第3話良いペット見つけました3
銀髪の青い瞳で、黙っていたらおしとやかで可愛く見える翡翠。
ふんっ、と気にくわなさそうに私を見ないでよね。
あんたも、大概残念な子だよ。
「ああ、捕まっちゃった」
後ろで橙が、小声で言ってる。
「深紅、今日の最終選抜試験、自信あるみたいね」
翡翠は、なぜか私だけを見据えて偉そうに腰に手を当ててる。
「まあ、そこそこは…」
落第する自信なら、あるよ。
「私への嫌み?」
「そんなんじゃないわ。ただ事実を」
それよりもさ、朝御飯くらい食べさせてよね。ここの焼き立てパンは、何年食べても飽きない。香ばしくてサクサクでバターが効いてるのよね。私は何も付けない派。
「嫌味な子ね!この前の定期試験の手合わせで、私に勝ったからって!」
「え?まだ気にしてたの?そんなのまぐれだよ。私才能ないからさ」
言葉を反芻して、僅かに口を閉ざした翡翠の前を早足で通り抜けて、無事食堂に到着。
「腹立つ!」
入り口の方で翡翠が叫んで、どっか行った。もうすぐお別れなんだから仲良くしたかったよ。
「……深紅って、凄いよね」
橙が、しみじみと言って首を緩く振る。肩までの赤みのある茶髪がさらさらと動いてる。
「何が?あ、いつものパンがない!ああ、翡翠のせいで遅れた売り切れたあ…」
あと数回しか食せないかもしれないのに、パンが、パンがなあい!
私は名と同じ、腰まである深紅の髪を振り乱し嘆いた。
「パァン……」
「あんた、本当面白いね。才能ないってよく言うわ」
「……何の才能よ。うう…」
見かねた食堂のおばさんが、自分の朝御飯に先に取っていた二つのパンを、そっと私の盆に置いてくれた。
「……おばさん!」
「いいよ、たんと食べな。そして今日の選抜試験、必ず勝つんだよ!」
おばさんが、にかっと元気に笑った。
「ありがとう、おばさん。私、私…」
「遠慮することないって!」
「ワタシ、パン、イリマセン」
「えっ!?」
ぶっ、と橙が吹き出した。いや、だってパンもらったら…ねえ?
「おばさん、私がもらうね!がんばるから、ありがとう!」
橙が、パンを横から取ると、茫然とするおばさんの前から私を引っ張って席に座った。
「あんたはもう少し、人の気持ちを察しようね。まあ、ここに長くいるから世間知らずは否めないよね」
「………私、やらかした?」
よくわからない。翡翠が突っかかってくるのもそのせいらしいけど。
その点、橙は私と同い年だけどしっかりしてる。
彼女は、私より三年ほど遅れてここに来た。
聖女の力。その能力を有する者は稀である。世界中から集められたのに、この学校の生徒は、100人ぐらいしかいない。
力は生まれつき持っているが、その力があるかは学校に上がる7、8歳の時に、簡単な魔道具で調べられる。
大体はそこでスカウトされるのだが、もっと幼い時から聖女の力を発現させる子や、橙のように魔道具が反応しないぐらいだった微量な力が、10歳で爆発的に発現して初めて気付いた子だっている。
男なら神官候補。
女なら聖女候補。
そういえば、同郷で神官候補になった子どうしてるかなあ。
「家族に会いたいな」
「うん」
橙が、ポツリと言ったことに、私は頷く。彼女も同じ気持ちなのか、遠い目をしている。
一ヶ月前のお父さんからの手紙には、お母さんが病気がちで辛そうだと書かれてあった。
会いたいな。
一人っ子の私を見送った時の、二人の泣き顔は今も目蓋に浮かんで忘れられない。
「早く試験終わらないかな」
「すぐだよ」
そう言ってくれる橙に笑いかけて、私は持ってきた紙をテーブルに置いた。
「でも、よくわからないよね」
紙には、最終選抜試験の概要が記されていた。
「試験内容は、たった一つ」
「ふむふむ」
私は相槌を打ちながら、彼女からパンを一つもらって食べていた。
どうせ合格する気ないしね。他人事みたいだ。
「内容は、上級魔族の結界を破ること?場所は直前まで……マル秘?」
「ま、行けばわかるよ」
時計を見たら、試験まであと一時間だった。
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