第一六九話 王都ルチューンの陥落と悪王の末路


「王都ルチューンに籠る者どもに告げる! 貴様らはすでに包囲されている! すみやかに降伏し開城せよ!」


 鬼人族で、大声自慢の者を集め、紙の大きなメガホンを持たせ、王都に響くくらいの音量で降伏勧告を行っている。


 もちろん、一日中ずっとだ。


 眠らせないで、相手の思考力を下げる意図もある。


 人間、寝れないと苛立ちから攻撃的になり、不満が噴出しやすくなる。


 領民の不満は、敵である俺たちじゃなく、籠城を選んで立て籠もるアレクサ軍に向けられるはずだ。


「貴様らの王は、卑劣にも老人や女、子供を兵に仕立て剣で脅し、我がエランシア帝国軍にけしかけ、卑怯にも紛れ込ませた暗殺者で暗殺を狙ってきた国主にあるまじき卑怯者である! そのような王のため苦しむ必要があるのか!」


 ないな。王が自らの保身に走り、国が保てるわけがない。


 オルグスは使ってはいけない策を使った。


「これより、警告射撃を行う。目標、王都ルチューンの城壁! 放て!」


 俺は傍らに控える砲兵たちに向け手を挙げると、振り下ろした。


 弾込めを終えていた砲門から鉄球が城門に向け撃ち込まれていく。


 破壊はできないが、精神的なダメージを与えるに持ってこいだ。


 さすがに王都ルチューンは、ドットナム城の時みたいな無茶な砲撃をさせない。


「次弾装填! 各砲門、砲撃中止の指示があるまで自由射撃開始!」


 装填作業を終えた砲門から次々に鉄球が撃ち出され、轟音を上げて王都ルチューンの城壁に突き刺さる。


 砲撃が20射を超えたところで、城壁の上に白い旗があがった。


 すかさず、紙のメガホンを持つ鬼人族へ視線を送り、降伏の条件を再度伝えさせる。


「降伏するのであれば、国王オルグスを捕え、身柄をこちらへ引き渡し開城をせよ! それがなされない限り、砲撃は止まらない!」


 こちらの声が聞こえたようで、白旗を振っていた兵士たちが、蜘蛛の子を散らすように城壁から消え去った。


 しばらくすると、白旗が再び上がると同時に、固く閉ざされていた王都の大門が開き、数名の騎士たちが縄で縛られ、顔を布袋で覆われた男が引きつられ、堀にかかる橋の上にまで出てきた。


「砲撃止め! リシェール、戦闘準備の太鼓を鳴らしてくれ! 目標は敵城の奪取! 抵抗しない領民と武器を捨てた兵は斬らず捕虜、敵意を見せた者だけ斬ってよしで通達を頼む」


「相手が降伏して、開城したのに攻めていいんですか?」


「うちの凶悪さを目に焼き付けてもらわないといけないしね。ゴランもその方がのちの統治がしやすいだろうし」


「承知しました」


 リシェールが部下に出陣の太鼓を打つよう合図を送ると、陣がにわかに騒がしくなり、3分後にはマリーダ始め、脳筋四天王が馬に乗って、城に向かい駆け出していくのを見送った。


「相変わらずいくさとなるとマリーダ様は早い。南部諸部族の子を面接してたから、もっと遅いかと思ってたのに」


 先陣をきったマリーダが、橋の上にいた国王オルグスを捕えて突き出そうとしていた騎士たちを全員切った。


 もちろん、布袋を被った男ごとだ。


「マリーダ様がオルグスを斬っちゃいましたよ? いいんですか?」


「どうせ影武者だろ。あのバカ王が自分を犠牲にするわけがない。アレックス、ミラー、農兵たちには王都から脱出する者がいないか周囲を警戒させるようにしてくれ。落城のドサクサが一番逃げ出しやすいだろうからね」


「承知、周辺部の哨戒を厳重にします!」


 ミラーとアレックスが鎧を鳴らし、逃げ出すであろうオルグスの捜索をするため、駆け去っていく。


「オルグスに万が一でも、逃げられると厄介ではありませんか?」


「それはそれで、正統アレクサ王国に忠誠心の無い者の選別ができる。オルグスを捕縛できて断頭台に送れたら、ご落胤を立てて反ゴラン派の貴族を炙り出して処刑してもいいだろうし」


「たしかに潜在的な敵ほど面倒ですからね。承知しました。王都を接収したら、オルグスの子らの所在確認も進めます」


「ああ、頼む」


 王都ルチューンの中に突入した脳筋たちが、敵意を見せた連中を叩き伏せているのか、風に乗って喚声がこちらまで届いてきていた。


 城は半日後には制圧され、影武者を身代わりにして逃げ出そうとしたオルグスたちアレクサ王国首脳陣は、アレックスとミラーの敷いた厳重な哨戒網に掴まり捕縛された。


 そして、オルグスは今、広場に設置された断頭台の上に引き据えられて喚いている。


「おい! アルベルト! わたしを助けろ! 王都はお前らに譲ってやる! わずかな資産をもらい、ひっそりと片隅で――」


「オルグス殿は、簡単に王都を譲ると申されますが、アレクサの領民が気になられませんか? 我がエルウィン家が王都の領民を全てなで斬りにする可能性もありますし、奴隷としてエランシア帝国領に連れ帰るかもしれぬのですよ?」


 俺が集まった住民たちに視線を向けると、本当にやりかねないとざわつき始める。


 まぁ、人は欲しいが反抗的な人はいらないので、アレクサの民はアレクサから自分で逃げ出したやつしか信用しない。


 ゴランに押し付け、アレクサ王としてまとめ上げてもらった方が効率よく、いろいろと搾り取れるし、酷使できるからね。


 なので、この質問はオルグスのクズ回答を引き出すための餌でしかない。


 殺される王は英邁であってはいけない。徹底的なクズの悪王でないと、ゴランの統治にも影響が出る。


「わたしの命は領民などよりも何十倍も重いのだ! アレクサ王たるわたしが助かるためなら、領民もよろこんでエランシア帝国の奴隷になるだろう!」


 俺の言葉を聞いたオルグスは、そのよく動く舌でこちらの望む言葉を紡ぐ。


 広場にいる領民からは、嘆きと怒りの混じったため息がそこかしこから漏れ出した。


「オルグス殿、民を慈しむという心が貴方にはないのですか?」


「民とは王に仕えるものだ! なにゆえ、わたしが民などを慈しまねばならんのだ! 神に選ばれた尊き者に仕えられる栄誉を与えてやっているだけでもありがたいと思わねばならんのだぞ! お前も我がアレクサ王国の生まれならば、わたしに尽くすべきだったのだ!」


 仕えるに値する人だったら、仕えてたけどね。


 残念だが、マリーダの方が数千倍、仕えるに値する人物だし、魅力的だ。


 寝ぼけたことを言う前に顔を洗って出直してきて欲しい。


「クソボケがぁあああ! お前みたいなのが王なって言ってるから、こんな目に遭ったんだ!」


「なにが民が王に仕えるのが当たり前だ! 俺たちはお前の奴隷じゃねえ! ふざけるな!」


「いくさ、いくさ、いくさ、ずっと我慢してきたけど、もういい。アレクサ王国なんて潰れちまえ!」


 オルグスの本心を知った領民たちが、断頭台に据えられたオルグスに足元の石を投げつけ始めた。


 失政続きで王都すら保持できなかった暗愚な王へ、どんどんと怒りをぶつけてくれ。


 ゴランは少なくとも重税を課したり、いくさを好んでやるやつじゃないから、今よりはマシな生活が戻ってくるはずだ。


 本来、アレクサ王国は人族国家でも大国と言われる国だったんだし、まともな王が上に就けばまともな国になる。


「貴様らぁ! このわたしに向かって石を投げるなぁ! 当たったら怪我をするだろう! 控えろ! 下賤な輩ども! やめろぉおおおおっ!」


「悪王なんぞ! 殺せ! こいつのせいで――」


「そうだ! 殺せ!」


「殺せ!」


 失望からの怒りが殺意に変わり、領民たちからオルグスを殺せと大合唱が起きた。


 最後の最後までクズな男で非常に助かった。


「非常に残念なことですが、民の要望が貴方を生かすなとなりました。これは、貴方自身の言動と行動が引き起こした結果だとお受け止めください」


 俺は視線で断頭台の刃を落とす係に合図を送る。


「待て! 待て! 待て! わたしは死にたくない! 死にたくないのだ! やめおぉおおおおお―――」


 縄が斬られると、重みで落ちた刃がオルグスの身体と首を別々に分けた。


 続けて、アレクサ王国の無能な首脳陣たちにも断頭台の刃が次々に振り落とされていった。


 こうして、俺の生まれ故郷であるアレクサ王国は、長く統治した王都ルチューンの領有権と王を失い、国家としての中心を失うことなった。




―――――――――――

皆様の応援のおかげでいせよめ書籍版二巻の続刊が決定しました!


二巻は更なるエッチ度マシマシを目指し、原稿作業に入るため、連続更新はアレクサ王国戦が終わった本日で、一旦終了させてもらいます。


更新再開は新作や原稿作業に進捗に応じてといったところになってしまいますが、お暇であれば、書籍版読んで頂ければ幸いです!

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