第一八九話 海戦準備
目的の海域に到着した俺たちは、総大将ブレスト、副将ラトール、副将バルトラートらが率いる青軍と、総大将マリーダ、副将カルア、副将アレウスが率いる赤軍に艦隊を分けた。
双方、大将の乗る船を占拠すれば勝利という目標を与え、自由に戦わせるという形にしてあった。
俺はブレストの参謀として青軍の船に乗り換えており、リシェールはマリーダの参謀として赤軍の船に乗っている。
「アルベルトが、ワシの参謀か。よくマリーダが許したな」
「まぁ、調練ですしね。私がこちら側に付いた方がマリーダ様もやりがいが出ると判断したのでしょう」
「ワシも舐められたものだな。たまにはマリーダに灸を据えてやらねばんらんか」
久しぶりの大型調練で、ブレストもギラギラした目を遠くに見えるマリーダの乗る船に向けた。
ヤル気満々すぎて、船壊さないで欲しいが……。
接舷からの移乗攻撃の調練なので、船が衝突で壊れないよう、各船の側壁には砂袋を巻きつけてあるけども。
テンション上がってるから、無茶な衝突とかしそう。
アレクシアの海兵たちが上手く操船して、接舷してくれることを祈るとするか。
「もちろん勝った方が、次のいくさの先陣を請け負うんだよな? なぁ、そうだよな! アルベルト!」
副将にされて文句ブーブーのラトールが、いつものごとく先陣の約束をねじ込んでくる。
先陣争いは、鬼人族の習性みたいなものなので、適当に返事しておくに限る。
「あーはいはい。そうだな。参考にさせてもらうから、しっかりと頑張ってくれ」
「よっしゃあ! 親父! バルトラート! マリーダ姉さんたちに負けるわけにはいかねえぞ!」
「言われんでも分かっておるわ!」
「俺はやっぱ地面のあるところで戦いたいな。足場が不安定だと、槌に力が入りにくいぞ。まぁ、そのための調練か」
バルトラートは素振りのチェックか。やる気なさそうにしてるけど、しっかりと足元の確認してるから、やる気は十分って感じだな。
さて、接舷してからの移乗攻撃にだけ限定した調練にしてあるが、リシェールがどうマリーダたちを使ってくるかは楽しみだ。
向こうにはアレクシアもいるし、こっちの隙を狙ってきそうではあるが。
水平線上に浮かぶ、マリーダたちの船を見つめ、相手の侵攻ルートを考える。
帆船である以上、風が機動力を増減させるので、操船の自由度から風上に位置するのが有利。
ってことは向こうも知ってるから、位置取り戦がすでに始まってるわけだ。
風向きはマリーダたちが、風上。
俺たちは風下。
操船の自由度はすでに奪われたので、大将ブレストの乗る船を最後方に下げ、ラトール、バルトラートを左右の船に乗せ、先頭で突っ込んでくるマリーダを抑え込んで逆に占拠してやるのもありか。
アレウスはマリーダの船に同乗してるだろうし、危険なのはカルアだけだろう。
マリーダの突進を止めつつ、カルアの位置さえ気を付ければ、勝利はこちらに転がり込むはずだ。
戦闘のシミュレーションを終えた俺は、集まっているブレストたちに作戦を授けることにした。
「ラートルとバルトラートは、それぞれ2隻を率い、前衛としてマリーダ様の突出を止めよ。必ず先頭に立ち艦隊を縦一列に並べた単縦陣で突っ込んでくるはずだ。阻止できず突破された場合は、早々に反転し、大将ブレスト殿の船を狙うマリーダ様を追いかけよ。挟み込んで、一気に敵の大将を捕縛する!」
「おぅ! 任せろ! マリーダ姉さんを止めてやるぜ!」
「マリーダ殿を止めるのは一苦労そうだが、軍師殿の指示には従わねばならん」
指示を受けた2人は、それぞれが座乗する船に向け、連絡用のボートに乗って移動していく。
残ったブレストは、指揮官として甲板に仁王立ちしたままだった。
「馬鹿息子とバルトラートがしくじっても、ワシがマリーダを止めてやるから安心いたせ」
「期待しておりますぞ。相手はマリーダ様なので、下手したら逆に移乗攻撃されてラトールやバルトラートが叩き伏せられる可能性もありますしね」
マリーダの突出を止められるかが、こちらの勝機を手繰り寄せられるかの重要なところだからな。
止められず、前衛2人の率いた船の反転が遅れれば、マリーダの戦闘力で押し切られて、こちらが負ける可能性が高い。
「敵船、移動開始! 大将艦を先頭に単縦陣でこっちに向かって突っ込んできますっ!」
物見としてマストの上に上がっていた海兵から、マリーダたちが動き出したとの報告を受け、船上が一気に忙しくなった。
俺はブレストに作戦開始を告げるよう視線を送る。
頷いたブレストは自らの大槍を掲げ、下知をくだす。
「戦闘開始! 各艦、アルベルトより受けた指示に従い所定の位置に付け!」
鐘が乱打され、ラトールとバルトラートの率いる前衛艦隊が、風に逆らって櫂を漕ぎ船を所定の位置へ進めていく。
しばらくして、俺が指定した陣形に艦隊が移動を終えた。
「さて、マリーダが突っ込んでくるのを待つとするか」
「ブレスト殿はくれぐれも前に出ないでくださいよ」
「分かっておる。楽しみはとっておくわい」
不敵な笑みを浮かべたブレストとともに帆を孕ませ、先頭で突っ込んでくるマリーダの大将艦の姿が大きくなるのを待つことにした。
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二巻は帝国歴二六〇年の一年間を使い、WEBから大きく加筆改稿し『勇者の剣編』として、山の民やアレクサ王国にと謀略を仕掛けて忙しくアルベルトが働いております。
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