第79話君の暗黒を愛す3
「……ん、よし勝った」
レイがまだ隣で眠っているのを確認して、私は体を起こした。
いつもは私の方が遅くて、起きたら既に変態レイに舐められていて手とか首とかベタベタにされていることが多かったけれど、今日はまだ無事みたいだ。
大人になったレイの寝顔は貴重だ。朝日の中、長い睫毛が影を落とし、程よい高さの鼻や薄い唇がバランス良く配置されていて見ていて飽きない。
そしてそこに、クロの時には無かった大人の男性の色気とかプラスされて、そのまた上に魔王としての妖しさとか威厳とかがてんこ盛りだ。
そんな色んなものが上乗せされたミルフィーユな新魔王レイさんは、そりゃもう……寝込みを襲うしかないでしょ!
そうっと顔を寄せて頬にキスしてみる。
「んー、ちゅ」
おお!ミッションクリア!
ギル兄に、300年分のお仕事させられていて疲れてるのかな?よく眠ってる。
ではでは、日頃の仕返しに舐めたろ…
投げ出してる腕を取って、肘の辺りを舐めてみる。
ペロペロ
「…………」
今度は耳たぶを舐める。
「………っ」
次は、首かな。
ベローン
「う、ん……」
ベロベロ
「………………………く!」
「ひゃ!」
ガシイッ、と強めに手首を掴まれて、少々息を弾ませたレイが目を開けて私を見た。
「お、おはよー」
「……俺をナメナメするほどには元気になったようだな」
言うと同時にくるりと反転させられて、レイが私を見下ろす立場になってしまった。いつから起きてたのかな……近い!
「レティ……」
「こ、降参です」
魔王の前に生け贄に差し出された気分で、私は潔く負けを認めた。モフリの罪深さを知った私は、素直だった。
「どうした?」
「………いいよ、約束通りモフッてごらん」
「え」
私は俯せになって髪を差し出した。以前レイが、私をモフりたいと言っていたのを覚えていたのだ。
「どうぞ御存分に、ほれほれ」
「………………何か違う」
覚悟して目を瞑っていると、しばらくしてゆっくりとレイの手が私の髪を漉き出した。
髪のもつれをほどくように、丁寧に指が行き来して、私は気持ち良くて、レイの膝に自分から頭を乗っけて大人しくしていた。
「……お前の髪は、本当に深い紅色だな」
「えへへ」
私の髪を手に取って、色をしみじみと眺めるレイ。
なかなか無いね、魔王にモフられるなんて。
「はあ、ペットって、こんなに気持ちいいもんなんだね」
「ペット?」
「ん、いや、これからは立場が逆かなあ、なんて」
レイのお父さんの封印を解いて一週間。私は休んでいたけど、元気になったからすることがある。
「レイ、私働きます!」
「え?」
レイがモフリを止めてしまったので、私は起き上がると向かい合うようにちょこんと正座した。その為に早起きしたんだから。
「いや、だって行き場所の無い私を魔界に連れて来てくれて3食おやつ付きだよ?自分の生活費ぐらいは働いて返さなきゃ。だからこれからはレイがご主人様かなあって」
「え……」
レイは、何とも不思議な表情をした。途方に暮れたといった感じが一番近いだろうか。
「掃除、洗濯、何とか料理もするし…秘書とか、魔王様の護衛……とにかく何でも任せて!」
「お前……お前には他にすることが……あるよ?」
目を泳がして、レイは口をパクパクして何か他に言おうとしているみたい。
「何かある?」
「………その」
「…………他に?……モフるぐらいしかできないなあ」
「……それに近いが、そうではなく…」
モジモジ、ゴニョゴニョする新魔王。
思い浮かばないな、何だろう。まあいいや。
私は三指付いてお辞儀した。
「ご主人様、どうぞよろしく」
「ご、ごしゅ?!………ぐはっ」
何で赤くなって悶えるんだろ?ベッドに倒れて、「ご主人様……良い」と呟くレイを放置し、私はすっくと立ち上がった。
「そういうわけだから、行ってきます!ご主人様!」
「はうっ、あ、待てレティ!」
レイの部屋を出て、宛がわれた隣の自室でスリィちゃんから借りたメイド服に着替え、髪をサイドで纏める。
鏡でチェックしてから意気揚々と部屋から出て、スリィちゃんと合流する為に使用人詰所に向かおうとした。
ベッドで倒れていたご主人様は、どうしたかな?
ちらっと後ろを振り返ったら……レイの部屋の戸が少し開いていた。
家政婦は見た!!
その隙間から私をうっとりと見つめ、赤い顔をしてハアハアする変態魔王を!
「ハアハア……いい……いい、レティ……ご主人様って…ハアハア……メイドレティ……やべえ…」
「………ご、ご主人様、着替えて朝食になさいませんか?」
「ハアハア、も、もう一回……」
「………こら魔王、いい加減にしないとお仕置き(モフリ)しますよ!」
「それもイイ……」
…………ダメだ。変態度もボス級か……
私は主人を捨て置いて、その場を去った。
そして1日掃除洗濯料理をして充実した日を過ごした。
でも、何だろう……スリィちゃんは戸惑いの表情をし、ギル兄はイライラと溜め息をついて、レイは切なげに指をくわえて、私をストーカーしていた。
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