エピローグ
インスタントコーヒーの粉末をティースプーン十杯。お湯を注いで、そこに氷を一つ。私が摂取する水分は殆どがこれだ。妹に言わせてみれば“泥水”だそうだが、全く痺れる奴である。実の妹でなければ今頃蹴りの一つでも入れている。
──締め切ったカーテンに背を向けて佇むそれは、凡庸を煮て固めたような部屋の中でただ一つ存在感を放っていた。
コンタクトレンズに映るそれ。妹を魅了してやまない、世界に二つとない愛の形。
──あほらし。
カップを片手に、空の手でスマホを操作する。
私はこんな表面上の物になど興味無い。禁断の愛だの秘密だのなんてナセンスだ。七回目のコールが真ん中で途切れて、『はい。……先生?』鈴を転がしたような可憐な声が続く。
「あぁ、市橋か。そう、渡したいものがあるんだ。……え? あー……うん、クリスマスプレゼント、かな」
他愛もない会話を愉しみながら、一生偽物を抱いて眠る妹のことを想うと涙が出た。伝い落ちた雫を受け入れた黒が波紋を作る。
「あぁ、風邪引かないようにな。じゃあ、また明日」
カップの中身を流し台にぶち撒けて、また新たにコーヒーを淹れるべくボトルを手に取った。
ひめごと 穂月うさぎ @I_love_it
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