第5話

 

「やばー……"レア"ゾンビどこ行ったんだよ〜。見失っちゃったぞおい」


 須藤はゲームセンターから出て近くにある森の中に消えて行った。

 それを確認した島木も森の中に入ったが、素早く移動する須藤についていけずあっという間に見失ってしまった。


(なんだあのゾンビ、こんな暗い森の中……見えてるのか?まるで昼間の道を歩いてるように迷わず進んで行ったぞ)


 島木は暗視ゴーグルを付けていたが、それでも須藤にはついて行けなかった。


(やばいぞ、早く見つけて応援を呼ばないと……柏木さんにドヤされる)

 

 普段は楽天的な島木だったが、流石に焦っていた。


 この町は山々や森林に囲まれた田舎町なのでこうした森がたくさんある。身を隠すには最適だが、見失った対象を探しだすのは非常に難しい。

 

 島木は諦めて森を出ることにした。


(当てもなく探し回っても見つからない、やっぱ一旦仲間と合流して探し直そう)


 森を出ると島木のヘッドセットから声が聞こえた。


「おい島木、状況はどうだ?聞こえるか?」

 

 声の主は柏木だった。


「柏木さんすっか?はい聞こえます」

 

 島木が答える。


「何度も連絡したのに応答がなかったから死んだと思ったぞ」


「"レア"が森の中に入っていたんでそれを追跡してました。森の中だから電波が入りにくかったのかもしれません」


「そうか、ところで"レア"はどうした?」

 

 柏木が聞くと恐る恐る島木は答えた。


「すんません、見失っちゃいました」


「おい!」

 

 柏木が声を荒げると島木は咄嗟に言い訳をした。


「いや、ちょっと待ってください。あの"レア"暗い森の中なのにまるではっきり見えてるようにスイスイと歩いて行ったんですよ!暗闇でも全く問題なく見えるみたいです。"レア"になると力だけじゃなく他も強化されるみたいでして…… 正直、捕らえるどころか追跡するのも俺一人じゃあ難しいっすよ!」


「ほう……なるほどなぁ、確かに"レア"についてはまだまだわからないことばかりだ。仕方ねーかもな」

 

 島木の話を聞いて柏木の怒りは収めた。


「ほんとスンマセン……だけど、これからどうやって見つけましょうか?」

 

 柏木の怒りが収まったことに安心した島木が聞いた。


「ああ、それについては朗報がある。ゲームセンターにいたゾンビは全員始末した。あそこにいた人間のほとんどはゾンビになってたよ。だが一人だけ生存者がいた。そいつが"レア"が誰か知っていたぞ」


「マジっすか?」

 

 島木は驚きながら聞き返した。


「ああ、名前は須藤圭一、歳は18歳。どうやらここら辺の不良を束ねてる男で、子供の頃から空手をやっていて相当強いらしい」


「まあ、"レア"になるくらいですからそんぐらいの奴であって当然っすよね。だけど18歳って驚きですね。すげー老け顔じゃねーすっか。顔がめちゃくちゃおっさんでしたよ!俺より年上だと思ってましたよ」


「ああ、だがな、驚くのはそれだけじゃねーぞ、どうやら須藤は今日、ある男と喧嘩して負けたらしい」


「マジっすか?」

 

 島木はまたも驚きながら聞き返した。


「ああ、どうやら須藤は女をそいつに取られたようだ。怒りにかられてそいつをこのゲームセンターの駐車場に呼び出してシメようとしたらしいんだが、逆にやられたようだ」


「うわー 女のことで喧嘩するなんて、そこんとこは18歳らしいっすね。でも、ゾンビを素手でぶっ殺す男を倒すなんてそいつも相当な奴でしょうね。」


「須藤を倒した奴の名前は伊達文太郎、須藤と同じ18歳だ」


「だてぶんたろう……」


「島木、この名前に聞き覚えないか?」


「え?いや無いっすけど…誰ですか?柏木さんの知ってる奴ですか?」


「いや、ただ、今思えば須藤がゾンビになった時になんか喋ってたろ?確かその言葉の中に伊達の名前があった気がするんだ。」


「俺、須藤って奴が何を言ったかよく聞こえなかったっすよ。柏木さんは聞こえたんですか?」


「かすかだけどな……」


「え!って事は須藤はゾンビになってもその伊達って奴の記憶があるんですか?」


「恐らくな、きっと須藤は伊達を探しだして復讐をしようとしてるのかもしれん」


「なるほど……でも、伊達って男がどこにいるのか須藤はわかってるんですか?」


「それだがな、須藤は伊達を呼び出す時、携帯電話の番号と住所を女から聞いたらしい。だから、須藤は伊達がどこに住んでるのか知ってるようだ。ゲームセンターの生存者が伊達の携帯番号と住所を控えたメモを持ってた。だから俺らも伊達の家に向かうぞ。島木、今どこだ?車で拾うから場所を言え」


「了解です。だけど、良いんですか?こんな武装したままで住宅街に入って」


「さっきお前と連絡取れなかった時に他の班から連絡があったんだが、この町はもうゾンビだらけだぞ。上層部はこの町を捨てるらしい。仲間も結構な人数がゾンビにやられてる」


「かぁ……感染力が半端ないっすね。でも、それでも須藤を追うんですか?」


「そうだ、"レア"の発見を上に報告したら作戦が変更された。町のゾンビを一掃する最初の指示から"レア"を捕獲する事にな……」


「だけど……俺らで捕まえられんですか?けっこーヤバくないっすか……」


「高い金貰ってんだ、やるしかねーだろ。取りあえず他の班が先に伊達の家に向かった。俺らも行くぞ」


「了解っす。待ってますね」

 

 柏木は島木との連絡を切ったあと、ゲームセンターで唯一の生き残りの男の所に向かった。

 

 男は震えていた。


「待たせたね。ところでこのメモは伊達って男の住所で間違いないかい?」

 

 柏木が聞くと生き残りの男は震えながらも強気で答えた。


「間違いねーよ。それにしてもなんで伊達って奴を探してんだ?まあ、どうでも良いけどさ……それにしても助かったぜ……あんた達、迷彩服とか着てるけど自衛隊か?」


「ん?ああ、そうだよ。」


 柏木は適当に答える。


「頼むよ、俺を早く安全な所まで連れってくれ。こんな所にいつまでも居たくねー」


「ああ、わかった。あそこにあるワゴン車が私の車だ乗ってくれ」


 それを聞いた男はホッとした様子で急いで車に向かう。そして、車のドアを開けようとするが鍵が掛かって開かない。


「おい!なんだよ、ドア開かねーぞ!早く開けてくれよ!」

 

 男はイライラして怒鳴りながら振り向く。だが、その直後、男の眉間から血が流れた。男はゆっくりと背中から倒れる。と、その先で銃を片手で構えた柏木が見えた。


 柏木は男の眉間を銃で撃ったのだった。


「悪いね、自分を見た人間を生かしておいたら上司に怒られちゃうんだよ」

 

 柏木は男の遺体を蹴飛ばしてどかすと、車のドアのロックを開けて乗り込みエンジンを掛ける。


「はぁ……まさか"レア"が見つかるとはな……こりゃ簡単には終わらねー仕事になるかもな」


 嫌な予感を感じながらも柏木はゲームセンターの駐車場を出ると猛スピードで車を走らせた。

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