第二章01 謀略の成否は仕込みが決める
帝国歴二六〇年 紫水晶月(二月)。
ゴシュート族への食糧支援は滞りなく行われ、山の民の中で孤立し、苦境に立たされていたワリドたちは一息を付けた。
その食料支援も公式な書類ではスラト領の巡視で領民から嘆願されたため、追加支援として送った物と処理されている。
実態はゴシュート族の支援だけどね。
おかげで俺専属の諜報組織の隠れ蓑であるマルジェ商会は大改編された。
なぜ大改編されたかと言うと、エルウィン家の指揮下に入ったゴシュート族から、諜報の技に優れた者をマルジェ商会の商会員として雇い入れ、どこにでも派遣される国外班として編成したからだ。
その数、50名。
彼らが加入したことで、情報の精度と確度がさらに上がり、今は『勇者の剣』壊滅作戦に沿って各地で情報収集に励んでもらっている。
集まってくる情報は、『勇者の剣』がどれくらいヤバい組織なのかを伝えているが、俺はアレクサ王国のエゲレア神の元神官なので連中のヤバさを知っている。
まず、教義からしてヤバい。
『勇者の剣』の代表が天空の神ユーテルから神託を受けた勇者だと自称し、『聖戦』に参加して邪神を信奉する国の領民をぶっ殺したり、多額の献金をすれば、来世ではいい人生に生まれ変わると吹聴してるからだ。
死んでからのご利益を声高に訴えられても、聞かされた方は『あんた、それじゃあ、俺はもう死んでますが? 死んだら、そりゃあ俺じゃない』ってなりそうなんだが……。
実際のところ、戦乱によって食うや食わずの地獄のような生活をしてる連中からしてみれば、いっそ死んだ方が楽だと考える層もわりといるのが、この世界。
そんな人たちに、『聖戦』で死ねばいい人生に転生できるって『勇者の剣』の教えは大流行中。
特に俺が生まれたアレクサ王国は、エランシア帝国との戦いが長引き、重税につぐ、重税で農民蜂起も何度も起きてるお国柄ってこともある。
そんな貧富の差が大きいアレクサ王国で、『勇者の剣』がユーテル神の信徒組織として結成され、農民を中心に広がり、たった10年で国内有数の信徒組織にまで膨らんだ。
教義もヤバいが、『勇者の剣』代表となっている神託の勇者君も教義以上にヤバい。
妻帯してるだけでなく、年若い綺麗な女性信徒を自分の側女にしてたり、信徒からの献金を飲酒豪遊に使ったり、王都の不動産を買い漁って自らの資産にしたり、果ては『勇者の剣』の幹部に親族をずらりと並べる俗物ぶりを発揮してくれている。
まぁ、俺も信徒を食い物にする詐欺師をしてくれてるだけなら、アレクサ王国を腐らせるため放置しておくつもりなんだけど、勇者君は『聖戦』を叫び続ける実に面倒な存在。
先頃、馬鹿王子オルグスが企図したエランシア帝国侵攻作戦でも、宗教関係者に甘いとされるアレクサ王を焚き付け『聖戦』として認めさせ、信徒を兵士として動員し侵攻の支援をしたり、信徒たちから多額の献金を集めていたという情報も掴んでいる。
焚きつけたはいいけど、『聖戦』を称した遠征の結果が、未曽有の大惨敗。
アレクサ国内では、オルグスが事実を隠蔽したことで、表向き遠征は継続中だ。
そのせいで真実を言えずにいる代表の勇者君は、必死に『聖戦』に動員した者の所在を誤魔化してるが、あやふやな答弁のせいで信徒たちの信頼を失っている状況。
信徒たちの風向きが変わって焦った勇者君がオルグスに取り入り、今度は山の民を使ってエランシア帝国ぶっ潰すぞ計画を練っている。
って言うか。あいつら放置すると、『聖戦』を称して金集めをするために、何度でも信徒を焚きつけてエランシア帝国を襲ってくる。
そんなあほな連中に、俺の平穏な生活を乱されるのも困るし、ワリドも迷惑しているみたいだから徹底的に潰させてもらう。
そんなことを考えていたら、馬車が目的地に着いたようだ。
山の民の領域から帰還した俺たちがきている場所は、マリーダの義兄ステファンの本領であるファブレス領だ。
城の前に到着した馬車から下りると、領主であるステファンとその夫人であり、マリーダの姉であるライアが出迎えてくれた。
「よくきてくれたな、アルベルト。この前のアレクサ王国とのいくさでは世話になった。今日は酒宴の用意もしてあるからゆっくりとしていけ」
「はい、お言葉に甘えさせていただきます」
広い額を持つ九尾族のステファンは、万事そつなくこなす万能型の人物で、魔王陛下の腹心と言われる出世頭の辺境伯だった。
「それにしても、またアルベルトは面白そうなことをしておるな。わしの耳にもいろいろと届いておるぞ。よい目と耳を手に入れたとも聞いておる」
「さすがステファン殿、お耳が早い。私もステファン殿を見習わせてもらっているだけです。それに例の3領はかなり落ち着いたとか」
「まぁ、前任者が酷かったからな。それにアルベルトがしっかりとした下準備をしてくれたおかげでもある」
ステファンは、この前のいくさでアレクサ王国に対する大勝利の褒賞としてズラ、ザイザン、ベニアの3領を加増されたと聞いている。
3領は悪政が続いてた領地であるため、俺としてはお荷物領地だと思っていたが、すでにしっかりと内政に手を入れているようで、復興の兆しを見せているらしい。
さすが魔王陛下の腹心と言われる男だ。
俺がステファンの手腕に感心している横で、マリーダが姉のライアの大きな胸に顔を埋めているのが見えた。
ライアは、マリーダと同じく銀髪赤眼で短めの角を持つ、おっとりした雰囲気の鬼人族の美女だった。
「姉上~久しぶりなのじゃ!」
「もう、マリーダはいつまで経っても甘えん坊なんだから。旦那様もできたのだから、これからはもう少ししっかりしないとね」
「分かっておるのじゃー! でも、アルベルトなら、妾が姉上に甘えるのを許してくれるのじゃ!」
うむ、姉に甘えてるのは分かるが、ライアの胸に触れてる手つきは、どう見てもエロ爺の手つきなんだよなぁ。
しっかりと揉んでるじゃん。
ライアもそれを当然のように受け入れてるのを見てると、マリーダの女好きは案外、あの姉の影響があるんじゃないだろうかと思える。
俺はライアの能力を把握するため、力を発動させる。
名前:ライア・フォン・ベイルリア
年齢:26 性別:女 種族:鬼人族
武勇:61 統率:21 知力:22 内政:6 魅力:72
スリーサイズ:B100(Iカップ)W60H90
地位:辺境伯夫人
鬼人族の女性の平均的な武勇が50台なので、意外と数値が高い。
人族の強い騎士よりか上の腕前を持ってる感じか。
おっとりしてそうに見えるが、さすがは最強生物マリーダの姉ということだな。
見た目とは違うライアの能力に感心していると、ステファンが咳ばらいをしてくる。
「んんっ! ライア、マリーダとも久しぶりに会ったのだから、姉妹水入らずの時間をすごすがよい。わしはアルベルトと話をしたいのでな。よいだろ? アルベルト」
「ええ、まぁ、マリーダ様さえよければ、私に異存はありませんよ」
「やったぁーー! 姉上、一緒にお風呂に入るのじゃ! 今日は妾が身体を洗ってあげるのじゃぞ!」
「あらあら、お風呂に入るの? まぁ、久しぶりだしマリーダに洗ってもらうのもいいわね。では、旦那様、アルベルト様、お先に失礼します」
「姉上―! 風呂じゃ! 風呂なのじゃ!」
姉のライアにべったりとくっついてイチャイチャしたまま、マリーダたちは城の奥へ消えていった。
「わしらはこっちだ」
マリーダたちを見送ったステファンに先導され、俺は用意された酒宴の席に向かうことにした。
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