第32話 今日の小雪は……

 こんな事ってあるんだなぁ、はあ……


 今日はちょっとだけイヤな事がありました。

 家に帰って膝を抱えてベッドの上で座っています。

 お姉ちゃんと一緒に帰れてたらこんな事無かったのかな?


「小雪いる?」

 お姉ちゃんが帰って来ました。

「高坂クンとのデートどうだったの?」

「デートいうなし!妹のバースディプレゼント迷ってるって言うから付き合っただけだし!」

「それを世間ではデートと言います」

「絡むねぇ今日は」

「ゴメン……絡んでたね……」

 お姉ちゃんがぽふっと頭に手を置いてきました。

「部屋帰るね。言いたくなったら来なよ」


 10分もしないうちにお姉ちゃんのトコに……

「お、早かったね」

「高坂クンとのデートどうだったの?」

 しつこいかなって思いましたが、ちょっと言いだしづらいのでまた話題にしちゃいました。

 そしたらお姉ちゃん、サムズアップ&ウインク&いい笑顔

 イラッとしたので、顔にクッション投げつけました。


「私も返し方はコメディアンとしてどうかなと反省してるけど、小雪も若手芸人としてフリが最悪だ」

 私達女子高生だよ!

 ですが、ホントに申し訳ありません。

「ゴメン……完全に八つ当たりです」

「どしたし?ホントおかしいよ?」

「ちょっと心ザワッてしすぎちゃって、ゴメン……」


 中学の時バスケ部

 私は2年生の時やめました。

 お姉ちゃんみたいに生まれついての体育会系な性格ではないので、なかなか部のみんなとはなじめませんでしたが、それでもバスケットボールは楽しかったです。


 辞めたのは、いや、辞めざるを得なくなったのは……

 相手の危険行為に巻き込まれ怪我をしたからです。


「その子、高校でもバスケやってるみたいで、今日ウチの高校に練習試合で来てたんだよね」

「おー、あの子な。なんとなく覚えてる」

「久しぶりに会ってさぁ、屈託のない笑顔で『あの時はゴメンね?』とか『元気にしてた?』とか聞いてくるんだよねぇ……」


 そう

 私はあの時の怪我で、激しい運動が出来なくなったんです。

 当然バスケも……

 しかも、怪我の原因はゴール下でプッシングされて転ばされた結構シャレにならない反則

 中学生はまだちゃんと自分をコントロールできない(心身ともに)ので、こういう事故はあるといえばあるのですが……


「なんで笑って言えるの?って感じだよ……あの時の神妙な顔も、向こうの先生の謝罪も嘘っぱちだったのかなぁ?って……」

「うーん、話聞いてるだけだと……変わっちゃったね」

「あの子はそういう子じゃなかったって事?そこまでお姉ちゃんあの子と親しかったっけ?」

「いや、小雪が変わったかなって」

「へ?」


「小雪、あの子に腹立ててるし」

「腹も立つよ!ニコニコして『あの時はゴメンね?』ってどういう事⁉」

「いやぁ、あの子はそういうKYで罪の自覚が薄い子だったんだろうなぁ」

「そんな子に腹立てるのはおかしくないじゃん!」

「まあね」

「んじゃ私が変わったってどゆこと?」


「あの時小雪は『悔しい』って泣いてたじゃん」


 ばきっ!

 お姉ちゃんの顔をグーで殴ってしまいました。

 そして

 涙がボロボロ出る……


「お姉ちゃん……なんか……だいっ……きらい……」

 私はくるっと回ってお姉ちゃんの部屋を出ていきます。




「いてぇ……」

 小雪のヤツ!乙女の顔をグーで殴りやがった!

 普通ビンタ止まりだろ!

「………………」

 顔腫れちゃうかな?

 コールドパック持ってこよ。



 夜中

「ぎゅおぉぉー」

 多分お姉ちゃんと思われる奇声をあげてる珍獣に近寄ります。

 よく見ると、顔にコールドパック乗せて寝てます。

 いびきが奇声になってるのはこのせいかな?


「ん?どしたし?」

 お姉ちゃんが起きました。

「あの……お姉ちゃん……」

 謝ろうとしましたが、その時


「ゴメンね」

 お姉ちゃんが謝ってきました。


「中学の時は『腹が立つ』じゃなくて『悔しい』って言っちゃう小雪のそういう所好きだって言ったけど……」

「お姉ちゃん……」

「腹も立つよね?そりゃ」


 ぶわって涙が出てきました。

 もう恥も外聞もなくお姉ちゃんに縋り付いて泣きました。

「ゴメンね!ゴメンね!お姉ちゃん……イヤな感情全部ぶつけてただけだった!ゴメンね!」

「うん、そーだね」

「私……ひっく……あの子の言い方に……ぐすっ……腹立てて……でも……変に空気読んで……ぐすっ……本人に言わずに……お姉ちゃんに絡んで……」

「うん、そーだね」

「今でも私……あの時と一緒で……お姉ちゃんに甘えっぱなしだ!うわああんっ!」

「うん、そーだね」

「ゴメンね……うええぇ……ゴメンねぇ……」

「はいはい、泥吐け泥吐け。楽になっちゃえ」

「うわあああんっ!」




 次の日の昼休み

 まだ泣きはらした目が腫れてる私

 まだほっぺが腫れてるお姉ちゃん

 友香と多香子はまあ別にいつも通りですけど

 淳子ちゃんと美鈴ちゃんまでそっち側に……

 引くよねそりゃ


「こ……小雪ちゃん、ほっぺ大丈夫?」

「気にしないでください。いわゆるドメスティックバイオレンスという奴です。裁判したら私が勝ちます。」

「ご……ゴメンね……お姉ちゃん……」


 友香と多香子は笑い飛ばしてくれます。

「あははは!平成も終わろうという時に……昭和のレディース?あははは!」

「もう片っ方も殴っちゃえ小雪!その方がバランスいいよ!」

 お姉ちゃんが「悪党だけが笑っている‼こんな時代が気に入らねぇ‼」と謎の単語を叫びながら友香と多香子の秘孔を突こうとしたので、必死に止めました。


「あはっ」

 結局笑ってしまいました。

 みんなもつられて笑っちゃってます。

 私の腫れた目とお姉ちゃんの腫れたほっぺた以外は元通り



 つまり

 まあ、そういう事です。

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