しょーきょほー

 天に送る子供には、その時までに好きな場所を聞いておく。そして、告げられた場所を、子ども達の最後の場所にする。それが餞だと思っている。多くの子どもは「家」や「遊園地」、「公園」といったよう答えが多かった。月子は、どんな場所を答えるのだろうか。少し気になった。

 「私、ここが好きかな」

 拍子抜けした。そのような答えが返ってくるとは思わなかった。

 「何で、ここが好きなの」

 思わず問い返してしまった。

 「んー。しょーきょほー? かな。家も公園も怖いし、他の場所はよくわからない。行ったことがないから」

 「なるほどね」

 納得した。やっぱり、生きることはそんなに幸福ではないのかもしれないと思った。しょーきょほー、という不慣れな言葉を口にした月子の声を反芻する。そういえば、生きていると消去法ばかりだな、と苦く笑った。

 「また、いろんなところに連れていくよ」

 それほど時間はない。つまらない嘘をついてしまったな、と思った。

 「ありがとう」

 少しだけ嬉しそうな声だった。月子は本に、自分はパソコンに、それぞれに向き合い始める。セレナがナア、と鳴いて月子の足元で丸くなった。この時間が、嫌いじゃない。


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