第一八二話 新生エルウィン家
正月休みも終り、仕事始めの日がやってきた。
「アルベルト・フォン・エルウィンに政務と軍務の権限を委嘱する執政官への就任を命じるのじゃ」
「はっ! エルウィン家のためこの身を尽くし働く所存であります!」
エルウィン家の紋章が入った剣をマリーダから拝領する。
剣が授けられたのは、俺へ権限を委譲するというパフォーマンスでもあるし、逆らうやつは斬ってよいというマリーダの意志だ。
絶大な信頼とともに相当な権限も与えられることになるが、今まで俺が積み上げた実績により、文句は一つも出ていない。
当主マリーダからエルウィン家の舵取りをする最上位役職である『執政官』に命じられた俺の初仕事は人事の発令だった。
大広間には主だった家臣が集まり、新たに与えられる身分と役職を心待ちにしている。
拝領した剣を腰に佩くと、大広間の方に向き直り、必死で考えて内諾を得た人事案を記した紙を拡げた。
「これより、エルウィン家の新体制を発表する。まずは武官から。軍務部行政官兼上級将軍ブレスト・フォン・エルウィン。軍務部次席行政官兼将軍ラトール・フォン・エルウィン。軍務部次席行政官兼将軍リゼ・フォン・アルコー。軍務部担当官兼千人長ミラー。軍務部担当官兼千人長アレックス。千人長カルア。千人長バルトラート。軍務部担当官兼千人長ヨゼフ。千人長アレクシア」
ブレストが軍務部トップという形で行政官と上級将軍となり、執政府からの許諾を受け、戦場での軍事計画の策定、武器開発、国境防衛、防衛計画の策定などを行う。
息子ラトールとリゼが次席に座り、ブレストに何かあった時は引き継げるようにしてある。
あとは政務に関われる能力がある物には兼職で軍務部の役職も与えてあり、戦闘特化の人たちは戦闘だけに専念できるよう配慮した。
新設した百人長には、兵の指揮と武勇のバランスのとれた者を優先して採用し、武勇に特化した者は十人長どまりになるが、マリーダ専属の近衛兵(俸給加算あり)という道もあるので文句は出ないようにしてある。
ちなみにマリーダの近衛兵は、ガチでヤベー戦闘狂で固まった。
どんな戦場も無人の野ごとく駆け抜けられる気がするやつらしかいない。
そんな感じで現時点で常備兵としてエルウィン家に雇われている武官1093名の新たな身分が定まった。
「続いて文官に移る。執政府行政官イレーナ。執政府担当官リシェール。執政府担当官リュミナス。民生部行政官ラインベール。大蔵部行政官ミレビス。外務部行政官ヘクス。商工部行政官レイモア。司法部行政官フォローグ。宮内部行政官カラン・ガライヤ。宮内部担当官フリン。宮内部担当官エミル。アルカナ総代官(行政官扱い)ニコラス・ブラフ」
政務軍務だけでなく謀略も扱うのが執政府であるため、リシェールとリュミナスを担当官として採用した。
政務に関してはイレーナが、しっかりと各部の監督をしてくれるので、それをしやすいよう権限的な裏付けを与える執政府行政官に据えてある。
あと宮内部に関してはエルウィン家の管理なので、乳母をしてもらってるカランをトップに据えて、フリンとエミルも採用した。
家族の面倒は彼女らに助けてもらうことが多くなるはずだ。
ちなみにリシェールはマリーダ専属メイド長を兼職する形になる。
性欲大魔神を扱えるのは、俺かリシェールくらいしか未だいないしね。
あと、アルカナに関しては銀鉱山と鉱業の絡みもあり、業務が大量にあり、専門の行政官として引き続きニコラスを置くことにしてある。
そんな感じで能力に応じて部署を割り振られた者たちが、それぞれに適した身分与えられ、文官782名の身分が定まった。
「以上、各自より一層職務に精励するように!」
「「「ははっ!」」」
仕事始め式と人事発令を終えると、それぞれが自分の部署に散っていく。
「さて、妾は昼寝をするかのぅ。去年はあれだけ頑張ったのじゃから、今年はさぼっても問題なかろう。久しぶりに狩猟にでも出るかのぅ。アレウスたちを連れていくのもありじゃな」
当主がいきなりサボる気満々な発言を繰り出してくる。
人事制度改定と年末進行は乗り切ったが、正式にうちの領地になった3領の視察もしてないし、辺境伯家として恥ずかしくないよう周辺貴族とのお付き合いもしないといけないのだ。
断じて遊んでいていい時ではないっ!
それに直轄領ばかり増えてる問題もそろそろ手を付けないといけない。
今のところ俸給に満足してる家臣が大半であるけど、戦功をあげれば領地持ちになりたいと思う者も増える。
エルウィン家の直轄領が多いほど、領地持ちになりたい家臣の不満も高まるだろうしな。
親族、譜代、外様って感じで分けて配置場所を考えて爵位と領地を与えるのもありか。
親族はマリーダの親族で鬼人族の血を持つ者。
現時点だとブレストとラトールと俺とマリーダの子アレウスが対象になるな。
アレウス以外の2人はすでに領地を与えられてるが、管理をしたくないとの申し出があり、領地相当額が俸給に加算されてる。
鬼人族は基本的に戦争さえできれば満足なので、領地に興味ないしな。
エルウィン家の屋台骨でもあるし、領地持ちの分家として、自ら家臣を雇って兵を提供する義務も負っているので、領地を加増しまくっても問題はなさそうな気もする。
それにブレストの奥さんのフレイさんが身籠ったらしいんで、また新たな親族が誕生するのも近い。
ラトールも嫁もらったし、適齢期になれば、子ができるだろうから、親族関係も多少は増えてくるはず。
譜代はエルウィン家に古くから仕えてる鬼人族か、俺の血を継ぐ子たちかな。
鬼人族はエルウィン家に対する忠誠心が異様に高い種族なので、裏切りの不安要素が少ないし、俺の血を継いだ子が当主を務める予定の家もこのカテゴリーに入れていいと思う。
現状だと鬼人族とリゼの子ユーリが継ぐ予定のアルコー家、イレーナの子のアスク、リュミナスの子アレスティナには、本領アシュレイを守る形で周囲の領地を与えてもいい気がする。
外様はそれ以外の家臣全般で有能な者って感じになるな。
できれば俺に対し個人的に心酔している者か、鬼人族との間に婚姻関係を結んだ者に限定していきたい。
外縁部の領地を任せることになるので、ある程度有能でないと事態に対処できないだろうし、裏切りの誘惑も多いだろうしね。
現状だと、カルアとバルトラート、ヨゼフ、ニコラス、ミラー、アレックス、レイモア辺りが候補者ってところだ。
特にうちの重要施設を管理するニコラス、インフラ整備部隊のレイモア、守りの要ヨゼフ辺りは、早目に領地持ちの貴族にして忠誠を繋ぎとめておきたい。
俺は浮かんだアイディアを手帳に書き留めると、大広間でだらけているマリーダの方に向き直る。
「マリーダ様! 遊んでいる暇など一瞬たりともありませんぞ! お家の繁栄のため今日も政務に励むのです!」
「いやーじゃー! 今日は狩猟したい気分なのじゃー! 馬を持てー! 妾は今日は狩猟なのじゃー! 働きとうないーーー!」
地獄の年末進行の余波でマリーダがさらに政務嫌いを加速させたらしい。
大広間から脱兎のごとく逃げ出すと、城内にある厩舎に向け駆け出した。
「あー、あれは重症ですねー。しばらく、政務はしてくれませんよ」
「年末に頑張っておられましたからね。さすがにまだ政務をしてくれるまでに回復はされておられぬ様子」
リシェールとイレーナが駆け去ったマリーダを見てため息を吐く。
たしかに去年の年末のマリーダは、人扱いされてない感じの政務をこなしたと思う。
リシェールからも子供たちからも酷使され、年末進行を乗り切った後のマリーダはいくさのいの字も口にしないほど、抜け殻だったからなぁ。
仕方ない、今日ぐらいは遊ばせてあげるのもありか。
「マリーダ様の本日の政務はなし、帰城まで自由にさせてあげるとしよう。ただ、私たちはサボるわけにいかないので、執務室へ行くとしようか」
「「承知しました」」
俺はみんなを連れて執務室に移動することにした。
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