第二章02 謀略の成否は仕込みが決める


 案内された部屋は応接間ではなく、ステファンの私室であった。


 俺はステファンに促された席に腰を下ろす。


「ここなら話が外に漏れることはない。なので、アルベルトが考えている策を披露しても問題はないぞ。わしも関わる以上、全容を聞いておいた方がこちらも効果的に動ける」


 謀略を熟知したステファンであるため、俺の策を利用しつつ、自分の利にもなるよう動くつもりらしい。


「承知しました。今回の策はステファン殿にご協力を頂けないと成り立ちませんしね。策を披露することに問題はありません」

「さすが、アルベルトだ。話が早いな」


 下手にこちらの策を隠して、ステファンが独自で仕掛けている謀略と競合すると面倒だしね。


「まず、今回の策は、アレクサ王国で強い影響力を持つ『勇者の剣』を徹底的に潰すのが最終目的になっております」

「『勇者の剣』……ああ、あの狂信者どもか。『聖戦』を叫び、信徒をわが国とのいくさに動員してくる面倒な連中だったな」

「ええ、そうです。私の策は、その『勇者の剣』を宗教的に抹殺し、アレクサ国内で非合法化し、組織を解体させるつもりです」


 二度と『勇者の剣』として組織化されないよう、代表の勇者には死んでもらうし、組織は徹底的に潰させてもらう。


「その策をどうやって達成するつもりだ?」

「私の伝手にゴラン第二王子と繋がっているアレクサ貴族がいます。そっちから働きかけてもらいます」

「なんと⁉ ゴラン王子と繋がりを持っておるのか⁉ 最近、アレクサ国内で存在感を増してきていると聞いておる。王族の働きかけか……なるほど」

「あと私は元エゲレアの神官。なので、アレクサの宗教関係者の伝手は多いのですよ」

「そっちからも働きかけるというわけか。二方面から働きかけられたら、アルベルトの策が成功する確率は高いな」


 策を聞いたステファンも成功の可能性を見出したようで、笑みを浮かべる。


「ちょうど先のいくさで『聖戦』を声高に叫んだ『勇者の剣』は、信徒の信頼を失いつつありますからね。時期もちょうどいい」

「なるほど、たしかに」

「こんな時期に、なぜか組織の幹部の醜聞、乱れた女性関係、献金された金の使い道、幹部の犯罪行為、『聖戦』と称したいくさの真実が、クチコミで広がったりもするんですよ」


 まぁ、その噂はマルジェ商会のアレクサ班が流しまくるわけなんだが。


「信徒の信頼が低下している中、代表や幹部の醜聞が拡がり、宗教関係者からの告発や破門、王族からの排除の働きかけまで行われたら、『勇者の剣』と言えども耐えられぬな」


 さすがステファンだな。


 全部言わずとも、断片情報と推測だけで俺の策を見抜いてきた。


 やっぱり敵に回さず、頼れる親戚として関係は密にしておいた方がいい人物だ。


「となると、わしの仕事は、わが領内にあるエランシア帝国最大の天空の神ユーテルの神殿の管理者をしてる高位神官殿への顔つなぎってところだな」

「話が早くて助かります」


 うちの魔王陛下も、自分の信仰姿勢に対し意見しない限り、部下の信教の自由は保証している。


 つまり、エランシア帝国の国教は戦闘神アレキシアスであるが、領民は別にどの神様を信奉しても迫害されることはなく、6大神の神殿はエランシア帝国内各地に建立されている。


 エランシア帝国内の各神殿は、信徒の寄進により運営されるが、領土を持つことは許されず、神官は神への祈りと信徒の冠婚葬祭でのみ祝福を授けることだけが主な仕事となっていた。


 宗教界での祭事のみにとどまっていれば、宗教活動の自由は保障されている。


 ただ、宗教者が政治や統治に介入したら、その神官の首は飛ぶと帝国法には定められているのだ。


 信教の自由を定めた帝国法に則り、九尾族の義兄ステファンは、天空の神ユーテルを大いに信仰し、アレクサ王国にあるユーテルの総本山とされる大神殿から、高位の神官を招いていた。


「よかろう。明日にでも神殿長と面会できるように手配しておく。わしも同席させてもらってよいか?」

「はい、よろしくお願いします」


 ユーテル神の高位神官への面会に、ステファンの協力を取り付けられたため、それからはお互いの領内の問題やエランシア帝国の現状を語り合いながらの酒宴となった。


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