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 それからは、気が進まない様子の先輩を言葉の数だけで言いくるめ、ほとんど自分の意見を押し切る形でペンキを手に取った。

 ──色なんか、何色でも良かったのに。

「どれにします?」

 なんて、何色でも良いですよね。続けようとした私の口は、「じゃあ、白」と迷い無く答えた先輩の声を受けたことにより“あ”の形で留まることとなった。

「──即答じゃないですか。好きなんですか」

 だとしたら初耳だ。

「なんとなく……」

「本当に?」

「……玲奈の名字が白鳥だから」

 聞いて一瞬言葉を失った。

「……玲奈?」

「あ……え、なんかそれダイイングメッセージみたいじゃないですか。先輩、犯人が私ってこっそりバラす心算です?」

「そ、そんなつもりじゃ……ごめん。何色でも良いよ」

「んー……いや、やっぱり白にしましょう」

「え? でも」

「大丈夫ですってば。じゃあ、塗りますね」

 気付いてしまったのだ。先輩が思う、私を連想させる色で塗り潰すなんて。二人と、生まれることのない命が描かれた世界。そこに異端子ではあれど参加できるなんて。

 なんて素晴らしいことだろう。




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