第一八三話 視察旅行と夫婦の休養
「ザズ領はほとんど手を入れてこられなかったようだね。領民も少ない感じだし」
「河の氾濫で下の畑や農村が荒れるので、領主も真面目に領内開発をしようとしなかった感じですかねー」
「よい景色の城じゃのー。妾の別荘にしてもよいな。カルアたんとイチャイチャするためにのー」
「わたしは景色のいい城よりか、いくさ場の方がいいですよ」
俺たちは政務嫌いを悪化させたマリーダのご機嫌取りも兼ねた新領地の視察旅行をしている。
同行者はリシェールとカルアだ。
ティアナからエランシア帝国の領内に流れ込むドルフェン河と、その支流エルフェン川を一望できる場所にできた高台に築かれたザズ城に来ていた。
眼下の領地には寂れた農村と漁村を兼ねた小さな船着き場が2~3個しか見受けられない。
流れる2つの河川には、多くの川船が物資を積んで行き交っていた。
河川交通網の一大拠点にはできそうなんだよなぁ。
うちのアシュレイ領に向かうエルフェン川と、ステファンの領地に流れ込むドルフェン河、そしてアレクサ王国の副都ともいうべきティアナとを結ぶ中間地点が、このザズ領だ。
対岸のヒックス領と連携すれば、アルカナ領防衛の強化にもなる重要な領地であり、。
アルカナの銀山と製錬施設はエルウィン家の生命線。
アレクサ王国側から攻められる場合の最前線基地にもなるし、ティアナを落とすことになった場合の出撃地点でもあるから、しっかりと整備をしておくつもりだ。
ゴランが裏切るとは思わないが、ロアレス帝国に弱体なアレクサ王国が倒される可能性はある。
そうなった時、手薄ではいけないので、そのための防衛強化をしておかねばならない。
幸いにしてザズ城は高台にあり、防御しやすい地形に建てられているため、こちらの改修にはさほど資金がかからずに済みそうである。
「問題は援軍が船で来るときの船着き場をどこに作るかじゃな。エルフェン川側に作っておけば、下流になるアシュレイ領やリリンド領から船で遡上して来援できると思うがのー」
ってなると、候補地は限られるか。
援軍をこのザズ城に安全に移動させるには、高台の切れるあたりに作る方がいい気がする。
あまりにも平地寄りに作ると船着き場自体が包囲される可能性もあるしな。
城外の地形を見つめつつ、候補となる場所を選んでいく。
「マリーダ様、あのあたりに船着き場を作るのはどうでしょうか?」
マリーダに候補とした中で条件に合うと思われる場所を指で示す。
「悪くないのぅ。援軍としてきた妾らが城に安全に移動できる場所じゃな」
マリーダの指先が、船着き場の候補地の先を示す。
「援軍は船着き場から現れるという敵の意識を逆手を取って、ヒックス側から夜の闇に紛れて渡河して奇襲すると美味しいごちそうにありつけそうじゃのぅ」
「それはよい策ですね。攻められた時の一案として頭の片隅に入れておきましょう」
それがやれるのは、鬼人族の部隊だけだと思うが。
でも、農兵を載せた川船が船着き場に着いたところを見せれば、敵の意識はそっちに向くしな。
マリーダの提示した奇襲は大戦果をあげそうな気もする。
となると、ヒックス側にも小規模場船着き場とか、渡し船乗り場作っておくか。
マリーダの提案を実現するための方策を手帳に書き留める。
「あとは荷を積んで行き交う川船の寄港地もあった方がいいですよね。アレクサ側の産物がいっぱい運ばれてますし、エルウィン家領からも物資がいっぱい運ばれますので」
ステファンの領地になっているズラと、はドルフェン河を挟んだ形で対岸なのでそちらへも物資や交易を活発化させるには、大型の川船も泊まれる船着き場と、大きな荷も下ろせる荷揚げ場が必要になる。
荷揚げ場は倉庫エリアも必要になるし、開けた場所がいいよな。
ドルフェン河と支流エルフェンが分かれる領内の先端部には平地が広がっていた。
船着き場と荷揚げ場はしっかりしたものにするとしても、水害の危険性もあるし、倉庫は一時保存場所的な簡易的なやつにしとくか。
「ザズ領はドルフェン河の河川交通網の中心に据えるつもりだし、しっかりした荷揚げ場と交易用の船着き場はあの先端部の平地に作るつもり」
「攻められた時は放棄するつもりでよいな? あそこは守るのには適しておらぬ場所じゃぞ」
「もちろん、敵勢力に攻められたらザズ城に籠ることを徹底させます。ここは守りに適しておりますので」
攻められた時は、交易用の船着き場や倉庫群はくれてやればいい。
美味しい餌を狙って敵が河を越えてくれると、こっちはいかようにでもやりようがある。
「思いっきりの良さは、いくさで一番必要な要素じゃからな。下手に防衛しようすれば、大軍が必要となる場所じゃ。でも、捨てれば半分以下で足止めをできるようになるからのぅ」
ザズ領の防衛計画を頭の中に描きつつ、必要な事項を手帳に書き留めていった。
「それにしても景色のよい城じゃのー。アレウスたんに当主を譲ったら、妾はここに隠居してもよいのぅ。おうじゃアルベルト?」
「まだ、アレウスの成人までは遠いですし、当主を譲られてもマリーダ様はアシュレイ近郊に住んでもらいますよ。ただ、お互いにヨボヨボの歳になったら、このザズ城で平穏を楽しむのもありかもしれませんね」
「アルベルトは働き者じゃのー。まぁ、妾もいくさには参加したいし、やはりこの城は別荘じゃな。カルアたんの全裸を眺めるのには最高の城じゃのー」
「マリーダ様!?」
隣にいたカルアの衣服を電光石火の早業で脱がしたマリーダが、セクハラ大王と化す。
領民の目に触れないことをいいことに、やりたい放題である。
「マリーダ様も脱ぎ脱ぎしましょうねー。アルベルト様も喜ばれますし」
いつの間にかマリーダの背後に立ったリシェールが、衣服をはだけさせている。
「えっちなメイド長と、旦那様に襲われるのじゃ! カルアたん、妾を守るのじゃ!」
「アルベルト様の命がありませんし、リシェール殿に逆らうのはちょっと……」
カルアもこの場で誰に従う方が無難かの選択をしたようだ。
けど、私はけして悪い人ではないんだがなぁ。嫁の疲労を癒すために旅行に連れてきた良き旦那だと思うんだが――。
「さて、マリーダ様。去年は忙しくて中々子作りに励めませんでしたし、アレウスにもまだ妹か弟がいるでしょうし、頑張りましょうか」
「わ、妾は休養じゃと聞いてこの視察旅行についてきたのじゃぞ」
「ええ、休養ですよ。休養。夫婦の休養です」
俺はマリーダの肩に手を置くと、寝室に繋がる部屋のドアを開けた。
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