変わった子
『変わっている』という事は人と関係を作る上で時に重要だ。でも度が過ぎると逆効果になって、自分の居場所を失う原因にもなってしまう。人は皆、変な事に興味があり、変な物を見つけ出そうとアンテナを立てているからだ。
私は
逆にユイと過ごす昼休みの行動は、あまり人には見られたくなかった。私とユイはちょっと変な子だからだ。
二年N組の
午後の休み時間、クラスの中でも割と情報通な子の何人かと、机を囲んでいた時のことだ。最近産休に入った先生についての話が終わり、次の話題を待つような軽い沈黙が生まれていた。私は自分の髪を少し触りながら『この学校に変わった子っているかな?手相占ってみたいんだけど』と小石を投げてみた。すると
「うーん、あの子は何て言ったらいいのかなー。動物で例えたらナマケモノ…みたいな感じ」
「ああ、確かに分かるけど、それ言い方ひどくない?」
「だってそうとしか言えないし」
「それって、顔がナマケモノに似てるってこと?」
「違う違う。
「授業中ずっと寝てたり、サボったりしてるとか?」
「いやそこは全然真面目らしいよ。私もあんまり見た事ないんだけど、何ていうか、動きがスローなんだよね」
「そうそう、
「分かる。そのイメージ一番近いかも。アン姫」
「プリンセス・アン」
私がいるA組とその子がいるN組は、校舎がまったく別になっていた。その為、顔を合わせる機会が無く、噂を耳にするまで私は
さらに話を聞いてみると、アンは余命を宣告されるほどの重い病気にかかってたらしい事が分かった。一年の頃の出席日数はほぼゼロ。しかし最近、突然病状が回復し、学校に通えるようになったらしい。病後の為か体育などの授業は全て見学。
噂には必ず尾ひれついて水増しされるので、どこまで本当かは分からなかったが、興味深い情報だった。
病からの突然の回復、そして普通の子とはちょっと変わった立ち振る舞い。私は橘アンに興味が湧いた。
私はいきなり彼女に近づくのではなく、遠巻きに様子を観察したい思った。そこでまずはN組に友達を作った。そしてその子に会いに行くという名目で
一目見て私はすぐに
他の生徒は力強い油絵で描かれているのに対して、アンは水をたっぷり含んだ水彩画で描かれているような印象だった。
私は彼女のいる教室に足を運び続けた。アンは滅多に席を立つ事が無く、クラスメイトとの会話はいつも一言二言で終わっていた。そして彼女は本当にゆっくりと動く女の子だった。人とぶつかりそうな曲がり角では、更に安全を確かめるように足を進めていた。階段の手すりにはしっかりと手を添えて、どんな場所も端を選んで歩いていた。時々、彼女以外のものが全て早回しで動いているように錯覚することさえあった。私にはそれが肌が傷つくのをひどく恐れている様子に見えた。
本当は近づかなくてはいけないのに、私はアンに声をかけることができなかった。
他の子たちとは別の時間軸で、ひっそりと生きているような彼女を見守っていたい。そんな特別な気持ちが少しづつ膨らんでいった。
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