロけさせるとすぐに左から来たゾンビの眉間に銃弾をぶち込む。

 

 銃弾をぶち込まれたゾンビはその場に崩れ落ちた。そして柏木は先ほどヨロけたゾンビの方を向く。ゾンビはちょうど彼に殴りかかって来る所だった。

 

 柏木は殴りかかってくるゾンビの攻撃をしゃがんで避け、そこから足をひっかけるようにローキックを食らわすとゾンビは仰向けに倒れた。柏木はすぐに眉間を撃った。


「柏木さんこそ、やるっすね!」


「島木、さっさとゾンビどもを片づけるぞ!」


「わかりました!」


 柏木と島木は次々と襲いかかってくるゾンビを始末していく。小坂は感嘆の声を漏らす。


「さすが、柏木と島木だ……」


 柏木と島木が到着してから15分してゾンビは一掃された。


「小坂、大丈夫か?」

 

 柏木が聞くと小坂は力強く頷く。


「ああ、助かったよ。俺だけだったら確実に死んでた」


「ワゴンはどうしたんっすか?」

 

 島木が聞くと小坂が指を差す、その方角には転がったワゴン車が見えた。


「あそこで横転しちまってる。ゾンビがいきなり出て来て焦ってハンドルを切っちまった」


「武器はまだワゴンの中か?あるなら取りに行こう」

 

 柏木が聞くと小坂はホッとした顔で答えた。


「ああ、助かる」


 柏木、島木、小坂の3人がワゴン車に向かう。だが、突然、柏木と島木の後ろから男が忍び寄って来た。

 そして、そっと2丁のハンドガンを出して柏木と島木の後頭部に突きつけた。


「動くな」


「なんだ?」

 

 島木が声をあげた


「悪いな二人とも、銃をこっちによこせ」

 

 小坂が突然、柏木と島木に銃を向けた。


「立花よくやった」

 

 小坂が柏木と島木の後ろにいる男に声をかけた。


「柏木、島木……悪いな。お前らには死んでもらうぞ」

 

 そう言いながら小坂が柏木と島木の銃を奪い取る。


「立花……おめー死んでねーのか?」

 

 島木が動揺した口調で言った。


「ああ、騙して悪いな」

 

 立花がそう言うと島木は食ってかかった


「ふざけんな! 何してる? 何が目的だ!」


「俺たちはこの町を出る。そんで俺と小坂さんは組織を抜けるよ」

 

 立花が答える。


「おい、そんなことできると思ってんのか? 組織を裏切ったら……お前らの命はないぞ」


 柏木がそう言うと小坂が笑いながら反論した。


「柏木、お前らこそ、組織の言うとおり動いて本当に大丈夫なのか?」


「どう言うことだ」


 柏木が小坂に質問する。


「お前らゾンビウィルスの感染のスピードが早すぎると思わないか? 異常なほどのスピードで感染が広まっている。なぁ、たった1匹ゾンビが逃げ出しただけでこの惨事だぞ! 今後、日本でこのゾンビウィルスの研究を続けていたらどうなると思う? こんな事故また起きるぞ! そしてまたあっという間に感染が広がるんだ! 恐ろしくないのか? 日本中がゾンビだらけになってゾンビ共に支配されるぞ! 二人とも俺と立花と一緒にこの町を逃げよう! この組織のために働いても未来はない! そしてこの町を出たら、国にこの事実を打ち明けるんだ! 俺らが何とかしないと日本が滅ぶぞ!」

 

 小坂は必死な口調で二人に話したが柏木は意に介さない口調で答えた。


「わりーな。正直、日本がどうなろうと知ったこっちゃねーよ。俺らは仕事して報酬を貰う、それだけだ。お前らみたいな愛国心なんてねーよ!」


「お前ら……日本人だろ?これがきっかけで日本が滅ぶかもしれないんだぞ! 真剣に考えてみろ!」

 

 小坂が苛立ちながら柏木の眉間に銃を突きつけながら言った。しかし、柏木は何も言わなかった。


「もういい! お前らの車に案内しろ! 俺らの車はオシャカだ、お前らの車でこの町から逃げるぞ! 行け!」

 

 小坂が柏木に命令した。柏木と島木は大人しく従った。


 柏木たちが車の前に着く、小坂が柏木に命令した。


「おい、ドアを開けろ!」

 

 柏木は素直に小坂の言うとおりに従った。だが、その時、車のドアのガラスにゾンビがこちらに向かって走ってるのが見えた。それに気づいた柏木が叫ぶ


「おい! 後ろからゾンビが来てるぞ!」


 その叫び声と同時にゾンビが唸り声をあげて突進して来た。咄嗟に小坂と立花はゾンビに銃を向け撃ちまくるとゾンビの額に銃弾が当たり転げるように倒れた。

 と、同時に柏木と島木が動いた小坂と立花にタックルをしたのだ。小坂と立花は倒れるが、すぐに銃を柏木と島木に向ける。

 

 だが、柏木と島木は、小坂と立花の銃を持つ手首掴むと、地面に叩きつける。すると二人の手から銃が離れる。

 

 立花は島木を巴投げで投げ飛ばすとすぐに立ち上がって銃を取ろうとした。しかし、すぐに立ち上がった島木が銃を蹴り飛ばす。


「立花! 素手で勝負しようぜ!」


 島木が立花を挑発した。その挑発に乗った立花はフットワークを使いながら島木の左側に円を描くように回り始める。


 柏木も同様に小坂の銃を蹴り飛ばした。小坂がファイティングポーズを取る。柏木と小坂も素手で勝負を始めた。


 立花が左ジャブを繰り出す。それを島木はパーリングで捌く。立花は島木が自分のジャブを払いのけたらすかさず左フックを顔面に食らわしてやろうと考えていた、だが、島木の防御が見事だった為それは叶わなかった。島木は立花をジャブを小さく払うとすぐにその手を顎に戻し顔面のガードに切り替える、格闘技上級者の防御だ。

 

 島木の隙のない動きに苛立ちを覚えた立花は一気に勝負を仕掛けて来た。強引に前に出て島木の間合いに入ると右のストレートを出してきた。しかし、島木は上体を左に軽く倒し軽々と避けた。そして今度は島木が右ストレートを出した、島木の右ストレートは立花の顎にヒットした。

 

 立花はストンとその場に崩れ落ちる。彼はダメージで起き上がれなかった。


「俺の勝ちだな、立花」


 島木がそう言うと、地面に落ちている拳銃を拾いに向かう。だが、その瞬間、立花はナイフを取り出し島木に切りかかった。しかし、島木は立花の動きを読んでいた。立花のナイフを持っている手を受け流すと島木は立花の後ろを取る。

 そして、立花の顎を上げるとすかさず自分のナイフを取り出し立花の首を切った。

 立花は首から血が吹き出し倒れた。


「立花!」

 

 小坂が叫んだ。


「もう、諦めろ小坂……勝負はついてる」

 

 小坂は肩で息をしていたがそれに対して柏木は息ひとつ乱れていなかった。小坂はナイフを取り出した。


「小坂やめろ。それを出したら俺は手加減できねーぞ」


「うるせー」

 

 小坂が柏木に切り掛かる。柏木はナイフを持ってる小坂の右手を左手で抑えた、そして、今度は左手で小坂の右手を掴み、そこから右手で小坂の顔面を数発殴ると今度は小坂の右手の手首をひねる。小坂はナイフを落とした。

 柏木は小坂の手首をさらに捻ると「バギッ」という音がした、小坂が悲鳴を上げる。

 

 柏木は小坂の手首を折った。小坂の戦意は完全に消失した。


「柏木さん終わりました?」

 

 島木が声を掛けた。


「ああ」

 

 柏木は軽く頷いた。島木は柏木に銃を渡しながら聞いた。


「この人、どうします?」


「さあな、本部に聞いてみるしかないだろう」

 

 柏木がそう言うとタイミングを見計らったようにヘッドセットから声が聞こえた。


「柏木、島木、状況を説明しろどうなった?」


「はい、残念ですが、小坂と立花は我々を裏切りました。助けを呼んだのは自分たちの車を盗んでこの町から逃げるためだったようです。しかし、阻止しました。」


「……そうか、小坂と立花はどうなった?」


「立花は殺しましたが、小坂は手首の骨が折れただけです。どうしますか?」


「小坂がなぜ裏切ったかを聞け、もし、どこかのスパイだったら情報を聞き出すんだ」


「了解です」


「あ、あとな情報を全て聞き出したら小坂は殺せ」


「はい」

 

 本部との連絡が切れると、柏木は小坂に質問した。


「どうやら本部はお前がどこかのスパイじゃないかと疑っているたらしい。そうなのか?」


 柏木が質問すると、小坂は痛みで質問に答えるどころではなかった。柏木はため息をついた。


「しょーがねーな」

 

 そう言うと、柏木は銃を取り出し小坂を撃った。小坂は眉間から血を吹き出し絶命した。


「え? 柏木さんいいんすか? ろくに話も聞かないで殺しちゃって」

 

 島木が驚きながら聞いた。


「ああ、小坂はきっと口を割らない。もうすでに死を覚悟していたからな。そんなやつに尋問しても時間の無駄だ。さっさと伊達って奴の家に行くぞ」


「え〜、まじっすかあとで怒られないですか?」


「だから一応、スパイかどうかは聞いただろ? まあ、そんな事はどうでもいいから行くぞ! そんで"レア"を捕獲してとっとと帰ろーぜ。長時間労働は体に毒だ」


「まあそうっすね。行きましょ」

 

 島木があっさりと答える。


 柏木と島木が車に乗り込む。するとまた本部から連絡があった。


「柏木、島木、先ほど張から連絡があった、伊達という男を捕獲した。これから伊達の家で"レア"を迎え撃つようだ。お前らも急げ」


「了解です」

 

 柏木が答えた。


「あれ〜、なんか伊達って男、あっさり捕まっちゃいましたね。須藤を倒したんだからもっと難しいと思いましたが、手柄を他の奴に取られちゃいましたよ」


「そんなのどうでもいい、いいか忘れるな、本命は須藤だ」


「まあ、そっすよね」


「気を引き締めろ。"レア"の強さは未知数だ。油断したら死ぬぞ」


「ええ……気をつけますよ。ところで柏木さん"レア"って何匹ぐらい確認されてるんですか」


「今の所、1匹だけだ、その1匹はウチの組織で保管されている」


「ウチの組織に"レア"が保管されてるんですね。でも、それなのにどんな能力があるかわからないんですか?」


「ああ、残念なことに今の組織では"レア"をコンロールするのは難しい、まあ、普通のゾンビもコントロールなんで出来てないがな。ただ、普通のゾンビに敵味方の判断は出来ない。だが、人間の意識が残ってる"レア"ならば敵を倒す兵器として利用できると思ったようだ。だが残念なことに"レア"は全く言うことを聞かず暴れまわったらしい。死人も多く出たって話だ。それでも諦めきれず組織はあれこれ試したが、結局ダメだったようだ。最終的に大した成果も得られず仮死状態にして保存してあるらしい」


「そうなんですね。初めて知りました。じゃあ、須藤って奴も捕らえたところで無駄かもしれませんよね」


「ああ、だが、ほっとく訳にも行かねーだろ?とりあえずはそいつで実験してみていずれコントロールできるようにするつもりなんだろう」


「なるほど」


「さあ、もう行くぞ、これからが本番だ」


「ええ、了解っす」


 柏木と島木は車をエンジンをかけると、車を急発進させ伊達の家に向かった。

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