昔話 蛇神様と蛙達⑥

 少年の名は良太郎と言い、いつも屋敷の裏で1人で遊んでいました。

 蛙達はおじさんと別れた後、さっそく良太郎がいる大川家の屋敷の裏へ行きました。屋敷は周りを塀で囲まれているわけではなかったので、簡単にたどり着きました。

 そこにはおじさんが言っていた通りの、太っちょの子供がいました。着物の上からでも分かるほど、パンパンに膨れています。子供は1人で木の枝を使って、地面に絵を描いていました。

「こんにちは」

 蛙の1匹が挨拶をすると、太っちょの子供は「ひぇえっ?!」と飛び上がりました。どうやら蛙達がいたことに気づいていなかったようです。

 子供は信じられない物を見たような目で蛙達を見ていましたが、しばらくすると状況が分かってきたのか、ぺこりとお辞儀をしました。

「こ、こんにちは」

 子供はおどおどした様子で挨拶してきました。今まで人間に怯えていた蛙達は「この人間なら連れ出せるかも」と自信を持ちました。

「きみが、りょーたろーくん?」

「そうだけど……君達は誰?」

「ぼくら、ほかのむらからきた」

「他の村って、どこの?」

「せーりゅーがわってかわのちかく」

「清竜川? あの辺りに村なんてあったかなぁ……?」

 良太郎くんは首を傾げました。しかし、他所の土地から来た蛙達が自分に声をかけてきた理由の方が気になりました。

「それで、君達は僕に何か用でもあるの? お父様なら明日までお仕事でいないよ。お父様に用があるなら、出直してきた方がいいよ」

「ううん。ぼくたち、きみにようがあるんだ」

 それを聞いて、良太郎くんは驚きました。

「僕に?」

「そう。ぼくたち、あたらしいともだちがほしいんだ」

「いつもおなじこばっかりだから、しんせんみにかける」

「それで、ともだちをさがしにきた」

「まるくてころころした、かわいいこども、さがしにきた」

「りょーたろーくん、ぼくたちのりそーのおともだち。だからいっしょにあそぼう!」

 蛙達は無邪気に良太郎くんを周りをぴょんぴょん跳ねました。すると良太郎くんはぽろぽろと泣き出しました。

 それを見て蛙達はびっくりしました。

「ど、どしたの?」

「おなかいたい?」

「おなかすいた?」

「けがした?」

「おとな、よぶ?」

 慌てふためく蛙達に、良太郎くんは「違うんだ」と首を振りました。

「今まで誰からも遊びに誘われたこと、なかったから……近所のおじちゃんはよく魚釣りに誘ってくれるけど、子供じゃないし……嬉しかったんだ」

 蛙達は嬉しそうに笑う良太郎くんを見て心苦しくなりました。本当に彼を蛇神様の元へ連れて行っていいものか悩みました。

 そこで5匹は、良太郎くんを仲間達が待つ龍澄川へ連れて行くことにしました。

「じゃあいっしょにかわ、いこう」

「うん! 行こう行こう!」

「かくれんぼしながらいこうよ」

「ぼくらいがいのひとにみつからないよう、かくれながらいくんだ」

「それ、面白い!」

 蛙達は良太郎を連れ出す姿を他の里の人に見つからないよう、人気のない林を抜けて川へ向かいました。

 良太郎くんは何の疑いもなく蛙達の手と手を握り、嬉しそうについてきました。

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