第四章 現世編―芙蓉の巻再び―

登場人物《随時更新》

京野舞きょうのまい

「結城君は私が守る……司、お願い、力を貸して……!」

誕生日 7月11日  血液型 A型

主人公。市立桜花おうか中学校二年生。

幼馴染を失ったことをきっかけに前世の姿である京姫に変身し、四神たちとともに前世の宿敵と戦うことになる。

幼馴染の結城司に想いを寄せていたが、漆の手先に襲撃され司を失う。その日、再び目覚めた舞は、同じ名と容貌でありながら別人のように豹変した司と出会う。紆余曲折を経てやがて新しい司に心惹かれていくが、京姫として戦っていたことを隠していたために不信感を抱かれ、関係は決裂。司とは前世でも縁があったことを知った舞は、前世の記憶を取り戻す決意をするが……

茶色のショートヘアに翡翠色の瞳を持ち、小柄で華奢な体格。かわいらしい容姿と明るく優しい性格のためひろく人に愛される。年相応にわがままを言ったり甘えたりすることもあるが、その胸の奥に凛とした強さを持つ。



京姫みやこひめ

「どうして私は京姫なんだろう」

舞が変身した姿でもあり、また前世の姿である。

京姫とは玉藻国たまものくにの京を守護する巫女の名前であり、代々霊力の高い乙女が受け継いできた。変身時には桜色を基調とした衣裳に変わり、また髪がショートヘアからウェーブのかかったロングヘアになる。「桜吹雪」や「桜人さくらひと」といった技を繰り出し、桜の花の力を用いて戦う。

前世では純潔を守らねばならぬ身でありながら、生い立ちの孤独さゆえに紫蘭の君と共鳴しあい、恋に落ちてしまう。やがて紫蘭の君とともに京を出奔するが紫蘭に突き放され、帰京。姫の出奔をねらって京を襲撃してきた漆と戦い封印するも、姫の罪を知った京の人々によって処刑される。




結城司ゆうきつかさ

「……僕は一体誰なんだ?」

誕生日 6月11日 血液型 A型

舞の幼馴染。頭脳明晰、運動神経も抜群で、誰にでも思いやりの心が深い非の打ちどころのない優等生。舞に想いを寄せられており、司の方でも舞に対してなにかしらの想いを抱いていたようであったが、ある日突然下校途中に襲撃してきた怪物から舞を庇って命を落とす。

その後、冷酷で孤独な転校生として舞の前に姿を現し、舞にも心ない態度で接するが、実は舞と幼馴染であったことは発覚し互いに打ち解けていく。しかし、あることをきっかけに関係が決裂してしまい……黒いつややかな髪に薄紫色の瞳を持つ美少年。趣味は洋書を読むこと。



六条紫蘭ろくじょうしらん

「わたくしのことはご心配なく。一人でも生きていけますから」

司の前世の姿。人々からは「紫蘭の君」と呼ばれていた。

松枝帝の四の宮であったが、母親の身分の低さを理由に臣下に降り六条の姓を賜る。母は紫蘭を生んで間もなく亡くなり、父帝に構われることも少なく、孤独のうちに幼少期を過ごす。

やがて類まれなる美青年に成長するも心の奥で育てた孤独が消えゆくことはなく、ただ失った皇位の代わりに出世への野心を燃やして生きていた。そんな折、京姫と奇蹟的な邂逅を果たし、姫に深く想われることとなる。当初は姫の想いに当惑していたが、無実の罪により京を追われることとなり、姫を連れて出奔。深く結ばれあったかに見えたが、帰るべき場所を持つ姫を最終的には冷たく突き放した。その後は……?




【四神たち】

青木翼あおきつばさ

「あたし、この町を守るためになら戦う」

誕生日 5月7日 血液型 O型

舞のクラスメイト。四神の一人、青龍の生まれ変わり。

藍色の髪のツインテールに水色のリボンを結んでいる。瞳の色は青。学級委員をも務める真面目で成績優秀な少女。警察一家のなかで育ったせいか、正義感も人一倍強く、気が強い。将来の夢はもちろん警察官であり、剣道を元刑事である祖父から習っている。舞との接触を機に四神として覚醒し、町の人を守るために進んで戦いに身を投じた。

幼馴染の東野恭弥に密かに想いを寄せているが、いわゆるツンデレでなかなか素直になれない一面も持つ。



青龍せいりゅう

「正義が水のように世界に流れさえすれば……」

翼の変身した姿。京の東を守る守護神であり、春を司り水を自在に操る能力を持つ。変身時の衣裳は水色を基調としており、羽織と袴姿である。水を用いる技「青海波せいがいは」などの他、日本刀・凍解いてどけを武器として戦う。

前世では京姫のめのと子であり、姫とは姉妹のように育った。東宮との身分違いの恋に苦しんでいたが、やがて東宮は無実の罪を疑われて命を落とす。京を襲撃してきた漆との一騎打ちに敗れ、駆け過ぎるように生涯を閉じた。




黒田奈々くろだなな

「あっ、ごっめーん。あたし、いっつもこうなんだよね」

誕生日 12月30日 血液型 AB型

桜花中学三年生。四神の一人、玄武の生まれ変わり。

天然かつマイペースな性格で、人(主に翼)を振り回すことにかけては誰も及ばない。絵を描くことが好きで画家として活動を始めており、その腕を認められつつある他、アクセサリーのデザインなども得意とする。常に明るく振る舞うが、その非凡さゆえか友人には恵まれていない。黒い髪を少年のように短く切った、マホガニー色の瞳の細身の少女。

表面上の明るさの裏に脆く傷つきやすい一面ももち、四神として覚醒した当初は戦うことを拒んでいた。が、必死に戦う舞と翼の姿を見て自らも戦う決意を固める。

母親違いの兄と血のつながっていない双子の妹たちと弟がおり、特に兄を慕っている。



玄武げんぶ

「あたしがあたしだから、いつも上手くいかないんだ」

奈々の変身した姿。京の北を守る守護神であり、冬を司り草木を自在に操る能力を持つ。衣裳の色は黒。神渡かみわたしという名の弓矢を用いて戦うため、遠距離攻撃が得意。霊力で以って怪我を治癒することもできる。相棒は白い大蛇の木守こまもり

前世では継母にいじめられて過ごす不幸な少女時代を送り、やがて家から追い出されるようにして結婚。年の離れた夫ともすぐに死別し、異母兄の家に身を寄せていたところでを見出される。最初こそ暗い影のある少女であったが、京姫や四神たちと交流するうちに本来の明るい気質を取り戻した。最期は漆に敗れた。




白崎しろさきルカ

「……たとえ神が許そうとも、私は君を許さない」

誕生日 10月14日 血液型 A型

水仙女学院高等部二年生。四神の一人、白虎の生まれ変わり。

日本人の父とロシア人の母を持つ。すらりとした体躯に、長い金色の波打つ髪とアイスグレーの瞳という中性的な美貌を持った、男装の麗人。高級ホテルを経営するShirosakiグループの令嬢であり、学校では生徒会長も務めるなど優秀な生徒。チェロの優れた奏者でもあり、落ち着いた口調と所作の裏に激情家の一面も持つ。

舞たちより先に四神として覚醒し、舞のことを密かに見守ってきた。赤星玲子には前世から深い想いを寄せており、想いの伝わらないことに時に苛立ちを示しながらも変わらぬ愛を貫いている。元の(今も?)恋敵とあって柏木との仲は険悪そのもの。

なぜか家族には「ルイ」と呼ばれている。その理由は……



白虎びゃっこ

「君は何も知らないんだよね、朱雀。それでいい、それでいいんだよ……だからせめて今だけは私を見て」

ルカの変身した姿。京の西を守る守護神であり、秋を司り風と氷とを自在に操る能力を持つ。純白のマントを靡かせた袴姿で戦う。武器は桐一葉きりひとはという名の剣(サーベル)。風や氷の力と剣の技を組み合わせ、意のままに敵を薙ぐ。その技に「松風まつかぜ」や「野分のわき」など。

前世では女の身でありながら男装をして政に携わっていた。一条家の出身であるが、一族は白虎の幼少期に二条家の謀反によって滅ぼされている。襲撃を受け死んだ母の着物の下で震えていたところを朱雀に救われ、それ以来朱雀に対し強い愛情を抱くようになった。幾度か強引に朱雀の唇を奪うも想いは届かぬまま、芙蓉との戦いの果てに命を落とした。




赤星玲子あかぼしれいこ

「お父様、玲子はとても退屈よ……」

誕生日 8月20日 血液型B型

水仙女学院高等部二年生。四神の一人、朱雀の生まれ変わり。

舞と司が怪物に襲われた四月十二日から仮死状態にあり、ルカの元に匿われていた。二ヶ月の眠りを経て目覚めるが、立って歩くことができないために車椅子生活を送っている。理智の勝った少女で滅多に感情を露呈することがないが、京姫のことは深く案じている。紅の長い髪とうるわしい容貌とを持ち、眼鏡をかけている。桜花市長の一人娘で父親にだけは甘えた様子もみせる。いわゆるファザコン。

誰よりも早く覚醒し前世の記憶を取り戻したのち、長いこと舞の様子を見守ってきたという。しかし、変身できぬ身を敵から庇うため仲間との交流を控えていたことが仇となり、舞との間に行き違いが生じてしまう。どうやら舞たちに隠れて司にも接触したもよう。彼女の思惑とは果たして……



朱雀すざく

「逃げなさい……ここはまもなく戦場になる」

玲子は朱雀の生まれ変わりであり、四神としての覚醒も遂げているが変身できずにいる。武器には銃を用いる。

京の南を守る守護神であり、夏を司り炎を自在に操る能力を持つ。前世では松枝帝の女三の宮、すなわち皇女。ものにこだわりのない物静かな女性で、唯一の趣味は父帝に教わった喫煙。皇女ひめみことしての矜持と父帝に甘やかされたがゆえの幼さ、無頓着さを併せ持っていた。

愛する父のために独身を貫き、白虎や柏木から寄せられる愛にも惑うことはなかった。父の急死以降生きる力を失ってしまうが、京の危機にあっては自らを帝と名乗って立ち上がり、京姫を庇って漆と対峙した。




九条門松くじょうかどまつ

「姫様、変身なさるのです!」

前世において京姫に仕えていた左大臣。すでにその肉体は滅び去っているが、舞の覚醒にともない、舞が子供のころから大事にしていたテディベアにその魂だけが乗り移った。京姫の霊力を借りる事で前世の姿に戻る事ができるが、その折には壮健で豪傑な老人の姿となり見事な刀さばきを見せる。口やかましいところがあり、心配性な一面も。口癖は「いやはや」。

前世では外戚政治で権力をほしいままにした九条家の長として君臨していたが、三条家との対立のなかで九条家は次第に力を失っていく。両親のない京姫の後見役を務め、姫を実の娘のようにかわいがっていた。姫と漆の最終決戦まで生き残りその結果を見届けるものの、処刑される姫を救い出すことはかなわなかった。




柏木武かしわぎたける

「お嬢様を守るのは俺だけでいい」

桜花市長の秘書兼玲子のボディガード。背の高い、壮健な肉体をした四十代ごろの男性で常にオールバックに黒スーツ姿。玲子のことは「お嬢様」と呼んでいる。寡黙でいかなる時も冷静沈着な態度を崩さないが、前世での恋敵であるルカに対しては大人げなくも露骨に嫌悪感を示す。

前世では才と野心と幸運により無名からのしあがった叩き上げの右大臣。朱雀の異母姉を正妻として迎えつつも、冷え切った夫婦関係のなかで朱雀に恋い焦がれ続け、真夏の夜の京でついに出会うこととなる。その夜以来、朱雀が置いていった銃を肌身離さず持ち歩き、現世でもなおその銃を使用しているようだが……




【桜花中学校】

佐久間美佳さくまみか

誕生日 9月6日 血液型 B型

舞の小学校時代からの親友。三つ編みに眼鏡という一見おとなしげな出で立ちながら、女子サッカー部のエースで大のサッカー狂い。さばさばした性格で言動がややませていることも。恋愛には興味がないと言い張っているがこのごろ少しあやしい。



東野恭弥ひがしのきょうや

誕生日 2月19日 血液型 AB型

舞のクラスメート。男子サッカー部のキャプテン。翼とは幼馴染で家も隣同士。幼いころは泣き虫でよく翼に守ってもらっていたようだが、その面影はもはやみられず、顔を突き合わしては喧嘩ばかりしている。口調はやや粗暴だが、明るく人懐っこい性格で、司に対して物怖じしない数少ない人物でもある。容姿にも優れているため女子にも人気があるのだとか。実家は「プロムナード」という地元で人気なケーキ屋。



菅野すがの先生

舞たちの所属する2年A組の担任。担当教科は国語。

頭は禿げていて眼鏡をかけた定年間近の先生。陽気な性格で、落語を披露するのが大好き。いい加減な先生とも言われるが、真面目な生徒思いの一面も見せる。趣味は小説を書くこと。その博識と思慮深さにより舞に思わぬ助言を与えることも。




【水仙女学院】

京野きょうのゆかり

誕生日 1月10日 血液型 A型 

舞の実の姉。高校一年生。

性格は妹とは正反対で男まさり。お嬢様学校に通っているとは思えないほどさばさばした、歯に衣着せるということ知らない少女。成績に関してもまた妹とは反対で、全国模試ではいつも十位以内におさまるほどである。

妹からは恐れられており、時に喧嘩もするものの基本的に姉妹仲はよい。



北条院香苗ほうじょういんかなえ

誕生日 4月23日 血液型 О型

高校一年生。ゆかりの親友。

ゆかりの親友とは思えないほど優雅な物腰の少女。薄色の髪を三つ編みにして一つに結っている。一人称は「わたくし」で、お嬢様言葉で話す。生徒会副会長を務めている。先輩であるルカに対して何かしらの思いを抱いている様子だが……



【家族】

京野美禰子きょうのみねこ

舞の母親。専業主婦。おっとりした性格だが怒ると怖いために家族内では一目置かれている。華道と日本舞踊とを嗜む。



京野宗助きょうのそうすけ

舞の父親。会社員。温厚で物静かな性格で、娘たちに関してはあまり干渉しない主義らしいが男女関係には厳しい。骨董趣味があり、芸術愛好家でもある。



結城未沙ゆうきみさ

司の母親。舞の母親とはお互い妊娠中に病院で出会った仲。女手ひとつで息子を育てているが、体が弱く度々通院をしている。息子思いのたおやかな婦人。



黒葛原君人つづらはらきみと

奈々の異母兄。スコットランドに留学をしている穏やかな青年。両親の離婚により離ればなれになってしまった妹を案じている。爬虫類が好きらしい。



白崎しろさきソフィア

ルカの母親。通称ソーニャ。大豪邸の女主人ではあるが、気取りのない天真爛漫な性格のロシア人女性。娘のことを溺愛し、心配し、そして信頼している。



・ドミトリー・ドミトリエヴィチ・パブロフ

ルカの伯父。職業は医者。ソーニャの年の離れた兄にあたり、何らかの事情によって幼少期に国を離れ、その後両親に代わって妹を育て上げた苦労人。姪のルカにはミーチャおじさんと呼ばれており、頼りにされている。



赤星誠治あかぼしせいじ

玲子の父親。桜花市市長。元は国会議員で内閣入りも果たした経歴を持つ。妻とは離婚しており、今や一人娘を甘やかすことに余念がない。市民からの人気は高いらしい。



結城要ゆうきかなめ

司の父親。幼いころの司が交通事故に遭ったことから夫婦関係が悪化し、長いこと妻や息子に会わぬまま今に至るが、ふとしたことをきっかけに息子と再会する。水仙女学院大学に勤める英文学者でもある。



海原島うなばらじま

あさひ

海原島に住む老尼。本名は不明で、島民から旭さまと呼ばれて慕われている。島に八年に一度訪れるという人魚を祀る巫女でもある。翼の祖父の知人との話であるが……





【敵】

うるし

「私はこの国を覆す。神話ごと、な」

前世で京姫と対峙し、京を滅ぼした男。黒い直衣を纏った妖しいほどに美しい若者の姿をとっている。

前世では京姫と紫蘭の出奔をねらったように京を襲撃し、帝を惨殺。死者や魔のものの軍を率いて京を蹂躙し、四神を悉く打ち負かすが、京姫との一騎打ちに敗れ封印される。

その後再び現世に蘇り、京姫への復讐を企むもその真意は謎に包まれている。現在は先の戦いによって負った傷によりまだ力を回復しきれずにおり、刺客を舞に仕向ける。




芙蓉ふよう

「わたくしの手で殺して差し上げる」

漆のしもべ。漆に深く心酔しており、漆のためならばなにごとをも厭わない。

鞭と毒の香を用いて戦い、また、紫色の蝶に変化する力を持つ。十二単を身にまとい、淡い紫色の長い髪をした美しくも残忍な女性。

前世ではその美貌を利用して帝に取り入り、暗躍。やがて帝を惨殺すると、出奔し帰京の道にあった京姫の前に立ちふさがったが、白虎によって倒された。そのために京姫や四神たちのなかでもとりわけ白虎に激しい憎悪の念を抱く。

現世においてよみがえったのち、再び白虎によって倒されたかのように思われたが果たして……




篝火かがりび

「舞お姉ちゃんに幸多からんことを」

螺鈿によって封印を解かれた狐のあやかし。狐の耳と尻尾を生やした銀髪の少年。見かけは七つほどで、言葉やしぐさなどはいかにも子供らしくふるまうものの、古い歴史を持った妖であるらしく、その表情にはどことなく侮れないものが浮かぶこともしばしば。一人称は「ボク」。

芙蓉と契約を交わし、油揚げと「石」をもらう代わりに舞たちに襲いかかった。が、その後、四神たちによって追い詰められ、敵対する意志のないことを伝えて姿を消すが……




華陽かよう

「あー、痛かったですかぁ?」

新たに漆の仲間に加わったと思しき妖しい女。長く波打つ黒髪に褐色の肌を持つ謎の美女で、数々の宝石を身に着けている。時々白い三角耳が頭からのぞくことも。軽薄な口調の端々に底知れぬ残忍さをうかがわせる。犬は苦手らしい。




【前世】

藤枝ふじがえ御方おんかた

前世における、舞の先代の京姫。現世においては漆の手先に襲撃されたあとの舞の夢に現れ、京姫として覚醒するように告げた。舞に戦いに運命を促すとともに、舞の幸せを願っている。前世の京姫の実の母親であるが、それを知っているのはごく限られた人々である。ところで京姫の父親は……?




松枝帝まつがえてい

紫蘭の君と朱雀の父親。三人の后との間に四人の皇子と三人の皇女を儲けた。皇后の死後、一の宮に譲位し松枝上皇と呼ばれるようになる。優れた人柄と才で多くの臣下、民から慕われた偉大な人物。譲位したのちは朱雀と共に暮らし我が子の治世を静かに見守っていたが、ある秋に突如として病に倒れ、ついに帰らぬ人となった。その死は京に大きな動揺を与え、やがて京姫たちに終焉をもたらした。




・帝

松枝帝の三の宮。紫蘭の異母兄で朱雀の異母弟。京姫とともにわずか十二歳で即位した。心穏やかで聡明な方であり、京姫を妹のように愛しかわいがっていた。しかし、芙蓉の蠱惑的な容姿と表向きの清純さに誘惑され、魅了されるうちに、知らず知らずのうちに破滅への道を歩むこととなった。




・東宮(桐蔭宮とういんのみや)

桐生帝の皇子。次の帝となる身分でありながら、九条家の血を引くことから政敵の三条家ににらまれており、その将来は不安視されていた。が、本人は至って明るくふるまい、屈託のない性格のために下々の者に慕われていた。また、紫蘭の唯一の友人でもあった。

三条家により無実の罪に問われ、取り調べと称する拷問の末に若くして死亡。世にその死は自刃と伝わった。誰かに似ているかもしれない……




枳殻からたちの女御

帝に仕えていた后。たおやかな筝の名手。妹の中の君とともに枳殻の姉妹と呼ばれていた。父娘おやこ三人で世を遠ざけて暮らしていたが、父親を亡くした後、その美しさに目をつけた三条家の人々により柏木右大臣の養女にされ、さらには妹を人質に無理やり入内させられる。

その後、帝の御子を懐妊するが、出産を迎えるより早く京が滅ぼされてしまう。我が身と我が子の破滅を見通しつつも、そして京姫を慈しみつつも、最後の后として民の無念を晴らすべく、姫の処刑を命じた高貴なる女人。



【玉藻国神話】

あまつ乙女

玉藻国における創世神。先の世が終わったとき、他の神々が遠く旅立つなかでただ一人この世界に留まられたあまつ神。一人残された乙女の涙が川となり、その川底に玉藻の国が生まれたとされる。玉藻の国の人々に深く信仰されている。




白菊帝しらぎくてい天有明星命あめのありあけぼしのみこと

天つ乙女の御子。父親はなく、天つ乙女がただ、おのれの涙の川に押し流された星々をみて「なんと美しいのだろう」と言われたことにより身ごもった子だとされる。その後、天つ乙女により玉藻の国に降ろされ、四神を征伐し、国を統べる存在となった。天有明星命とは白菊帝として即位される前の天つ神としての名前である。




桜乙女さくらおとめ

玉藻の国の乙女。一本菊ひともとぎくの下に降ろされた白菊帝を見つけ、天つ乙女の命令でまだ赤子だった帝を養育した。その後、帝の成人とともにその妻となり、夫の四神征伐を助けるが、旅の途中で朱雀に食い殺され、命を落としたとされる。




稲城乙女いなきおとめ

桜乙女の妹。白菊帝即位後、皇后となった。悪しき神を崇める黄櫨はぜの一族が反乱を起こした際は、四神を従えて戦いを鎮めた。以後、稲城乙女は醜い禽獣の姿しか持たぬ四神たちに乙女の姿を許し、自らは京姫を名乗って玉藻の国の京を守護する姫巫女となったとされる。




天満月媛命あめのみちつきひめのみこと

月の女神。玉藻の国の人々には死後の世界を司る女神として信仰される。天つ乙女の歔欷によって日の女神とともに涙の川から浮かび上がるも、天つ乙女がその輝きを眩しがったために我が身を恥じて身を隠してしまった。以降、日は昼の世界を、月は夜の世界を分掌して支配することとなったとされる。


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