第二〇三話 あくどさが極まる
「ウーログ様、反マヨ派の兵が迫っております! いかがいたしましょうか!」
「いかがいたしましょうなどと言ってる場合かっ! 衛兵には議事堂を死守させ、すぐに近郊の兵を集めろ! それとエディス殿に急使を出せ!」
「は、はいっ!」
議事堂内に侵入を果たした俺たちの前に、目標であるウーログが副官と思われる男と一緒に階段から降りてきた。
ずいぶんと慌ててる様子。
まぁ、そりゃあそうか。
反マヨ派の蜂起は、兵力が足りずに数か月後だと思ってたわけだし。
だからこそエディスにお願いして、マリーダたちを追っ払ってもらうため、出陣してもらったわけで――。
でも、残念ながら全部こちらの手の平の上で踊らされるだけなんだよねー。
「衛兵たちが集まったら、議事堂内に立て籠もる。外の兵と連絡がついたら、援軍に来させろ! エディス殿が来るまで耐えれば勝ちだ!」
カツカツと音を立てて階段を降りてきたウーログが、俺たちの前を通り過ぎようとした。
「お待ちください! ウーログ殿!」
ウーログは歩みを止め、声をかけた俺に視線を向ける。
「住民どもは立ち去れ! ここは議事堂内だぞ!」
俺は即座に懐の物を取り出し、ウーログに差し出す。
「エディス殿より、書状を預かってまいりました! お改め下さい!」
差し出したのは、エディスからの書状を模した偽手紙だ。
内容は反マヨ派と交戦せず、首都を明け渡して、自らの勢力圏に逃げ込み、反マヨ派を一掃する兵を集めておくようにと書かれている。
筆跡は完璧に真似てるから、見破られる可能性は低い。
怪訝そうな顔をしたウーログだが、受け取った書状を読むと、表情が変わった。
「これは……」
「エディス殿は、反マヨ派を一掃する策を練っております! そのためには、ウーログ殿のお力も必要!」
ウーログの視線が、俺に注がれる。
急かし過ぎたか……。書状を疑っているとは思わないが――。
「首都を失えば、反マヨ派は力を増やすぞ」
「こちらの書状も確認してもらえれば、今すぐにでも首都を棄てた方がよいと、判断をされるはずです」
隣に控えていたワリドが、新たな書状を差し出す。
こちらを警戒している様子を崩さないまま、ウーログは差し出された書状に視線を落とした。
書状は、反マヨ派のボーと王国復興派のベングドの軍事クーデターへの協力を記した文書だ。
両陣営の仲介は、裏で暗躍しているうちがやったわけなので、こういった文章はゲットできる立場だ。
その本物の文書を今、ウーログは読んでいる。
「馬鹿な! 王国復興派と反マヨ派の連中が手を結んだだとっ! ありえん! 連中の利益は相反する!」
「ウーログ様っ! 大変です! 広場にハイマート王国の国旗が揚がっていますっ!」
駆け込んできた兵の報告に、ウーログは動揺した。
「くそっ! 王国復興派のベングドまで敵に回ったのか! どおりで予想外の時にクーデターを起こしてきたわけだ!」
ウーログは、必至に自らの勢力の状況を計算し直しているようで、顔中が汗だくになっていた。
でも、まぁ、ベングドは独立の準備のため、軍事クーデターには兵を送って来てない。
広場の国旗は、潜入しているワリドたちの配下が仕事をしてくれた結果だった。
だから、冷静に情報を集め、近郊の兵を掌握して、首都に籠れば、兵力に勝るウーログの勝ちは揺らがないのだけど――。
それをされると俺が困る。
「ウーログ殿! ここはやはり首都を放棄して勢力圏に戻り、反マヨ派を一掃する兵を整えるべきです!」
もう一度、ウーログを急かす。
さっきよりも自分の状況が悪くなったという判断はできているはず。
「だがっーー!」
苛立ちからか、ウーログは親指の爪を噛んで考え込む。
「このまま、悩めば悩むほど脱出できる可能性が閉ざされていきますぞ!」
議事堂の外からは、反マヨ派の兵があげる喚声が大きくなってきた。
ウーログが討ち取られたら、親マヨ派の兵をまとめられるやつがいないんで困るんだよな……。
「外に出てエディス殿と兵を併せれば、首都奪還はたやすいことです。ここは一時的に退避を!」
最後のダメ押しのように、大きな声を出してウーログに脱出を促す。
「仕方ない! 首都は放棄する! 包囲される前に脱出するぞ!」
爪を噛んでいたウーログだったが、状況的に籠れば不利と判断したようで、周囲の兵に指示を出し始めた。
俺はその様子を眺めながら、心の中でほくそ笑んでいた。
これで、首都は反マヨ派が占拠し、マリーダたちを追うのに疲れ、兵を帰したエディスと、騙されたことに気付いたウーログが連合して、首都奪還してくるはずだ。
その間にヨアヒムとステファンがトクンダ地方の残りを併呑し、独立宣言をしたハイマート王国のベングドと同盟を結んで、3分割は完了って感じだ。
我ながら酷い悪事を働いている気がする。
けど、お家の繁栄のためには悪事をなさねばならないこともある。
可愛い嫁と嫁の愛人、それに子供たちを路頭に迷わせるわけにはいかないからね。
そのためなら、俺はどんなことでもやってみせるさ。
「ウーログ様、我が手の者が確保した脱出路はこちらです!」
「ああ、すまない! 先導を頼む」
すっかり俺たちのことをエディスからの使者だと信じ切ったウーログを連れ、事前に確保させておいた脱出路を使い、首都の外まで出ると、馬車に乗せて自分たちの勢力圏まで送り出した。
こうしてゴンドトルーネ連合機構国の首都は反マヨ派の領有するところとなり、同日ハイマート王国の独立宣言が発表され、国は三つに割れることになった。
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