昼休みの私たち
薄く広く
昼休みのチャイムが鳴ると同時に私はすぐに席を立った。『お昼一緒に食べよ』という言葉をかけられないようにする為だ。私は学校に来る途中のコンビニで買っておいたお昼ご飯を持って、まっすぐユイを迎えに行った。
授業を終えた先生が出てくるのを待って、出入り口に立って彼女を呼んだ。
「ユイー」
周りの子たちに教えられて、ユイはやっとこちらに気がづいた。私が手招きすると、彼女は他の生徒にぶつかりそうになりながら、フラフラと歩いてきた。初めて
近くまで来て、私は彼女が手ぶらな事に気がついた。
「お昼は?」
「あっ…買ってない……」
「そんなことだろうと思った」
私は用意しておいたユイの分の調理パンと牛乳の入ったビニール袋を渡してあげた。
「ありがと…」
「こういうの、あんまり忘れちゃ駄目だよ。じゃあ行こっか」
私たちはお昼休みをできるだけ二人きりになれる場所で過ごす。だいたいは体育館の裏。でもたまに
今日は先客は居なかった。私たちは体育館裏の冷んやりとしたコンクリートの上に並んでひざを抱えた。すぐ
「二年C組、
「…え?ユイそれだけ?」
「うん…」
「ちょっと少なくない?それに運動系の部活に入ってる子は優先度低いじゃん」
「あっ…そうだった……こういうの苦手……」
実はユイも私と同じ日にこの学校に転校してきた。でもこの子は情報を仕入れる事に関しては少しばかり要領が悪い。まず第一にしゃべる声に
私はユイに周りの子と仲良くなる為のレクチャーをすることにした。
「基本は三つだよ。笑顔、名前を呼ぶ、
「うん…」
「で、できればボディタッチ」
「でも……触り返されたら…困る」
「それもあるけど。まあ滅多な事じゃバレないと思うし。まずは私を練習台にしてやってみて。ほら」
「うん…」
ユイは口の端だけを上げて笑った。そして私の太ももを見つめ、
「レナ…綺麗だね……」
「うーん、それだと、ただのセクハラおやじかな…。それに話す時は相手の目を見て喋った方がいいよ」
「難しい…」
「あと、褒める時は少し具体的に褒めるといいと思うよ。こんなふうに…」
私はユイの頭を優しく撫でながら言った。
「ユイはこけしみたいで可愛いね」
「あ、ありがと…」
ユイは抱えていた膝の間に顔をキュッとうずめた。
「いや、そこは『せめて日本人形みたいって言ってよ!』って突っ込む所なんだけどね」
「難しい…」
「こういうノリは確かに難しいかも。漫才とかトーク番組見て勉強するしかないね。お笑い好きな子結構多いから、話題を作る上でも役に立つと思うよ」
「うん…」
ユイは優しい子だと思った。まだ知り合って日が浅いけれど、いろんな女の子を見てきたから何となく分かる。相手の気持ちを考え過ぎて、自分の言葉が上手く出せない子。
昼休みが終わる五分前のチャイムが鳴った。渡り廊下を走っていく上履きの足音が聞こえる。
ユイは少し
ユイが私の肩に体を預けながら言った。
「レナは…いろんな人と仲良くできて…すごいね……」
「練習したからだよ…」
「私にも…できるかな?」
「できるよ、きっと…」
ユイが私の胸に顔をうずめてきた。その小さな体を抱いて、頭をそっと
それから私たちは持ってきたお昼ご飯をそのままゴミ箱に捨てて、それぞれの教室へ戻っていった。
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