第一七五話 女王アスセナの秘密? 後編



「はぅ……。妾があのようなことをさせられるとは……一生の不覚なのじゃ……」



「アルベルト様に、あの程度で許してもらえたことを感謝した方がよろしいかと」



「アルベルト様は本当にお強い方なのですね。マリーダ様にあのようなことをさせられるとは、すごいとしか」



 式典の当日となり、リシェールに衣装を着せてもらっているマリーダが、しおしおと萎れている。



 昨日は俺も久しぶりに頑張った! ずっと謀略の手配で忙しかったこともあり、嫁とイチャイチャできてなかったから頑張っちゃった!



 もちろんリシェールとアスセナにも頑張った!



 おかげで腰が逝きそうである。



 腰をさすりながら、式典に出るための正装に着替えていく。



「アスセナ様、マリーダ様、アルベルト様、式典の用意が整いましたので、広場にお越しください」



 アスセナの親族が、国家樹立の式典準備ができたことを告げてきた。



 俺たちは急いで支度を終えると、部族の代表が詰めた広場にできた舞台に移動する。



 全部族が出席してるな……。



 拒否する者が出るかと思ったが、女王となるアスセナの後ろ盾となったエルウィン家の武勲は、南部諸部族にも噂として広がっているし、従った方が無難と見たのだろう。



 何かあれば、女王を人質にして、国家ごと乗っ取ろうと画策してるやつらもいるだろうしな。



 けど、残念なことに女王はアシュレイ住まいで、現地にはほとんど帰ってこないわけだが。



 例の衣装を着たアスセナが、演台の前に立つと、集まった部族の男たちからどよめきが起きる。



「我ら南部諸部族の祖霊より、この地を治めよとの霊言を賜った。これよりは、国名を定め、国家としてまとまり、さらなる繁栄を目指そうと思う! このことに異議ある者は挙手せよ!」



 演台に立ったアスセナは、ほんわかした不思議系の女性ではなく、威厳ある女王として振舞っている。



 性格が急変してる気がするが、神様か祖先の霊でも下ろしてるのか……。



 もしくはあっちが本来の性格だったりして……。



 部族の男たちはアスセナの放つ神性に打たれ、黙したまま聞き入っている。



「意義ある者はないと見た! これより先、南部諸部族に属する各部族は、国として興すロダ神聖部族同盟国を守り支える聖なる誓約を交わす。この誓約を破れば、一族は末子に至るまで族滅され、名も記されぬこととなる! それでもよいか!」



 アスセナが放った周囲を圧する声に、広場の男たちが息を飲む音が聞こえてきた。



 反対など口にできないような威圧感をアスセナが発しており、神秘的な金色の瞳に魅入られると、全てを見透かされるような感覚に陥る。



「アスセナたんは、いいのぅ。ぞくぞくするほどいいおなごじゃ!」


 

 不思議な魅力があるなとは思ってたけど、ここまで化けられるとは、俺も予想外だな。



 ワリドはそこまで見越して、このアスセナを連れてきたのだろうか。



 広場に集まった部族の男たちは、誰一人反対する様子を見せず、アスセナの視線によって身動き一つできないまま固まっていた。



「誓約に反対する者はないと見る。では、誓約を交わすための儀式を行うとしよう!」



 アスセナは自分の親族の男に視線を送った。



 親族の男たちは、舞台上に縄に縛られた南部諸部族の男を引き出し並べた。



「この者たちは、ロアレス帝国との聖なるいくさを穢し、わが国の栄誉に泥を塗った恥ずべき部族の長!」



 舞台の上に引き据えられたのは、ロアレス帝国の寄港地で降伏した連中を斬って手柄にしようとした連中だった。



 彼らの処理は新女王となるアスセナに任せると告げてあるため、どんな裁定が下るかは俺も知らない。



「新たに興すロダ神聖部族同盟国の兵士に卑怯者はいらぬ!」



 アスセナは脇に控えていた女官が持つ剣を引き抜くと、縄を受けて動けない男たちの首に振り下ろした。



 男たちの首は半ばもげ、鮮血が噴き上がり、アスセナの身体に降り注ぐ。



「異議ある者はあるか?」



 鮮血を浴びたアスセナが、広場の男たちを威圧するように問う。



 男たちはまさか斬るとは思ってなかったので、度肝を抜かれ、声一つあげることもできずにいた。



「よいのぅ! よい、よいおなごじゃ! のぅ、アルベルトもそう思うじゃろ!」



 普段と違いすぎて違和感しかないが、国を治める長としてはいい判断をしたと思う。



 舐められたら終わりだしな。



 いくさで自分勝手に行動すれば、死罪だとこの場にいる者に一瞬で分からせたのは上手いと思う。



「返事がないな。もう一度問う! 意義ある者はあるか!」



 アスセナの問いに男たちは雷に打たれたように、姿勢を正す。



「「「「「異議なし」」」」」



 声を揃えて、皆が頭を下げた。



「では、この血で誓約書に部族の名を書き連ねよ。これよりは、アスセナ・ロダがこの国を治めることとする!」



 演台の上に剣を突き立てたアスセナは、そのまま台の上に腰を下ろすと、男たちは睨みつける。



 その後、南部諸部族の族長たちは、自ら進んで誓約書に部族の名を書き記し、アスセナに忠誠を誓うことになった。



 そして、統治の実務は女王アスセナが委嘱した部族会議の面々が担うこととなり、ロダ神聖部族同盟国は国家としてエルウィン家と、エランシア帝国の承認を受けることとなった。



 もしかしたら、俺たちはとんでもない人物を身内に引き込んだのではという思いもあるが、ベッド中じゃものすごく可愛くて、かいがいしい子なんだよなぁ。

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