第一四四話 新年に息子の成長を確認してみた。
帝国歴二六六年 柘榴石月(一月)
年越しのお風呂タイムも堪能し、新年が明けると、朝から脳筋たちが中庭で酒樽を開いて酒に舌鼓を打ち騒いでいる。
まぁ、新年なので今日くらい騒ぐのは許してあげるけども、仕事始めは酒抜きの長距離走大会でも企画するか。
「ちちうえ、新年おめでとうございます!」
新年の初鍛錬をマリーダとともに終えたアレウスが、廊下でたたずんでいた俺に声をかけてきた。
「おめでとう。鍛錬はどうだった?」
「ははうえは、明らかにわたしに対し、手を抜いておられました! 全力でとお約束したのに!」
よく見ると、アレウスたんの腕や足には、木剣で打ち据えられたあざが垣間見える。
さすがに野生児マリーダも実の息子には甘いらしい。
世界最強生物の攻撃を受けて、生きていられるだけでも素晴らしいことだと思わねば。
「マリーダ様は、この世界で一番強い戦士。普通の兵では手加減されても立っておられぬほどの強さだ。それを受けられたアレウスは成長していると思う。父としてはそんなアレウスの成長が嬉しい限りだぞ」
「ですが、ははうえを超えねば、時期当主として皆が認めてくれませぬ」
「その点は、大丈夫! マリーダ様が嫌がる当主の仕事を成人したアレウスがきちんとこなせば、皆は褒めたたえてくれるし、尊敬もしてくれる。常日頃、私が言っているように、当主の仕事も、またいくさであるのだ。次期当主としてそこもきちんと自覚してもらえると助かる」
アレウスは、通常の鬼人族とは違い、鍛錬のみの生活を行っておらず、ユーリとともに本を読み、筆を持つ時間もきちんと行っているのだ。
おかげで鬼人族の変態チックな癖の強さを今のところ見せず、文武ともに優れた男に成長しそうな素地を見せてくれている。
頼むから脳筋に染まらないで欲しい。
でも、武勲を立てられるくらいは武勇も欲しいが、それがもとで脳筋になられても困る。
でもでも、そもそもアレウスたんを戦場に送り込むことを俺ができるのか。
むりむりむり! 大事な子を戦場に送り出すなんてむりっ! 大事に金庫の奥にしまっておきたい!
アレウスにかけた言葉とは裏腹な思いが脳裏を横切っていく。
「ちちうえ、いかがされましたか? さきほどから表情が二転三転しておりますが」
「アレウスたんを戦場に出すなんてむりぃいいいいっ!」
戦場に送り込む姿を想像したら、思わず可愛い息子を抱き締めてほおずりしてしまった。
「アルベルトの子煩悩さは、異常じゃな! 鬼人族の男子たる者、いくさを経験せねばならん! エルウィン家の軍師として息子も駒の一つと考えよ。そのような姿を見せれば鬼のエルウィンの金棒アルベルトの名が泣くのじゃ」
「だって、だって! 愛する息子があんな殺伐とした戦場に立つなんてことを考えたら、その前に世界を滅ぼすしかないって答えが出るんだよっ!」
「アルベルトだと、本当にやりかねんから、恐ろしいのじゃ。アレウス、父が世界を滅ぼさぬよう、鍛錬の成果を見せるとよいのじゃ。妾がもう一度手合わせしてやる」
「しょうちしました。ちちうえ、ははうえとの手合わせを見ておいてください」
アレウスが俺の手から抜け出すと、愛用の木剣を手にしてマリーダに打ちかかっていった。
結果はアレウスの惨敗ではあるが、一般的な子供とは思えぬほどの使い手であり、今の自分が対峙したら油断ができない相手だと思える腕前だった。
はぁー、うちの子は天才かっ! マジで、世界最強の戦士で世界一の思考力を持つ、完全無欠の男になる気しかしない!
「ふぅ、ちちうえいかがでしたが?」
「よくやった! ほめてつかわす! リシェール、カランとフリンに打撲に効く膏薬を持ってくるように伝えてくれ!」
廊下の奥で忙しそうに食事の配膳をしていたリシェールに声をかけると、しばらくして乳母のカランとフリンが薬を持って姿を現す。
「まぁ、大変ですね! アレウス様、すぐにお薬を塗りますよ!」
「マリーダ様、少しは手加減をいたしてくださいと常々申し上げいるはず。アレウス様にもしものことがあれば――」
マリーダ自体は、鍛錬以外の育児を放棄しているため、乳母のカランとフリンが母親としての仕事をしていた。
「妾は母として息子の成長を願い、鍛錬を――」
「分かりますが限度というのが――」
フリンとカランに責められたマリーダがバツの悪そうな顔をして逃げ出して行った。
「フリン、カラン、悪いが早くアレウスの手当てを」
二人はここに来た理由を思い出し、アレウスの手当てを始めた。
俺は二人にアレウスを任せると、まだ仕事始めではないのに執務室に足を運ぶ。
さて、今年のやることリストを更新しておかないとな
その前に去年のハイライト!
・諜報組織を拡充したよ!
・梟人族のスヴァータを一族ごと雇った。
・女詐欺師オリアーヌをノット家に所属する女伯爵としてファルブラウ家に送り込んだ!
・石砲傭兵団ヨゼフたちを家臣として取り込んだよ!
・魔王陛下の嫁の実家ルーセット家と懇意になっていくさ船(島亀型)ゲット!
・ヴァンドラのジームスに脅しと贈り物を与え、最新鋭外洋帆船建造計画を取りつけ、建造技術をルーセット家に横流しに成功したよ!
・モラニー市陥落、ジームスへ譲渡。
・赤熊髭派閥の謀略を逆手に取り、フェルクトール王国軍を撃破!
・赤熊髭、魔王陛下に叱責され領地没収(ざまぁ)
・ブモワ、残念ながら戦死(南無)
・リリンド領、ゲット! ステファン領に続く西の街道はうちが確保したよ!
・ファルブラウ家の嫡男デニスが女詐欺師の口車に乗って、親を幽閉し当主となった!
・イレーナとしっぽり頑張ってた結果、第四子妊娠!
いくさ船を利用した電撃作戦を完遂できたことで、海上輸送能力の拡充もしていくつもり。
赤熊髭や風見鶏からの報復には気を付けておかないと。
やることリスト二六六年!
・赤熊髭派閥と風見鶏派閥に対しての諜報活動充実(ラルブデリン領の拠点へ人員拡充)
・ロアレス帝国の黒虎将軍に対しての諜報活動充実(専属チーム拡充)
・国内の諜報活動充実(マルジェ商会員の拡充)
・領内の度量衡の統一(ラルブデリン領完了→リリンド領開始)
・領内の農村の正確な納税基礎台帳の作成(ラルブデリン領完了→リリンド領開始)
・領内の産業振興(鋳造施設による火砲製造や銃の量産化)
・アシュレイ近郊の貿易港の拡大(倉庫群完成→小型造船所建設)
・メトロワ市にエルウィン家の軍港整備(泊地、係留地の整備)
・水軍の艦艇建造に向けた木材調達(ラルブデリン領で切り出し搬送)
・人口増加策促進(早婚奨励金・未成人者の人頭税免除実施)
・子作り!(五人目)
鉄砲の量産と鋳造火砲の製造は防衛力向上のため、優先的に資金を回していきたいところだ。
あと、水軍も五年計画で整備予定だが、年間六隻就航するため、船長や船員の育成もしなければならない。
アレクシアが船長をしていた船の船員と、ルーセット家がいくさ船の運用につけてくれた船員しかいないので、早急な強化が必要だと思われる。
船があっても人員がいないでは役に立たないからな。
対ロアレス帝国に向けての布石なので、巨額出資となるが、戦力は拡充しないと。
戦力だけでいけば、辺境伯家、侯爵家クラスの人員を抱えてるし、これからもまだ増えるから金、金がいるなぁ。
それにイレーナの子も生まれるし、子供たちの養育費もこれからかかるだろうし、お金いっぱい稼がないとね。
どっかに美味しい商売の種は転がってないかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます