第一章04 忍者一族との邂逅
寝室への侵入事件から3日が経った。
珍しく早々に当主の仕事を終えたマリーダは、中庭でアルコー家の新米騎士たちに剣の稽古と称したしごきを行っている。
俺はスラト城の執務室でアシュレイ城から送られてきた書類と格闘中だ。
黙々と各自の仕事をしている俺たちのもとに、リシェールが駆け込んでくる。
「アルベルト様、例のスラト城の侵入者の身柄が割れました。『山の民』に属するゴシュート族の族長ワリドと言われる男だそうです。彼は人狼族という獣人でアルベルト様がお書きになった人相書きにそっくりだと、『山の民』に潜入させている国内班の者から連絡がありました!」
やっぱり覗いてたのは『山の民』だったか。ゴシュート族のワリド。たしか――。
「ワリドだって⁉ このスラト領に一番近い『山の民』の部族じゃないか! うちとはいい関係を築いてたはずなんだけどなぁ。なんで、マリーダ姉様のことを狙ったんだろう?」
侵入した者がゴシュート族のワリドだと判明したことと、アレクサ班や領内班から報告された情報を組み合わせていくと、彼の目的が見えた。
「マリーダ様の命を狙ったというよりも、どんな人物か非常に興味があったんだろう。あの時、殺気は感じなかったしね。自らの窮地を脱するための情報集めとして、スラト城に来ていた私たちを直接観察したかったんだろうさ」
「自らの窮地? ゴシュート族が困ってるってこと? そんな話、オレのところに来てないけど」
本当ならいい関係を築いているアルコー家に頼りたかったんだろうが、先年のいくさでアレクサ王国から離れ、マリーダの保護下におかれたため、こちらのことを探ろうとしてたはずだ。
ワリドが困っている問題に関して、こちらがどういった態度を見せるのか次第では『山の民』を揺るがす大問題に発展すると思ってるんだろうしな。
「彼が困ってる問題は、きっと『勇者の剣』に関することだと思うが――」
俺がそう言ってリシェールに視線を向けると、彼女が驚いた表情で固まった。
「なんで知ってるんですか? まだその件の報告は上げてませんよ?」
「現時点で得られている情報を整理し、推測から導き出した答えなだけさ。『山の民』の中で拡がっている『勇者の剣』。アレクサにいたリシェールなら、アレがどんな組織か知ってるだろ? アレクサで起きたことが、『山の民』の間に起きないわけがない」
驚きの表情で固まっていたリシェールの顔が、『ああ、なるほど』と言いたげな表情に変化した。
「『勇者の剣』の連中は、アレクサ王国でも無茶な方法で信徒を増やしてましたからね。反対をする者には『異端者』として扱い様々な妨害工作をしてくる組織ですし」
「そういうこと。それがワリドのいる『山の民』でも起きた。どうだい、私の推測は間違ってないだろ?」
「はい、あっております。国内班が拾ってきた話だと、集落にきた『勇者の剣』の関係者が強引な勧誘をしたことに業を煮やしたワリドが半殺しにして叩き返したらしいです。以前報告したと思いますが、『山の民』の中で急速に『勇者の剣』への信仰が広がっており、先ほどの事件でゴシュート族は『勇者の剣』に牛耳られた『山の民』から爪はじきにされ、困窮しているとの話も拾えたそうです。アルベルト様の推測どおり、ワリドはアルコー家を従えたエルウィン家が頼りになるのか探りにきたのでしょう」
予想してた通り『勇者の剣』の連中の勢力拡大は、一枚岩だった『山の民』を弱体化させ、うちに取り込むチャンスを与えてくれたようだ。
ワリドをこちら側に取り込み、彼を中心とした形で『山の民』をまとめ上げ、親エランシア帝国の勢力に塗り替えさせてもらうとするか。
「だったら、そろそろ向こうから招待がくると思うが――」
「リゼ様、アルベルト殿、ゴシュート族の族長ワリドからの使者が訪ねてまいりました! いかがいたしましょう」
アルコー家の家臣が、血相を変えて執務室に飛び込んできた。
「本当にきた⁉ アルベルトの予測通りだ!」
「ですね。さすがアルベルト様です」
「こっちが情報を掴んだことを、向こうも知ってると言わんばかりの使者の到着ですね」
きっとゴシュート族は、『山の民』でも特に情報収集を大事にする部族だと思われる。
俺がアレクサで叡智の至宝と呼ばれてたことも知ってたし、相当各地の事情に通じているはずだ。
「ここに通してくれ。あとは向こうが集落まで先導してくれるさ」
執務室に通されたワリドの使者は、予想した通り、俺たちを集落へ招待した。
そのため、政務の代行をイレーナに任せ、俺はマリーダとリゼとリシェールを伴い『山の民』の領域へ足を踏み入れた。
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