昔話 蛇神様と蛙達⑦
なんとか蛙達と良太郎くんは誰にも見つからず、龍澄川まで到着しました。仲間を探して岸を見回すと、仲間達は少し離れた場所で震えていました。彼らの中心には1人の男が立っていました。
男の髪は澄んだ川の水の色と同じ、透き通った水色でした。足こそ人間と同じように2本生えていましたが、顔は蛇のような顔で、足には所々、白い蛇の鱗のような物がくっついていました。
「へびだ!」
「へびがにんげんにばけてきた!」
「こんどこそおしまいだー!」
「たべられるー!」
「へびがみさま、やくそくまもれなくてごめんなさーい!」
5匹は男が蛇だと思い、悲鳴を上げました。すると男が5匹の元へ歩み寄ってきました。5匹は怖くて動けません。良太郎くんも男に見覚えがないのか、怯えています。
しかし男は穏やかに話しかけてきました。
「やぁ。君達は清竜川の蛙達だね?」
「そうですが……あなた、だれですか?」
「私はこの
「わかりました」
5匹は頷くと、川で待たせていた仲間を呼び寄せ、「ぼくらがはなししてるあいだ、りょーたろーくんとあそんでてほしい」と頼みました。仲間達は良太郎くんを気に入ったようで、「わかった」「がってん」と良太郎くんの手を引いて5匹から離れていきました。
良太郎くんは不安そうでしたが、仲間達が「なにする?」「すもうする?」「およぐ?」「おさかなすき?」と話しかけていくうちに、次第に打ち解けていきました。
良太郎くんと仲間を見送り、残された5匹は
「さて、お仲間からも聞いたけど、君達は清竜川の蛇神のおかげでその姿になったんだったね?」
「そーです」
「おかげでぶじ、ここまでこれた」
「へび、にげてった」
「ちょろい」
「かんしゃ、かんしゃ」
蟒は「なるほど」と頷き、続けて質問しました。
「彼女は君達をその姿にする代わりに、何かを頼んできたのではないかな? 例えば、里から子供を連れ出してこい、とか」
「ぎくっ!」
5匹はあからさまに動揺しました。それきり、口を閉ざしてしまいましたが、察しの良い蟒にはそれで充分でした。
「彼女の名は
5匹は蛇神様がそんなことをしていたとは知らず、驚きました。同時に、なぜ子供を連れてくるよう言われたのか分かってしまい、ショックを受けました。
「へびがみさま、そんなことしてたなんて」
「がっかり」
「しんじてたのに」
「わるいかみさまだった」
「でも、なんでかわのかみさま、にんげんたべちゃいけないの?」
1匹の質問に、男は真剣な眼差しで答えました。
「川が濁ってしまうからさ。川と神は一心同体……神が濁った物を喰べれば、同じように川も濁ってしまう。このまま蛟が人間の肉を喰べ続けば、清竜川は如何なる生き物も住めない、毒の川と化してしまうだろう。川をそんな状態にしたら、妹もただでは済まされない。最悪、処刑されてしまうかもしれない」
「しょ、しょけー!」
「そんなー!」
自分達が住む川の神様が処刑されると聞き、5匹は衝撃を受けました。あまりのショックに1匹は気絶し、その場でひっくり返ってしまいました。
「濁った川には、獰猛な蛇達が住み着く。君達が住処を移すことになったのも、全ては妹の責任だ。妹に代わり、私が謝罪しよう。すまなかった」
そう言うと蟒は深々と頭を下げました。気絶していない4匹は混乱し、あたふたとしています。
「あ、あたまあげてください!」
「ぼくら、かみさまうらんだりしてない!」
「むしろ、にんげんにしてくれてかんしゃしてる!」
「そう! かんしゃかんしゃ!」
蛙達に言われて、蟒は頭を上げました。
「……いい子達だね。蛟も君達の純心さに気づいてくれるといいんだが」
蟒はひっくり返っている蛙以外の4匹に言いました。
「蛟が人の肉を喰わなくなれば、清竜川は元の清らかな川に戻る。そうなれば君達も元の住処へ帰れるだろう。そのためには、君達の協力が必要不可欠だ」
4匹は力強く頷きました。
「まかせて!」
「ぼくら、せーりゅーがわのためならがんばる!」
「ここにいないみんなも、おなじきもち」
「みずちさまも、うわばみさまも、たすけたい!」
心強い返事に、蟒は「ありがとう」と温かく微笑みました。
しかし、一度人間の血肉の味を知った蛇神様の味覚を簡単に変えられるとは思えません。そのことは蛙達も分かっていました。
「でも、どーやってへびがみのみずちさま、こーせーさせるです?」
「すきなたべものって、かえるのたいへん」
「ぼくも、あしたからくさだけねっていわれたら、ぜったいむり」
「にんげんいないとこで、くらす?」
不安そうに見上げてくる彼らに、蟒は「大丈夫」と断言しました。
「君達は私を蛟のところへ導くだけでいい。あとは私に任せなさい」
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