(2)

 薄い膜の内側が暴かれることとなったのは、更に一週間が経過した頃だった。

「先輩、由紀子先輩」

「ぐぁ」

「あのね、長谷川が、っ……あいつ、剥がしやがった」

 放課後、教室からほんの数歩足を進めたところで不意に背後から襟首を掴まれた。驚いて振り向いた先には、私の襟を引っ張ったまま苦々しい表情を湛えた玲奈がそこにいた。肩で息をして余程急いで知らせに来てくれたらしい。何はともあれ首元が苦しいので早急に放して頂きたいのだが。そんなことを思っていたら願いが通じたのか、「あ、ごめんなさい」と早々締め付けから解放された。

「え……れ、玲奈、どうしよう。どうし……あ、絵は、ねぇ、絵は今どこに」

「落ち着いて下さい」

 結果的に玲奈が危惧していた通りとなってしまった。楽観的な考えは総じて良い結果を生まないものだ。

「どうし……やっぱり、今からでも捨てたほうがいいかな」

 玲奈はどう思う? 舌に乗せかけた言葉は唇の中で留まった。玲奈、……玲奈、どうして。

「──玲奈」

 どうして貴方がそんな顔をするの。

「ねぇ」

 どうして。

「れい──」

「大丈夫です」

「え?」

「私がまた塗り潰せば良いんです」

 全部私に任せて下さい。両手を取って力強く握る玲奈の瞳が余りに真っ直ぐだったから、私は一も二もなく「うん」と頷いたのだった。




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