第一四三話 帝国歴二六五年決算報告書

 帝国歴二六五年 瑠璃月(一二月)


 イレーナの懐妊が確定し、明年には新たな子が生まれるわけだが――。


 年末進行に巻き込まれて、行きつく暇もなく、仕事に追われている。


「エミルたん! 妾は仕事納めになったのじゃ! これより、皆を呼んで湯殿で年越し風呂接待を所望するのじゃ!」


「はーい、今準備してますので、お待ちくださーい」


 今年中に必要な決裁をやり終えたマリーダが、さわやかな笑みを浮かべ、お風呂係のエミルを呼び出していた。


 温暖な部屋と温かいお湯が必要なエミルが快適に生活できるように、手狭だったプライベート居室の浴室の改装が終わっている。


 浴室の広さ前の6倍、浴槽の広さは5倍、水は豊富にあるため燃料を使って常時、湯を沸かしていた。


 俺も今年の政務を片付け、時間が空いたので、マリーダとともに湯が沸くのを待っている。


「準備できましたのでどうぞー!」


「待ってましたなのじゃ! エミルたん! 今、行くのじゃ!」


「マリーダ様、私が先約だと申したはず!」


「早い者勝ちなのじゃ!」


 衣服を脱ぎ捨てたマリーダがダッシュで先行する。


 俺もすぐさま衣服を脱いで、マリーダの後を追いかけた。


 実家に里帰り中のリュミナスとアレスティナ、リゼとユーリ以外の者たちが、すでに浴室へ集まっているはずだった。


「アレウス様、まだ髪の毛洗ってませんので、上がられてはいけませんよ」


「フリン、私は髪など洗わぬでもよい。けして、石鹸の泡が目に入るのが怖いわけではないから! カラン、背後から掴まえるとは卑怯な!」


「アレウス様、鬼人族の次期当主となられる方が、石鹸ごときを恐れてはなりませんよ」


「うぅ、嫌じゃ! 洗いとうない!」


 浴室に入ると、嫡男アレウスが飛び出してきて、追ってきた乳母であるフリンとカランに確保された。


 しっかりしているようで、石鹸ごときを恐れるとは、アレウスたんもまだまだお子ちゃまだな。


 半泣きで髪を洗われているアレウスを横目に見つつ、目的地であるエミルたちのいる大人専用の奥の浴槽を目指す。


 大人専用の浴室は、湯あみ着なしの裸ゾーンである。


 アレウスたんたちのいた子供用の浴室は、湯あみ着着用にしてあるが、マリーダが真っ裸で駆け抜けてたな。


 ユーリたんに見つかったら、即逮捕される案件だった気がするぞ。


 先行するマリーダは、子供用の浴室を駆け抜け、大人用の浴室に到着寸前だった。


 さすがに身体能力ではマリーダにはかなわないか……。


 先着を諦め、走るのをやめると、ゆっくりと大人用の浴室へ続く扉を開ける。


「エミルたん、もそっとちこう寄れ! 他の者も寄ってくるのじゃ! 酒も肴もたんまりあるからのぅ。今日はここでしっぽり一年の疲れを癒すのじゃぞ」


 浴槽に浸かり、美人の愛人たちを周囲に侍らせた嫁の鼻の下は伸び切っている。


 この絵面は子供たちには見せられないな。


 とはいえ、ここはおっぱいの溢れる楽園だ……。


「アルベルト、一足遅かったようじゃな。最高のポジションは妾が占拠したので、そちには二番目の場所を用意してあるのじゃ! 今日はしっぽりと楽しもうぞ」


 一人分空けてある場所に入ると、湯の温かさが身体を包みこむ。


「アルベルト様、お酒はほどほどしときますか?」


 リシェールが俺の隣に来て酒杯を差し出してくる。


「仕事納めもしたことだし、たまにはハメを外すそうと思う」


 俺がニヤリと笑うと、リシェールも同じように笑みを返した。


「今日のマリーダ様は、最高のご馳走になりそうですね。フフフ」


「そう思うぞ。大事な嫁はしっかりと可愛がってあげないといけないからね。フフフ」


「カルアたん! アレクシアたん、妾の近くに来るのじゃ。よい乳を揉ませるのじゃ。グヘヘヘ」


 愛人たちへ破廉恥行為を続けるマリーダを見て、これからどう料理するかを考えることにした。



 ふぅ、すっきりしたぜ。


 色々と溜まりに溜まった物を吐き出した。


 今年は色んなところ行ったり来たりして、バタバタと忙しく、中々しっぽりとみんなとお楽しみタイムを取れなかったが、今日はしっかりと頑張れたと思う。


 おかげで腰がヤベー。


 明日の朝は、ガクガクしてるやつだコレ。


 エロエロとあったが――もとい、色々とあったが、嫁のマリーダとのイチャイチャタイムは十分な成果を出した。


 改修したエミル専用のお風呂も居心地抜群で、エッチした後もすぐに身体を清められて手間がない。


 金をかけて改修してよかったと思う。


 俺も満足、嫁も満足、嫁の愛人も満足の場所になったと思うぞ。


 ってことで、年越しの風呂も終ったし、決算書も完成してるので、公開としようか。




 エルウィン家 帝国歴二六五年決算書


 人口:アシュレイ城(本領)30433名(2690名増) スラト城(アルコー家保護領)5491名(458名増) アルカナ城 4711名(790名増) ヒックス城 796名(80名増) ビックファーム領540名(210名増) メトロワ市(保護領) 2830名(150名増) ラルブデリン領833名(200名増) リリンド領(新領地)不明 合計45634名


 租税収入(帝国金貨換算)


 ・入市税……帝国金貨12305枚

 ・施設使用税……帝国金貨1898枚

 ・相続税……帝国金貨145枚

 ・土地売買税……帝国金貨109枚

 ・賦役免除税……帝国金貨804枚

 ・売り上げ税……帝国金貨10902枚

 ・生活必需品税……帝国金貨3098枚


 租税収入総計(金納分):帝国金貨29261枚(+5664枚)


 租税外収入(帝国金貨換算)


 ・放出品売却益……帝国金貨12340枚

 ・香油専売利益……帝国金貨10009枚

 ・精練金属売却益(銅・錫)……帝国金貨8000枚

 ・精練金属売却益(銀)……帝国金貨25040枚

 ・精練金属売却益(鉄)……帝国金貨6800枚

 ・ヴァンドラ用心棒代……帝国金貨35000枚

 ・軍馬オーナー登録料……帝国金貨4500枚

 ・軍馬買い上げ予約金……帝国金貨3000枚

 ・競走馬育成供託費……帝国金貨4500枚

 ・特別温浴施設会員費……帝国金貨14000枚

 ・競馬事業収入……帝国金貨4500枚

 ・奴隷売買益……帝国金貨15000枚

 ・身代金……帝国金貨20000枚

 ・褒賞金……帝国金貨20000枚


 租税外収入総計:帝国金貨182689枚


 収入総計:帝国金貨211950枚(+55688枚)


 人件費(帝国金貨換算)


 ・小者……帝国金貨1枚×12ヵ月×375名=帝国金貨4500枚

 ・小者頭……帝国金貨3枚×12ヵ月×100名=帝国金貨3600枚

 ・従士……帝国金貨3枚×12ヵ月×400名=帝国金貨14400枚

 ・戦士……帝国金貨4枚×12ヵ月×575名=帝国金貨27600枚

 ・戦士長……帝国金貨10枚×12ヵ月×20名=帝国金貨2400枚

 ・家老……帝国金貨15枚×12ヵ月×3名=帝国金貨540枚


 家臣総数:1473名(355名増)


 人件費総計:帝国金貨枚53040枚(+15060枚)


 諸雑費(帝国金貨換算)


 ・当主生活費……帝国金貨1300枚

 ・飼料代……帝国金貨740枚

 ・城修繕費……帝国金貨3202枚

 ・装備修繕費……帝国金貨2861枚

 ・大牧場改修費……帝国金貨2000枚

 ・港湾整備費……帝国金貨3400枚

 ・堤防拡張費……帝国金貨1000枚

 ・鉱山施設整備費……帝国金貨3450枚

 ・ノット家鉄鉱山捕虜への食費補助……帝国金貨3000枚

 ・温浴施設建設費……帝国金貨5000枚

 ・梟人族のドグリブ族採用費……帝国金貨5000枚

 ・簡易要塞建設費……帝国金貨7500枚

 ・石砲傭兵団の採用費……帝国金貨20000枚

 ・魔王陛下の婚姻祝い……帝国金貨3500枚

 ・水軍建造費……帝国金貨60000枚


 諸雑費総計:帝国金貨121953枚


 支出総計:帝国金貨174993枚(+58831枚)


 収支差し引き:帝国金貨36957枚増


 繰り越し金:帝国金貨197556枚(本年度36957枚増)


 本年度地代+人頭税として(食糧物納分):1020万食


 備蓄食料 600万食(+100万食積み増し)


 全人口籠城時:60日分(一日二食配給)



 順調、順調。


 水軍建設に向けて、外洋船の建造が始まったため、これから数年間巨額の出費が続くが、資金的にも貯まってきてるし、租税外収益もかなりの拡大を見せているため、なんとか資金繰りはできそうだ。


 ロアレス帝国もフェルクトール王国の件でうちを敵視するだろうし、船いくさもできるようしないと。


 魔王陛下も権力基盤がある程度安定したし、来年もぼちぼち稼がせてもらい、エルウィン家の勢力拡大もしないとね。

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