第二〇二話 軍師の仕事は何でもあり




 帝国歴二六八年 青玉月(九月)



 ヒックス家のミシェーラに疑念の種を仕込み終えた俺たちは、ゴンドトルーネ連合機構国の首都ワラサに入った。



 街の中は慌ただしく行き交う人が多く、全体的に浮ついた雰囲気に包まれている。



「すでにマヨ自治連合国の駐留軍は、エランシア帝国軍に無償割譲された地域に向けて首都を出たようです」



「そうか、マリーダ様たちがずいぶんと暴れてるらしいからな。エディスも放っておけなかったということか」



「遊軍としてゴンドトルーネ連合機構国内の街を荒らすよう、マリーダ様たちへステファン様のご指示があったと思慮します」



「エルウィン家は自由勝手に動いててもらった方が助かるか……。ステファン殿の考えそうなことだ。でも、私も同じ策を取るだろうね」



「マリーダ様たちに注目が集まれば、ステファン様、ヨアヒム様の兵が、別の地域に移動しても気付かれにくいですからね」



 マヨ自治連合国の駐留軍の目をマリーダたちに集めたさせたステファンたちは、割譲を受けた以外のトクンダ地方確保に動き出していると見ていい。



 なので、反マヨ自治連合国派のボーが、首都に居座る親マヨ自治連合国派のウーログを襲う頃合いだ。



 街全体を包む浮ついた雰囲気は、住民たちが何かを感じ取ってるにかもしれない。



「ウーログへの情報提供は進んでいるかい?」



「すでに側近の理事を通じて、ボーの軍事クーデター計画を流してはいますが、信用はされてない様子」



「まぁ、勢力でいけばウーログの方が強いからね。エディスがいなくなっても守りきれると踏んでるわけだ」



「そのようです。ですが――」



 ワリドが広場の中央に掲げられていたマヨ自治連合国の国旗が降ろされ、代わりにゴンドトルーネ連合機構国の国旗が揚がるのを指差した。



 軍事クーデターの開始の合図だ。


 

 住民や商人に扮した反マヨ派の兵たちが武器を手に取り、衛兵たちと戦いを始めている。



「ウーログは、クーデターはまだ先だと思ってたんだろうね。せっかく忠告してあげてたのに」



「我々が三陣営の中に入って上手く情報を調整してますからな。どの陣営も正確な情報を持っていない。この軍事クーデターがどういう決着を見せるかを知ってるのは我々だけですしな」



「ベングドもこの軍事クーデターに乗じて、エランシア帝国の後ろ盾を得て、明日にでも独立宣言をすると思います」



 俺たちのことを無視して、喚声はさらに大きくなると、理事会のある議事堂へ向かって反マヨ派の兵が道を進んでいく。



「さて、警護の兵だけではウーログは討ち取られちゃうだろうし、私たちが手助けして自分たちの勢力圏へ逃がしてやらないと」



 俺は外套を目深に被り、顔を覆う。



 本来なら軍師のお仕事じゃないし、ワリドたちに任せておけばいいんだけども――。



 細かい調整や判断が多いので、俺自身が参加することにしていた。



「承知しました。アルベルト様、警護の兵たちから離れないようにお願いします」



 周囲にいた住民が、俺を守るように囲んでくれた。



 リュミナスが率いている護衛の者たちだ。



 体術や武器の扱いに長けた者たちが選ばれている。



「ああ、足手まといにはならないようにする。お仕事を開始しよう」



 俺たちは反マヨ派の兵が喚声をあげる広場を後にし、ウーログがいる議事堂の執務室を目指すことにした。



 グーデターを察して逃げ惑う住民たちに紛れ、ゴンドトルーネ連合機構国の中心地である議事堂にまではすんなりと到着できた。



 議事堂前は混乱しているようで、親マヨ派の兵は右往左往しながら、住民たちに怒号を飛ばして、近づく者を排除していた。



「このまま、突っ切ります!」



 姿勢を低くしたリュミナスが、議事堂の入口を守っている兵の足を蹴りで薙ぎ払う。



 バランスを崩して倒れた兵によって生まれた隙間に、ワリドが身体を押し込み突入できるようにすると、護衛と一緒に俺が駆け抜ける。



 議事堂内に無事侵入を果たした。

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