第10話君はペット

「はーい、脱ぎ脱ぎしまちょうね。あ、こら暴れない!」


「ギャウ、ワン!!」




 下半身を隠す布を私は引っ張り、クロはそれを押さえて抵抗した。




「もう!臭いからキレイにしよっ?」




 お風呂嫌いなのかな?




 グイッと力を込めると、小さな手から布が離れた。




「ん、あれ?……………オスか」




 固まったクロの下半身をしげしげと確認して、がっかり。


 女の子が良かった。可愛いかったから、まさか男の子だとは思わなかったな。




「……ちぇっ」


「キュウン」




 後ろを向いて項垂れたクロの脇に、気を取り直し手を差し込むと抱き上げた。


 お風呂場の低い椅子に座らせて、クロの頭を洗髪剤でガシガシ洗う。


 それから、スポンジを手に取り、体を念入りに洗う。




「ギャ!?ギャオン!ワオ、ギャオン!」




 大人しくなっていたのに、私がお尻とかその前の可愛いのとか洗い出すと、急に驚いたように暴れだした。




「はいはい、ごめんね。くすぐったいかな?」




 泡を飛び散らせて抵抗するから、私も髪から服から泡だらけだ。


 でも力は私が上だから、何とか全て隅々まで洗い終えた。丁寧に尻尾を毛先まで洗い、最後に顔を優しく洗って湯を流したら、本当に一皮剥けたみたいに、すっきりキレイになった。


 クロの長い睫毛や潤んだ瞳やリンゴのような赤いほっぺたも、よく見えるようになって、ますます可愛さが増した。




「可愛いぃ、マイペット」




 歯をギリギリ噛み締めて、小刻みに震えてるから寒いのかな?


 小さく唸るクロを湯船に浸ける。




「グルル……キャウン?!!」




 小さいから溺れたら大変。びしょびしょになった服を急いで脱いで、私もお風呂に浸かった。




「ああ、あったか」


「………………………」


「ん?どうしたの?」




 目をこれでもかと見開き、クロは湯船の中で立ち竦んでいた。


 そして、まばたきも忘れて私をじっっっっと見ている。




「なあに?おっぱい欲しいの?」




 まだ食事はミルクかな?




 肩まで浸かり、人形のようになったクロを膝に座らせて、後ろから腕を回して支える。




 横向きに座ったクロは、ゆっっくりと慎重に私の胸にほっぺたを寄せてきた。




「ふふ、甘えてくれるの?」




 少しは気を許してくれたのかな?




 既に全身赤くなって、温まったみたいで良かった。




 しばらくお互いにじっとしていたら、私の頬から滴が垂れた。




「あ、れ?」




 ポタリ、ポタリと胸を伝うそれが、クロの頬に到達した。気付いたクロが、不思議そうに顔を上げる前に、私は彼の頭に顔を伏せた。




 今まで抑えていたものが、滴になって私の目から流れ出ていく。




「…うう、ふう、ぐす」


「……グルゥ」


「えぇん、うわああん」


「………………」




 どうしようどうしよう


 私、私、逃げた、皆の期待から、今までの10年から、友達や先生から、聖女の義務や使命から


 裏切っちゃった、嫌われちゃった、信用を失っちゃった、きっと軽蔑されてる




「……ふああ、えぐっ、最低だあ、わだしっ」




 クロの髪を更に私の液体で濡らしながら、きゅっと抱き締める。




「ええん、くろ…くろぉ」


「……ウ…グル」


「せ、責任もって飼うからぁ、だからずっと一緒にいて、ね?うわああん」


「ワ…ワウン?」




 クロが首を横に振ったのは気のせいに違いない。


 きつく抱き締めると、私の胸に嵌まったクロは、満足そうに頬擦りしてきたんだもの。




 きっと私を飼い主と認めてくれたんだ、こんなに嬉しそうに甘えてくれて、私も嬉しい。




「う、ひっく、仲良くしようね、クロ」


「ヘッヘッヘッヘ」




 息が荒いな。ゆでダコみたいになってるから、のぼせたのかな?




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