第134話君が去ったその後に

 退屈にして忙しない日常に訪れたのは、なんと未来から迷いこんだ曾孫だった。




「もう行ってしまうのか」


「ここは俺のいる時代じゃないからな、世話になったな」




 曾孫は、長居して歴史を変えてしまうことを危惧して……ではなく、ただ早く帰りたいだけだった。聞くところによると、可愛い嫁が待っているらしい。


 ふむ、羨ましいのう。


 いやいや、儂にも10年ほどバカンスに行って帰って来ない奥さんはいるのじゃ。




 城の前で、手のひらに傷付けた血で魔法陣が浮かぶ。




「坊!痛かったろうに、ほれ絆創膏じゃ」


「いらないって、じゃあな」


「せめておやつを持って行け」


「い」




 何か言い掛けて、その姿は見えなくなった。




「い?いるのか、いらんのか、どっちじゃ?!」




 儂は、曾孫のいなくなった淋しさを胸に空中に問い掛けた。


 その問いを、儂は生涯自問自答し続けるのだった。




「寂しいのう……儂は曾孫レス症候群じゃ」




 魔王日誌に、サツマイモの収穫量を記す。今年は豊作だ。


 できることなら曾孫と共に畑という戦場で戦い……芋を掘りたかった。




「魔王様、そんなに寂しがらなくても、あなたにはお子さまがいらっしゃるではないですか」


「だが、別に住まいを分けてるし、会うのは儂の誕生日ぐらいじゃ。それにあやつも既に数百才、もう大人じゃ。可愛がる歳ではない」




「え、ネーデルファウスト様も確か数百才…」




 部下が何か言っておるがよく聞こえなかった。儂は日誌を書きながら独りごちる。




「迷ったなら儂の所に戻ってくれば良いのにのお。やはり曾孫ともなれば、可愛さも子の比じゃないの。食べちゃいたいくらいじゃ」




 ちらりと牙を見せると、傍にいた部下が一歩退く。




「ひいい、魔王様なら、やりかねない」


「何を言っておる……よし、今日の日誌書き終わったぞ」




 10月15日


 くもり




 サツマイモは豊作だ。次はアーノ芋を植えてみようか。


 今日も魔界は、いつもどおりだ。




 儂は、拾った犬を飼い主の元へ送った。無事に戻れただろうか。


 もし飼い主といるなら、たくさん可愛がってもらっていることだろう。


 寂しいが、犬の幸せを願う


 最後までちゃんと飼ってもらえよ








 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る