十七歳のドール
倉田京
私はドールを探している
私は窓から差し込む日の光で暖かくなった机の
私は自分の知らない場所に飛び込む時は、色んなものを触って確かめ、その空間に自分を
この女子校に転校てきてもうすぐ一ヶ月が経つ。私は
情報は命だ。そう教えられた。
二時間目の数学の授業が終わり、休み時間になった。教室が移動にならないので、みんな思い思いの過ごし方をしている。女子校の休み時間は意外と騒がしい。
私は前の席に座っているミサキの背中を指でつついた。彼女は友達第一号。プリントが配られた時などに、振り返りながらこの学校について色々教えてくれた。
ミサキはちょっと大人っぽい雰囲気の子、そして無類の雑誌好き。この時間は大抵、肘をついてファッション系の雑誌を読んでいる。
ミサキが振り返った。
「なに?レナ」
「ねえ、ミサキはもうそれ読み終わった?」
「だいたい読んだよ」
「じゃあ私のと交換しない?」
「いいよいいよ」
私は笑顔を作って、テレビ番組の雑誌を彼女に手渡した。
私はよくこうやってクラスメイトと
コミュニケーションを取る事でしか手に入らないものがある。人間関係やクラスの中での立ち位置といったものだ。それらに加えて、私が今最も欲しいもの、それは情報だ。それもこの学校に通う子達の生の言葉。
物には持ち主の言葉が刻まれる。ミサキからもらった雑誌にも、開き癖や折り目といった彼女だけの言葉が隠れている。彼女の最近の興味は髪にあると私は読んだ。
私は机に身を乗り出し、肩の位置で
「ミサキの髪型、大人っぽくて素敵だね」
「え、何?どうしたの急に?」
「んー、後ろで見てて、なんとなくそう思っただけ。ねえ、どうやってセットしてるの?」
「えーっとね…あ、そうだ!いい事教えてあげる……」
彼女は
私はこうやって情報を引き出している。
私は授業はあまり真剣に聞いていない。必要最低限の内容だけを頭に入れて、あとは周りの子の観察に時間を充てている。真剣に黒板の文字や図形を書き取っている子もいれば、隠れてコソコソ誰かと携帯でやりとりしている子もいる。よく観察していれば、その子の好き嫌いや考えていることは行動や仕草に現れる。私は目でそれを丁寧にすくい取る。そして、その子と仲良くなる為の話題を考える。
マイ、数学超得意、他の教科は全部苦手。社会科のN先生を本気で嫌っている。
サナエ、こっそりスポーツ漫画のキャラの絵を描いている。時々ポエムも。
ヨシコ、けっこう大きな悩みを抱えている、多分部活の後輩絡み。
私の本番は授業の合間の休み時間と放課後だ。手に入れた情報と考えた話題で、できるだけ多くの子と話をする。そうやってアメーバのように触手を伸ばし、女の子同士のネットワークを作っていく。この女子校は生徒がかなり多い。私がいる二年だけでもクラスはAからNまで十四もある。一年や三年の子とも知り合いになるとなれば、結構な労力が必要になる。
だから私は部活に入らないし、勉強も追試や補習にならない程度にしかやらない。私にはこの学校で何か良い成績を残す事は求められていない。卒業したその先についても、求められていない。
私はある女の子を探している。『ドール』と呼ばれる、普通とはちょっと変わった子。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます