第一七〇話 大国の後始末
帝国歴二六七年 真珠月(六月)
アレクサ王国の王都ルチューンは陥落し、王であったオルグスは断頭台の露と消えた。
でも、まぁ、王都を落とし、王を抹殺したが、アレクサ王国自体が消え去ったわけじゃない。
人族国家であるアレクサ王国は、亜人国家であるエランシア帝国を非常に嫌っている者が多い土地だ。
アレクサ王国南部は、特にその傾向が強い者が多く、王都防衛に参加しなかった貴族と、こちらの謀略に乗らなかった貴族が兵を集め、国家を維持しようと動いている。
「意外としぶといですね。アレクサ王国。もっともろいかと思いましたが。こちら、生き残っているアレクサ王族の動向をまとめた報告書です」
占拠した王城の一室で執務をしていた俺のもとに、報告書を携えたリシェールがやってきた。
受け取った書類に目を通していく。
前国王の兄弟は1人。すでに臣籍降下してヴィゼン公爵となり、南部に領地構え、今回の王都防衛には不参加。
前国王の息子は2人。オルグスとゴラン。
オルグスは死亡、ゴランは正統アレクサ王国の王としてエランシア帝国皇帝の血縁に連なる妃を迎えている。
オルグスの嫡子は攻防戦の最中に反乱兵に斬られ死亡。
次男は捕らえられ、一緒に断頭台行き。
庶子は5名ほどいるが、全員捕縛されてこちらの手の中って感じか。
「アルベルト様、悪い顔してますよ」
勘のいいリシェールが、書類を読む俺の表情から何かを読み取ったようだ。
そんなに悪い顔してたかな? 最近、謀略ばかり仕込んでるし、悪い顔が張り付いて取れなくなる前に、早いところお家に帰って子供たちと遊びたい。
ああ、いかん。いかん。仕事に集中しないと。
アレクサ王位を正式に継げる者は、ヴィゼン公爵、オルグスの二人だが、捕えているオルグス庶子5人にも働いてもらうとしようか。
降伏したアレクサ貴族たちも、ゴランに心服してないやつらも多いだろうし。
混沌と化したアレクサ王国をさらに混乱させる。
「捕えてあるオルグスの庶子たちの監視を緩めてやってくれ。あと、降伏したアレクサ貴族も怪しいやつの監視を緩めてもらっていいぞ」
「それって、アレクサ南部を5分割するつもりですか?」
「相変わらず、勘がいいね」
「まぁ、近くにいますのでなんとなく察しました」
「魔王陛下からは、南部までは制圧しろと言われてないからね。ゴラン殿の王都統治を確固たるものにするため、アレクサ南部で庶子殿たちとヴィゼン公爵と互いに争ってもらうつもりだよ」
庶子たちには継承権は与えられてないが、それぞれの勝手に担ぎ上げて、あわよくばアレクサ王国再興戦で活躍し、その後によい地位を得たい貴族が出てくるはず。
ヴィゼン公爵も庶子たちを無視することもできないだろうし、庶子たちもワンチャンを狙うやつがいるだろうから1つにまとまらないはず。
「ゴラン様には、このことをご連絡しときますか?」
「まぁ、大丈夫だろ。南部鎮定はアレクサ王として試練みたいなものだし、ここまでお膳立てしてひっくり返されるようなやつなら、魔王陛下が血縁者を妃には出さないはずだしな」
ゴランも新たに得た王都周辺の統治で忙しいだろうけど、五分割されまとまらないアレクサ南部を鎮定できるくらいの力量は持っていると思う。
もちろん時間は、かかるだろうけどね。
おまけにアレクサ南部の領地も荒れて、復興にも時間がかかるようになるし、エランシア帝国の属国を脱する時期も遅くなるはずだ。
「承知しました。ゴラン様には告げずに、ワリドさんたちに実行してもらいますねー」
「ああ、頼む」
「あと、マリーダ様がまたおなごが欲しいと騒いでおりますけどどうします?」
いくさの後だし、血が滾ってしょうがないんだろうけどもなー。
昨日も激しかったから、俺も頑張っちゃったわけだし。
でも、新しく愛人にした南部諸部族の作る新たな国家の女王候補アスセナもいるし、カルアもいるんだから満足してると思ったが――
「分かった。下手に女漁りされて、面倒なアレクサ貴族の娘を引き取られても困るから、私から説得しよう」
「ありがとうございます! いくさの後ですし、今のマリーダ様は、あたしでは制御できかねますので」
俺は手にしていた書類を机に置くと、リシェールを伴い、マリーダのいる部屋に足を向けた。
ノックをして返事を待たずに部屋の中に入ると、全裸のマリーダがカルアとアスセナを両脇に侍らせてベッドの上にいる。
「アルベルトー、妾はおなごが欲しいのじゃー!」
全裸で侍っていたカルアとアスセナがいそいそと、ベッドから降り、服を着始める。
「カルアもいますし、アスセナを愛人として迎えたばかりではありませんか」
線こそ細いものの、褐色肌の黒髪に金色の瞳をした神秘的な容貌をした20歳の女性であるアスセナが頬を赤らめる。
南部諸部族は、複雑な血縁関係で互いに結んでいるが、アスセナの家はその南部諸部族中でも上位の家で、彼女自身も諸部族会議ではシャーマン役を務める有名人だった。
そんなアスセナを、ワリドが新たな南部諸部族の興す国の女王にしようと、マリーダのもとに連れて来ていたのだ。
もちろん、とびきりの美女であったため、マリーダの返事は即日愛人化。
俺も血統に問題はないとのと、本人の知性に惹かれ、嫁の愛人化を了承し、側室になってもらうことも本人から了解を得ている。
「マリーダ様はいくさでの疲れを癒したいと申されておりまして……。もしよければ、南部諸部族から見目のよい女性を私の世話役として呼んでもよろしいですが」
好色大将軍のマリーダに、いろいろと初めてを蹂躙されたアスセナはすでにメロメロにされてしまっている。
もちろん、俺もご相伴に預かっているわけだが。
「アスセナ、マリーダ様を甘やかしてはいけない。カルア、悪いが外で鍛錬に付き合ってやってくれ。ラトールやブレスト殿、バルトラートたちも使っていい。あと、王城周辺の哨戒任務も行うように」
「承知した。リシェール殿、マリーダ様を着替えさせる手伝いを頼む」
「はいはい、マリーダ様、起きてください」
「仕方ないのぅ。鍛錬と哨戒任務で手を打つとするかのぅ。怪しい輩は切り捨ててよいのじゃな?」
「斬ってもいいですが、ちゃんと怪しい輩だという証拠は残してくださいね。捏造したら、ノルマ30枚追加ですので」
「きひぃ! 妾の楽しみがーー!」
すぐ証拠を捏造して、斬り捨てようとするのは困る。
まぁ、天性の嗅覚というべきか、だいたいいつも間者を斬り捨ててるわけだけどさ。
リシェールとカルアに着替えを手伝ってもらったマリーダは、寝室を出て鍛錬と哨戒任務向かった。
「さて、マリーダ様の件はこれでよし、アスセナにはちょっと頼み事があるんで一緒に来てくれ」
「は、はぁ。承知しました」
俺はアスセナを伴い、ゴランの居室を訪れることにした。
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