第一七七話 愛しい子供たちとの再会
帝国歴二六七年 紅水晶月(一〇月)
「アレウスたん、ユーリたん、アレスティナたん、アスクたん! パパは帰ってきたぞ!」
アレクサ王国の侵攻作戦は完了し、アシュレイ城に帰城し、軍を解散した俺たちは子供たちの出迎えを受けた。
「父上! 母上! ご無事のご帰還! おめでとうございます!」
嫡男アレウスが凛々しく挨拶を口にすると、子どもたちが俺に抱き着いてくる。
「父上、兄上とともに母上不在の城をリゼ母上としっかりと守りました!」
「どうぶつー、ぞうさんー、あそぶー」
「あうー」
うぉおおおおっ! 遠征中にも子供たちが成長しているではないか! すげーー!
はぁー、血なまぐさいいくさと謀略でささくれだった心が癒されていくわー。
「そうか、そうか、みんなそれぞれ頑張ってくれたようで、パパは嬉しいぞ!」
乳母のフリンから受け取ったアスクを抱き抱えながら、よちよち歩きを始めたアレスティナが転ばないよう手を繋ぐ。
「みんなにはお土産あるから、居室に帰って配るとしよう」
「分かったのじゃー! アレウス、ユーリ、すぐに居室へ戻ろうぞ! お土産楽しみなのじゃー!」
って? あれ? マリーダさん? 貴方も一緒に遠征してましたよね?
子供たちだけのお土産しかないけど!?
アレウスとユーリを連れて、嬉々として居室へ向かうマリーダの姿に首を傾げる。
まぁ、いいか。
俺はアスクとアレスティナを連れ、居室に戻ることにした。
「納得いかぬのじゃーーー! 妾のお土産ーーーーー! ないなんて聞いてないのじゃーーー!」
嫁が地面を転がって、子供もドン引きのギャン泣きをしている。
「いや、だから……。マリーダ様はご自身のお小遣いで武具を購入していたはずですが?」
リシェールを伴って、アレクサの王都ルチューンで武具漁りをしていることは報告を受けている。
だから、お土産はないわけで――。
くれと言われても困る。
床に転がってギャン泣きする母親を気遣ったアレウスが、そばに寄ると、俺がお土産として渡した短剣を差し出す。
「母上、私が父上から頂いた短剣でよければ差し上げますが」
「兄上がそうされるのであれば、わたしもこの書物を―――」
「ねこさーん、かーいいよ」
「あうー」
子供たちがそれぞれもらったお土産を、マリーダに差し出していく。
「妾にくれるのか?」
子供たちはうんと頷いた。
「はぁー、しゅき、しゅきなのじゃ! 妾の子たちはいい子なのじゃ!」
床に転がってギャン泣きしていたマリーダは、起き上がると四人の子たちを抱き抱え頬擦りする。
「マリーダ様、アルベルト様がせっかくお子様たちに選んだお土産なので、もらったらダメですよ。マリーダ様のお土産は、このリシェールがしっかりと持ち帰りましたのでご安心ください!」
荷物の整理を終えて戻ってきたリシェールが、マリーダの背後に現れた。
「なんじゃと! それを早く言わぬか! アレウス、ユーリ、アレスティナ、アスク! アルベルトからの土産はそなたたちがもらってよいぞ!」
自分のお土産があると知り、喜んだマリーダが子供たちが差し出したお土産を押し返す。
「では、マリーダ様のお土産は、あちらに用意してありますのでお越しくださいー」
「妾のお土産はなんじゃろなぁ~♪ リシェール、待つのじゃ~!」
リシェールにいざなわれ、ニコニコ顔のマリーダが執務室の方へ姿を消した。
ああ、可哀想なマリーダ……。
リシェールの罠にハメられ、アレクサでやり残した仕事をするため、自ら死地に赴くとは……。
しばらくして、執務室からマリーダの絶叫が聞こえてくる。
「だ、騙されたのじゃーーーー! 嫌じゃあぁああああっ! 聞いておらぬのじゃーーーー!」
心配そうに執務室を見る子供たちに視線を合わせ腰を屈めると、ニコリと笑う。
「ちゃんと決められたことは守らないと、マリーダ様のようになってしまうからね。気を付けるように」
アレウスとユーリは若干蒼ざめた顔で頷くが、アレスティナは抱えたねこさんに気を取られ聞いている様子はなかった。
「ああ、間に合わなかった。マリーダ姉様は監禁か。久しぶりに会って話したいことがいっぱいあったのに」
「仕方ありません。政務の遅れが目立っておりますし、新たに得た領地も早めに手当てをしないといけません。アルベルト様も遊んでいる暇はあると思わないでくださいね!」
留守を任せていたリゼが、政務の代行を頼んでいたイレーナを連れ居室に入ってくる。
「おかえり、アルベルト。そう言えば、後方支援を担ってくれたデニス様は一足先に領地に帰還されたよ。よろしく言っておいてくれと伝言を頼まれた。今回の功績で領地ももらえたみたいだし、臣下の人もわりと言うこと聞いてくれたって自信を持ったみたい」
オルグスが行った市民を盾した暗殺者潜入作戦で捕虜にした市民8000人を、ティアナで管理して、戦後に送還してくれたのには感謝してる。
竜鱗族のデニスの軍は、軍勢としては期待できない戦力だったが、見た目のいかつさで治安維持には役に立ってくれた。
多少の物資の滞りこそあったが、大きな問題に発展せず、大貴族の息子にしては人の意見をよく受け入れ、地味で無難な後方支援活動を行ってくれたと思う。
魔王陛下も満足したから、新たな領地を授けたんだろうし。
足手まといかと思ったけど、意外と頑張った。
もしかしたら、意外とやれるやつなのかもしれない。
「そうだったのか。後で私からもお礼とお祝いの書簡を送っておこう。さて、パパはお仕事が残っているみたいだから、皆は遊んできていいぞ。フリン、カラン、エミル、子供たちを頼む」
奥から出てきた乳母たち3人が、子供たちを連れていった。
残った俺はイレーナの眉間の皺の深さが政務のピンチさを物語っていると察し、腕まくりをする。
「さて、お仕事しますかー」
「よろしくお願いします!」
「アルベルトに引き継ぐ報告もあるから、オレも手伝うよ。マリーダ姉様にも遠征中のことは伝えないといけないしね」
「ああ、頼む」
俺たちはマリーダの絶叫が響く執務室に足を運び、積み上がった政務を正常化させるため、全力で仕事にあがることにした。
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