昔話 蛇神様と蛙達②
そんな日々が続いたある日、いつものように蛙達がお互いの体を舐めていると、1人の女が近づいてきました。
蛙達はすぐに女の気配に気づき、草むらのかげでジッとしていましたが、女は蛙達の前でかがみ、話しかけてきました。
「ごきげんよう、小さき者達」
女には足がなく、代わりに蛇の尾が生えていました。よく見ると、顔も蛇に似ています。
天敵と同じ姿の女を見て、蛙達は「ゲロゲローッ!」と悲鳴を上げました。逃げたいのに、恐怖で体が固まって動けません。
「ゲロ!(へびだ!)」
「ゲロゲロゲロリ!(へびがにんげんに、ばけてきた!)」
「ゲゲロー!(もうおしまいだー!)」
「誰が蛇よ」
女は不愉快そうに眉をひそめました。しかしすぐに笑みを浮かべると、蛙達に優しく話しかけてきました。
「私は清竜川の主の蛇神よ。そこらの下等な蛇どもと一緒にしないでくれる?」
「……ケロリ?(ほんとですか?)」
川の神様と聞き、固まっていた蛙の1匹が恐る恐る尋ねました。
川の神様とは、川に住まう全ての生き物に等しく恵みを与えて下さる神様です。生涯を川のほとりで暮らす蛙達にとっては、最も有難い存在でした。
女は蛙の質問に頷きました。
「本当よ。今日は貴方達にお願いがあって来たの」
そう言うと女、もとい蛇神様は蛙達に向かって手をかざし、念を送りました。
すると、ちっぽけだった蛙達の姿はみるみる大きく、白くなり、やがて愛らしいおべべを着た幼い人間の子供に変わっていました。顔は蛙に似ていましたが、どこからどう見ても人間です。
「わー! なにこれ!」
「いろ、みどりじゃなくなってる!」
「こえもゲロゲロじゃない!」
人間の子供に変わった蛙達が興奮する中、蛇神様は蛙達に言い聞かせました。
「その姿なら、蛇達がいる清竜川も渡れるはずよ。アイツらは人間が苦手だから。その代わり、新しい川に着いたら、近くにある里から人間の子供を連れ出してきて欲しいの」
「にんげんの、こども?」
蛙達が首を傾げると「そうよ」と蛇神様は金色の目を爛々と輝かせ、頷きました。
「出来るだけ、たくさん。特に丸々肥えた太っちょの子供がいいわ。私は里の外にある水車小屋で待っているから」
「ほー?」
何故、蛇神様は人間の子供を所望しているのだろう? そう蛙達は不思議に思いましたが、「自分達を人間に変えて下さった蛇神様の力になりたい」という気持ちの方が勝り、力強く頷きました。
「りょーかいです!」
「にんげんのこども、つれてくるです!」
「へびがみさま、まっててー!」
素直で健気な蛙達に、蛇神様は満足気に微笑みました。
「えぇ。待っておりますよ」
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