第一章03 忍者一族との邂逅
馬車は街道を南下し、スラト領に入ると、目的地であるスラト城が見えてきた。
大きめの邸宅を石壁で囲ったやや小ぶりな平城が、リゼの実家であるスラト城だ。
いくさ人である鬼人族が築いた堅牢なアシュレイ城に比べると、防御の面は心もとない作りをしている。
城下街もそこまで大きなものではなく、こぢんまりとまとまった街であった。
「ここがリゼたんのお家かー。リゼたんに似てこぢんまりとまとまっておるのぅ。ただ、妾は嫌いではないのじゃ」
スラト城に着き、馬車から下りたマリーダの第一声にリゼが笑う。
「マリーダ姉様に気に入ってもらえてよかった。うちの領民たちもマリーダ姉様のことは気に入ると思うよ。なにせ、エランシア帝国最強の戦士様だし。オレももっと強くならないとな」
騎士服を着て剣を構えるリゼは、どう見ても若い少年領主にしか見えない。
リゼが女性であることは、俺たち以外にアルコー家でも一部の者しか知らない。
「リゼ様がやっと戻られたぞ! リゼ様! お元気されておりましたか!」
「リゼ様! うちの子に名前を付けてくれませんか!」
「きゃーリゼ様! かっこいー!」
街中でリゼの姿を見つけた領民たちが、一目彼女を見ようと邸宅の周辺に集まってきた。
リゼは、先のいくさでうちに捕虜になっても身代金要求を跳ねのけ、毅然とした態度を取り、マリーダに気に入られ、アルコー家を取り潰しから守った若き当主様という評価をされている。
おかげで、もともと高かったリゼの領民たちからの人気は、さらに高まっているらしい。
「ごめん、今日はエルウィン家のマリーダ様のお相手をしないといけないから! また今度戻ってきた時にしてくれよ」
リゼが領民たちに手を振ると、さらに黄色い歓声が上がる。
イケメンパワー恐るべし。
男女ともに好まれる中性的な容姿が、リゼの魅力の1つだ。
でも、ベッドの中じゃ、しっかりと女の子してるんだよね。
それからはスラト城に滞在しつつ、数日かけて領内を巡視して周り、領民たちの困りごとや要望を聞き取り、途中で出くわした熊をマリーダが素手で叩き伏せたりする突発イベントもあったが、おおむね予定通りに終わることができた。
巡視を終え、スラト城に戻った俺たちは夕食を終えると、アシュレイ城への帰還を明日に控えて、英気を養っていた。
「はぁー、帰りとうないのぅ。まだ、熊を1頭殴り殺しただけなのじゃ! 血が足りぬのじゃ! いくさをしたいのじゃー!」
ベッドの上でリシェールに膝枕をさせ、イレーナとリゼにマッサージをさせているマリーダが駄々をこねている。
「最初に私は巡視だけだと申し上げましたよ。ブレスト殿にも申しましたが、いくさは当分ありませんって」
「なら、いくさの原因を作るまでなのじゃ!」
ベッドから飛び上がったマリーダが、傍らにあった大剣を手に取ると、板張りの天井に突き上げた。
バラバラに砕け散った板張りの天井から人影が転がり落ちる。
「曲者だ! リシェール、リゼ、イレーナこっちへ」
「は、はい」
「うん」
「警護を呼びますね」
俺も即座に近くにあった剣を手に取ると、鞘から抜いて構える。
「まさか、天井ごと落とされるとはな。さすが、エランシア帝国最強の戦士の看板に偽りはなしか」
天井崩落から発生したほこりが晴れると、黒い装束で全身を包み、顔も黒い布で覆った者がいた。
アレはどう見ても忍者スタイルだよな……。ってことはもしかして。
「妾の寝室を覗くとはけしからんやつじゃの。その身体繋がって帰れると思うな」
大剣を握り直したマリーダが狂暴な笑みを浮かべ、曲者に狙いを定める。
「エランシア帝国最強の戦士と、アレクサの叡智の至宝の夫婦に興味がありましてな。夫婦の営みを覗くのは悪いと思いつつも止められなかったのだよ」
声からすると、男っぽいな。身体つきも大柄だし。
それにあの装束を着ているとなると、『山の民』の関係者っぽいな。
曲者はこちらの視線にも気付いたようだ。
「アレクサの叡智の至宝殿は、こっちの素性を探っておられるな。まだ、悟らせるわけにはいかぬので、今宵はここらで引き上げさせてもらう」
「妾は逃がさぬと申したはずじゃ!」
「マリーダ様、斬り捨ててはなりません! 生け捕りでよろしく!」
俺の言葉で剣先が鈍ったマリーダの斬撃を、男はヒラリとかわし、懐から黒い玉を取り出すと、地面に向けて投げつけた。
次の瞬間、眩い光が室内に広がり、男の姿が見えなくなる。
「くっ! 卑怯なやつめ! 妾に目潰しなど通じぬ! アルベルトが生け捕りを望んでおることを感謝せよっ!」
空気を切り裂くものすごい音がしたかと思うと、窓が割れる音がした。
「残念でしたな。あと少し右側でしたぞ」
眩しい光で眩んでいた目が回復してくると、窓際に立つ男の顔を覆っていた布が消えていた。
狼? いや人? 獣人族か?
「では、今度こそ失礼いたす」
足元に先ほどの黒い玉が転がってくるのが見え、目を瞑った。
「くっ! 妾らを舐めておるのじゃ! 今度は光らぬ玉を投げおった! むきぃい!」
マリーダの言葉で目を開けると、足もとには黒い玉が転がっている。
不発? というか追撃させないための陽動として投げたのか!
不発かと黒い玉を見つめていたら、シュボという音がして、一気に白煙が室内に広がった。
「マリーダ様、煙で視界が利きません。残念ですが、追撃は控えましょう」
「煙で姿を隠すとは小癪なやつめ!」
俺は悔しがるマリーダの手を取ると、煙の充満する部屋から出た。
「侵入者の捜索をすぐにして! 屋敷内だけでなく、街にも捜索隊を出す」
煙が晴れるのを待っていると、リゼが集まってきたアルコー家の家臣に侵入者の捜索指示を出していく。
「侵入者は何者だったんでしょうね?」
街への捜索隊が屋敷から出ていくのを見送っていると、リシェールが侵入者の素性に関して聞いてきた。
「何人か心当たりはあるけど、まだ絞り切れないね。捜索隊の成果に期待しよう。アルコー領内の情報収集も強化しておいて」
「承知しました。増員を指示しておきます」
リシェールは、密偵たちに新たな指示を出すため屋敷の中に戻った。
「寝室を覗いたやつを見つけ出すまで妾は帰らぬのじゃ!」
マリーダはかなり御立腹だが、さっきの侵入者が俺の予想している人物であったら、謀略を成功させるため、斬らせるわけにはいかないんだよなぁ。
侵入者がハッキリするまで、スラトに滞在した方がよさそうだ。
「マリーダ様の言う通り、侵入者の素性が判明するまで滞在した方がよさそうですね」
「ふむ、あの侵入者を絶対に見つけ出してやるのじゃ!」
マリーダさん、そうやってすぐに拳を鳴らさない。
おしとやかに頼みますよ。
自分の領地ではないんで。
「リゼ、すまないが別の屋敷を用意してくれ」
「え? ああ、この屋敷じゃ無理か。分かった用意するよ」
天井が崩れ、窓が割れた寝室を見たリゼは頷きを返した。
その後、屋敷内や街での犯人捜しをしたが、捜索隊は侵入者を見つけることはできなかった。
そのため、スラト城で政務を行いながら侵入者の情報収集に当たることにした。
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