第一四五話 試射会を行うことにした
帝国歴二六六年 紫水晶月(二月)
今日は元石砲傭兵団員たちに支給を約束していた鉄砲の試射会の日だ。
会場はメトロワ市とアシュレイ領を繋ぐ街道上に作られた防衛用の砦の城壁の上。
視線の先のテーブルには、鉄砲制作を専業にした鍛冶師たちが量産したエルウィン家謹製の第一世代火縄銃200丁が並べられている。
「ヨゼフ殿、やっと完成しましたよ。鍛冶師たちも頑張ってくれました」
「ようやくですか! 試作品を下賜して頂いたから、団員たちに訓練を施し、ずっと完成を心待ちにしておりましたぞ!」
施策の火縄銃は10丁ほどしかなかったので、不便をかけていたと思われる。
集められた団員たちも目をキラキラさせて、火縄銃に興味津々である。
脳筋たちには『手間がかかるわりに威力がない』と大いに不評な火縄銃だが、一般的な傭兵である石砲傭兵団員たちからしたら、安全圏から敵を攻撃できる武器であった。
彼らには、今後量産される火縄銃を農民兵たちの指導役も担ってもらうため、大いに技量を高めて欲しい。
「火薬も弾丸も十分に用意しましたので、本日は納得するまで試射を行ってください」
「ありがたい! 皆の者、アルベルト殿のご厚意に甘えさせてもらい、今日は存分に技量を鍛えることとしよう!」
ヨゼフが指示を出すと、団員たちがそれぞれ火縄銃と玉薬を持ち、持ち場に散っていく。
この砦はヨゼフがヴェーザー河を船で進む敵軍に対し、防衛をする拠点として設計、建設したものだ。
小規模な砦ながら、陸からの攻撃に対しも堅牢に作ってあるし、なにより河川上の船を狙い撃てるようにも作ってある。
敵が河川上なら攻撃できねぇだろう、ヒャッハーって油断してたら、火縄銃でズドンと頭を射抜かれてしまう。
ちなみにこの砦周辺の河川には、喫水の深い船に引っ掛かるよう鉄鎖がいくつも仕込んである水域になっていた。
不用意に航行すれば大型船だと鉄鎖に絡み取られて、座礁したりする。
ロアレス帝国とかに侵入され、本領を荒らされるのも困るので、この砦はさらに拡張しておきたいところだ。
「弾込め! 火縄を付けろ!」
周囲にあっという間に火縄の焼ける匂いが充満する。
今回の射撃の的は、河川を下る船に掲げた木の板を用意した。
100メートルクラスの射撃となるため、ある程度腕が無ければ当たらないと思われる。
「火蓋を切れ!」
200丁の火縄銃が河川を下る船の的に定められる、
「放て!」
白煙がもうもうと立ち上がり、雷鳴のような音が連続してとどろき渡った。
船上の木の板が次々に割れる。
わりと命中率が高いな。
これなら、近づくだけで死傷者の山ができそうだ。
「次弾、弾込め!」
ヨゼフの号令に従い、団員たちは手早く次弾を装填していく。
連射速度もこの火縄銃の攻撃力を上げるための必要な技術であるが、団員たちはイメージ訓練を続けていたのか、驚くべき速さで装填を終えた。
「構え!」
新たな目標に向かい装填を終えた200丁が再び構えられる。
次弾装填まで30秒切ってるな。
練度はまずまずってところだ。
「放て!」
二度目の白煙と轟音がとどろいた。
放たれた銃弾は的を粉々に砕いていた。
「ふむ、よい腕ですね。さすが石砲傭兵団です」
「まだまだです」
「鍛冶師たちも量産と並行して、改良品の制作に意欲的なので、ヨゼフ殿たちからの要望や感想もお待ちしております」
「承知しております。この武器は、きっと戦場を変える武器になるはずなので、うちも協力を惜しみませんよ」
火縄銃は技術的に再現できたので、次世代はフリックロック式とかも作らせてみようか。
それに船に積む火砲も作りたいと思っている。
青銅の鋳造火砲とかだったら、今の技術レベルでも再現できそうな気もする。
ヴァンドラの最新鋭外洋帆船に鋳造火砲を積めば、砲力で敵を圧倒できそう。
「アルベルト様、我らはまだ試射を続けますが、お疲れであれば砦内に部屋をご用意してあるので、お休みください。政務でお疲れでしょうしな」
「いやいや、お気になさらず。お邪魔にならぬ場所で皆様の試射会を眺めておきますよ」
「そうですか、承知しました」
試射が再開されたのを眺めながら、エルウィン家の火力向上策を終始考えていた。
用意された火薬と弾丸を使い果たした頃には、夕暮れとなっており、火縄銃を持った彼らがこの砦に詰めれば、敵へ多大なる出血を強いることができるはずだと確認できた。
アシュレイ城も火縄銃を有効に活用できるように改修をしていかなとな。
火縄銃に有効性脳筋たちは嫌がるだろうけど、詰める兵は農民兵とかヨゼフたちだから、無視しておいてよい。
アシュレイ城の防備もヨゼフに意見を聞こう。
難攻不落の大堅城にせねば。
翌日、200丁の火縄銃を受け取り、追加の弾薬を受領したヨゼフたちはホクホク顔で任地のメトロワ市に帰還していったのを見送り、俺はそのまま試射会で得た情報を鍛冶師たちと改良型の検討会を行うことにした。
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