昔話 蛇神様と蛙達①

昔々、「清竜せいりゅう川」という小さな川に、これまた小さな蛙達が住んでいました。蛙達は幼い頃に親蛙を亡くしていましたので、どこへ行くにも兄弟一緒でした。

川の近くには天敵の蛇も人間も住んでおらず、蛙達は毎日のんびり暮らしていました。

しかしある朝、蛙達が目を覚ますと、川の水が赤黒く濁っていました。まるで血のように不気味な色で、臭いも血そのものでした。

「ゲロゲロッ!(きもちわるっ!)」

「ゲロゲロゲー?(かわかみのほうで、なにかあったのかな?)」

 蛙達は川に入るのを嫌がり、体を潤す時以外は岸で1日を過ごすようになりました。

 しかし悲劇は続きました。川が濁った次の日、清竜川へ大量の蛇達が押し寄せてきたのです。

 小さな蛙達にはどうすることも出来ず、あっという間に清竜川を占拠されてしまいました。

「シャーッ!(今日からここは俺達の縄張りだ! もし、1匹でも入ってきたら、全員食ってやる!)」

「ゲロー!(ひぇー!)」

「ゲロゲロー!(おたすけー!)」

住処を追われた蛙達は、川から離れた草むらの中で途方に暮れていました。

今は夏。日差しは強く、暫く雨が降る気配はありません。このままでは干からびてしまいます。

しかし別の川へ引っ越そうにも、1番近い龍澄りゅうすみ川は清竜川の対岸にあります。蛙達はお互いの体を舐めて潤いを保ちながら、この先どうすればいいのか悩んでいました。



 


しかし動揺のあまり、1匹がうっかり本当のことを口にしてしまいました。

「はぷっ!」

他の蛙達に注目される中、口を滑らせた蛙は慌てて自分の口を押さえました。

しかし蟒にはちゃんと聞かれていました。

「それで? 何処へ持って来いと言われたのかな?」

蟒の目は蛇と同じように黄色く、縦長の瞳孔でした。

口を滑らせた蛙は、まるで蛇に睨まれているかのような感覚に襲われ、震えながら口から手を離しました。

「……さとのそとでまってる、いってたです」

なおもじっと見つめてくる蟒に、蛙達は「このまま食べられてしまうのでは?」と恐怖からワナワナと震えていました。

「そうか。教えてくれてありがとう」

すると蛙達の予想に反し、男は穏やかに微笑むと、口を滑らせた蛙の頭を撫でました。

虚をつかれた蛙達は口をポカンと半開きにし、呆然と立ち尽くしました。

そんな彼らの姿に、男は「そうしていると本物の蛙みたいだ」と吹き出しつつ、蛇神様について話し出しました。


蛟みずち

蟒うわばみ

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