第一八七話 水軍も準備しとかないといけない



 帝国歴二六八年 藍玉月(三月)



 反政府組織の隠れ蓑であるホルゥジャ商会員たちが、ロアレス帝国内で捕縛対象にされた。



 容疑は叛乱準備。



 国内の治安を乱したとして、懸賞金付きの布告が出され、ロアレス帝国内で一斉にホルゥジャ商会への立ち入り検査が行われたらしい。



 まぁ、でも黒虎将軍夫人が分かりやすい合図をこっちに向けて、発信してくれたこともあり、ホルゥジャ商会員はすでに家族を連れ、メトロワ市に作った水軍用の兵舎に亡命を果たしている。



「それにしても、よくロアレス帝国の反政府組織の摘発が予想できましたな? スヴァータも情報を掴んでなかったのだが」



 ホルゥジャ商会員たちの亡命の顛末を報告しにきたワリドが、俺の指示の速さに首をひねっている。



「簡単さ。黒虎夫人が旦那を唆してフェルクトール王国を攻めたけど、補給先をホルゥジャ商会に頼ってたからね」



「黒虎将軍がフェルクトール王国を攻めたのと、今回のロアレス帝国の反政府組織の摘発が連動したと言われるのですか?」



「ああ、向こうもホルゥジャ商会が、うちからの資金援助をされてたってことも知ってただろうしね。そのホルゥジャ商会に補給を頼り続けてた黒虎将軍夫人が、先月からロアレス帝国からの補給に切り替え始めただろ?」



「ああ、アレが取り締まりが始まるぞってこちらへの合図だったんですな! わしはただ単に補給のしやすさで切り替えたのかと思っておりましたぞ!」



「補給のしやすさを重視するなら、侵攻直後に切り替えられたはず。けど、彼女はそれをせず、らしくない効率の悪い補給をホルゥジャ商会に任せたままだった。それをロアレス帝国に切り替え始めたところで、ホルゥジャ商会が狙われてるって知らせてくれたわけだ」



「だから、あれだけ早い時期指示が出せたというわけですな」



「そういうことだね」



 実際、彼女がこっちの味方なのかは分からないが、少なくとも争いたくないという意志の欠片は感じられる。



 フェルクトール王国を攻めた博打も、皇帝派のせいで皇帝との間に溝ができ、ロアレス帝国での立身出世が厳しいと判断し、うちと提携するための自立行動だと見ている。



 ロアレス帝国で築いた戦力を使い、旦那の母国を落とし、自立してこちらと提携する策の布石が、今回の合図だったのかもしれない。



 できればマリーダとためをはる武力を持ったあの黒虎将軍とは戦いたくないので、仲良くできる道が模索できるなら、そうしておきたいところだ。



「元ホルゥジャ商会の者たちの収容を終えました。これより、新造艦の訓練生として適性を見て、割り振ります」



 執務室へ報告に来たのは、長らく兵のない水軍の司令官として、暇を持て余していたアレクシアだった。



 すでに新造艦五か年計画も二年が過ぎ、一二隻の新造艦と島亀型いくさ船を持つ水軍になっているが、肝心の水兵の補充が進んでいなかった。



 現状、動かせる船は一〇〇人乗りの島亀型と、三〇人乗りの速度重視の新造艦二隻が定員で動かせるくらいだ。



 最低乗り込み数にすれば、新造艦全てを動かせるが、動かせるだけでいくさには使い物にならない。



 でも、海の男たちであるホルゥジャ商会の者たち三〇〇名が、水兵として加わってくれたので、大いに拡充され、調練が進めば艦隊としても機能するはずだ。



 まぁ、また人件費が爆上がりなわけだけど、平時は輸送任務してもらって稼いでもらうのもありか。



 もしくは私掠船として―――ってやると、脳筋たちが辺り構わず荒らしまわるからなしだな。



「頼むよ。アレクシアの率いる水軍は、大事な戦力だからね。しっかりと鍛えてやってくれ」



「はっ! 訓練兵たちの士気も高く、ロアレス帝国の海軍にも負けないものに仕上げてみせます!」



 総数三〇隻の艦隊が揃うまでには、まだ時間はかかるが、戦力さえ揃えば海上決戦も仕掛けられる可能性もある。



 金も労力もかかるから、絶対にやりたくはないけどね。



 アレクシアが編成と基礎訓練終えたところくらいで、暖かくなってくるだろうし、鬼人族と常備兵を乗せた船上切り込み戦の訓練させるとするか。



 

「来月には常備兵を動員した大規模な海戦を想定した調練をする。それまでに艦隊を動かせるようにしておいてくれ」



「はは! ではすぐにメトロワに向かい、基礎調練を始めます!」



 勢い込んだアレクシアが、執務室から飛び出していく。



「うひひひ! 来月じゃな。来月、妾は来月に解き放たれるのじゃ。ぐひひ!」



 黙って政務をしているマリーダが、怪しい笑みを浮かべている。



 例の水着も苦渋の決断で受け入れたらしく、それだけ調練したい欲が高まっているマリーダだった。



 調練でテンション上がって、ヴェーザー自由都市同盟の最後の都市シュルオーブを襲うとか言い出しそうで怖い。



 ヴェーザー河の河口南岸にあるシュルオーブは、いつでも潰せる場所だけど、潰せば絶対にロアレス帝国の侵攻を招く場所だ。



 ヴェーザー自由都市同盟を構成してた他の三都市は、すでにうちか、うちの属国化したヴァンドラに牛耳られ、孤立したシュルオーブは、ロアレス帝国に秘密裏に臣従してる都市だからね。



 絶対に攻めてはいけない場所。



 俺はニヤニヤと笑みを浮かべつつ、政務を精力的にこなすマリーダに対し、ふぅとため息が出た。




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来週28日にはいせよめ2巻の発売日となります。ぜひとも3巻出して、をん先生のエッチな挿絵と、ありのかまち先生のエッチなコミカライズを続けたいので、応援のほどよろしくお願いしまーす/)`;ω;´)

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