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 ──美術部部長の描いた絵が、何者かによってペンキで白く塗り潰されたらしい。

 一週間もすれば、その噂は知る人ぞ知るところとなった。

「どうするんです? それ」

「まだ……決めてない」

 後輩の問いに対し、曖昧に答えた由紀子は目の前にあるそれの表面へと躊躇いなく指を触れさせた。「このままじゃ、玲奈は嫌かな」

 少女らの視線の先──件のキャンバスは、塗料で出来た薄い膜に包まれていた。

 不気味なほど白いそれはよく見るとキャンバスの側面まで塗り潰されていて、余程念入りに施された所業であると見て取れる。

 手入れのされた由紀子の爪につつかれたペンキはかつかつと冷たい音を返した。

「このままここに置いてたら、いつか誰かが剥がしに来るかも……とか、思いません?」

「まさか。……まぁ、ちょっとは考えたけど。そんな物好きいるかなぁ」

 玲奈の言うことは最もだ。不安要素は無いに越したことないだろう。分かってはいる。けれど──これを今家に持ち帰るのは、どうしても抵抗がある。

 名残り惜しそうにまた一度、二度と白を撫でる由紀子の指を、玲奈は感情の読み取れない昏い瞳でじっと見つめていた。




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