第九十一話 逆侵攻作戦、発動!
帝国歴二六三年 紅水晶月(一〇月)
トラ、トラ、トラ!
ワレ、キシュウニセイコウセリ!
テキグン、ロウバイ、センカカクダイチュウ!
ステファンのテルイエ領を出発地としたベイルリア・エルウィン連合軍八三〇〇は、境を接するシルゴス領の国境警備軍を即日粉砕し占拠。
その勢いのまま、理事殿が教えてくれた地図をもとに、防衛戦力の少ないロブー、ゾティネ、カツー、ザクシニアの四城を三日で落とした。
物資を貯め込んだテルイエ領と隣接するシルゴス領にだけ防衛戦力を置き、機動力を確保するため、他の領地では捕虜は取らず、住民たちも城から追い散らかし、防衛拠点たる城を焼いている。
「ひゃっはー! 逃げろ! 逃げろ! 逃げ出さないやつらは妾たちに叩き斬られるか、火に包まれて死ぬか選ぶのじゃー!」
「おらぁああっ! 城門も外せ、外せ! ぶっ壊して燃やして再利用できないようにしろとのアルベルトのお達しだ」
「敵兵からは装備を取り上げて放り出せ、手向かう奴は容赦しなくていいぞ!」
マリーダとブレストとバルトラードが嬉々として兵たちに指示を出していた。
ちなみに今回も城内の乱暴狼藉は禁止令を出してる。
許可してもよかったが、火を放っているため、夢中になった脳筋たちが火に巻かれて死にそうな気がするからだ。
農村を襲う時くらいは許可してもいいかもしれない。
今回のうちの目標は、徹底的にゴンドトルーネ連合機構国内を荒らしまわり、侵攻軍に動揺を与えることだしね。
「親父! オレにもやらせろ! この城落とすとき、オレを後方待機させただろ!」
「うるさいやつだな。だったら、この城門を叩き斬ってみろ。鬼人族を率いる将なら、やれて当然だ」
「おぅ! やってやらぁ! 据え物斬りくらい余裕だっつーの!」
兵たちが外して城壁に立てかけられた城門に向かって、ラトールの戦斧が振り下ろされる。
次の瞬間、見事に門は断ち切られていた。
「おぉ! ついにラトール様が城門斬りに成功されたぞ!」
「これは、ブレスト様もうかうかしてられない」
「だっしゃぁ! おらぁああ! やってやったぞ! 親父!」
「据え物斬ったくらいではしゃぐな。次はいくさでやってみせよ」
脳筋の統率者はアレができるのが当たり前なのか。
普通はできんよ。普通は大人数で使う攻城兵器でぶっ叩いて壊すものだよ。
君らの技術は変態だと、そろそろ気付くべきだ。
「私も武芸には自信があるのですが、鬼人族の方と戦場を共にするとまだまだと感じますな」
「ミラー君、あれは特殊な訓練を受けた変態だから真似しないように。謙虚、堅実、冷静を君には期待してるのだ」
「はっ! 承知しました」
農兵部隊の指揮官として連れてきたミラー君が脳筋に感染しないよう、事前に釘をさしておいた。
大事な守れる将なので、きちんと脳筋たちから隔離しておかないといけない。
「アルベルト様、言われたとおり農兵たちを率いて、城から退避した敵をグカラ、ツンザ方面に逃げるよう追い散らしました」
報告に戻ってきたのは、ミラー君と同じく俺の副将にしたアレックス君だった。
バルトラードのもとで副官を務め、兵の指揮に長けた地味な男である。
自身の戦闘力は低いが、戦局を読む能力で兵を手足のように自在に操り、攻守ともに卒なくこなせる良将。
そんなアレックス君に、敗残兵と住民の逃走先を制限させるため追撃させていた。
「ありがとう、助かる。脳筋たちにやらせると全て食い尽くしてしまうからね。ほどほどに数を残して追い散らしてくれないと困るんだ」
「ロブー、ゾティネ、カツー、ザクシニアから逃げ出した敗残兵と避難民は、こちらが積極的に避難先を誘導するように攻撃してグカラ、ツンザ方面に近い領地に逃げ込んでいます。これは何か意図があるのですか?」
「アレックス君、いい質問だ。着の身着のまま逃げ込んできた自国民の避難民と敗残兵を君ならどうする?」
「自国民なら保護して避難民には食糧、敗残兵は装備を与え再編成しま――。ああ! だから、グカラ、ツンザ方面に近い領地に逃げ込むようにしてるのですね!」
「そういうこと。本来ならべネワ山地の前線に張り付いてる兵たち向けの物資を、避難民と敗残兵向けに振り替えさせる。すると」
「我ら逆侵攻軍が暴れまわって避難民と敗残兵を増やすごとに、前線部隊は補給が滞り始める。補給が途絶すれば防衛拠点を放棄して逃げ出すしか」
「ミラー君、正解だ。ただ、花丸もらうには、そこで親征軍とヨアヒム様の軍とベイルリア・エルウィン連合軍によるゴンドトルーネ連合機構国侵攻軍の挟撃まで入れとく」
「補給の途絶した敵軍二万二〇〇〇への大挟撃作戦! 成功すればゴンドトルーネ連合機構国は戦力を大幅に失い戦意喪失。こちらの好条件での講和への道も見える」
「そういうこと。大成功すればだけどね。でも、今のところはおおむね成功してる」
例の理事殿が必死で教えてくれた防衛戦力の配置情報は本物だったしな。
ワリドからの情報だと、敵もあと数日中には国内の兵を集めて、野戦を挑んでくるらしいので、それまでにさらに二~三城落としておきたいところだ。
「マリーダ様より、伝言です。敵城の攻略完了、次の目標を求むとのこと」
マリーダの副将に付けているカルアが、敵城の無力化成功を報告に来ていた。
敵防衛戦力の配置が書かれて地図を見ながら、現時点での戦況を重ね合わせていく。
今のところステファンたちも順調だし、フランたち酒保商人からの補給は続いているし、もう少し内部の城を落とすか。
となると、少し大きな獲物だが、グカラ、ツンザ方面に多くの物資を供出してるっぽいゼセーを落とすのが一番ダメージ与えられるな。
「次はゼセーを落とす。マリーダ様は先行するように伝えてくれ。道中で敵を見つけたら、戦闘はマリーダ様の判断に任せる」
総大将たる当主が、もっとも危険の高い最先陣を切るのは愚策だが、人類最強の生物と人類で二番目の強さを持つ生物がいる、さらに変態いくさ職人集団とくれば、簡単には近寄れない。
飛来物すら、叩き落とす変態たちだからね。
だから、先陣を任せてる。
「承知した。すぐに伝え、次なる目標に向け出立します」
カルアが一礼して俺のもとを去る。
「さて、私たちもマリーダ様に置いて行かれないよう動くとしよう。私とミラー君は待機していた農兵部隊を率いて先発」
「承知」
「アレックス君は追撃に参加した部隊の再編と、この地でフランからの補給を受けるまで待機。補給品受領後、ゼセーに来てね」
「心得た」
二人がそれぞれの仕事をするため、俺のもとを去る。
マリーダが部隊を整え動き始めると、ブレストもバルトラードもその後に続いて、新たな攻略目標へ向け出発していく。
「アルベルト様、馬車の準備できたよ」
「ああ、すぐに行く」
連絡係のクラリスが、騎乗の苦手な俺のために仕立てた馬車を持ってきてくれた。
エルウィン軍は一路、ゼセーに向けゴンドトルーネ連合機構国内を突き進む。
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