第九十話 脳筋軍、出陣する


「はい、待ちに待った大いくさの時間ですよ」


「「「「「うぉおおおおおおおっ! いくさっ! いくさっ! いくさっ!」」」」」


 マリーダ始め、いくさのためだけに鍛え抜かれた身体を持つ、脳筋たちのテンションはMAX値を振り切っている。


 アレクサ王国侵攻防衛戦以来の大いくさだからって、みんなはしゃぎすぎている。


 ここはちゃんと手綱を引き絞っておかないと、暴走しかねない。


「で・す・がっ! まだ軍議前ですし騒いだ人は留守番にします」


 席から立って騒いでいた者たちが、一斉に口を噤んで静かに着席した。


 俺が留守番と言えば、絶対に留守番にされるのを脳筋たちも理解しているためだ。


「よろしい。では軍議を始めます。編成表を」


 秘書役のイレーナが長テーブルの上に、今回のいくさの隊編成を書いた紙を拡げていく。


 ・当主直卒隊 総大将マリーダ 副将カルア 鬼人族戦士一〇〇名 兵種:騎馬


 ・一番隊 大将ブレスト 副将ラトール 鬼人族戦士一〇〇名 兵種:騎馬


 ・二番隊 大将バルトラード 副将なし 戦士三〇名 従士一二五名 兵種:歩兵 


 ・三番隊 大将アルベルト 副将ミラー アレックス 農兵三〇〇〇名 兵種:歩兵


 ・領地防衛総指揮官リゼ 副将カラン ニコラス


 ・兵站統括官 フラン



 遠征軍に脳筋総動員で、領地防衛の兵はヒックス城に籠る元農民反乱軍の精鋭たちと、アルカナの農兵、アルコー家の農兵くらいしか残していない。


 防衛指揮官もリゼとカランなので、敵が来たらヒックス城とアシュレイ城に籠ってアルカナのニコラスの援軍を待て伝えてある。


 三城が連携すれば容易に落されることもないし、場合によってはゴランに援軍を求めることもできると見越した戦力配置だ。


 遠征軍はマリーダとブレストは遊撃隊として、縦横無人に敵を食い散らかしてもらうため、いくさ職人の鬼人族の戦士のみを抽出し、機動力を確保するため騎馬編成にしてある。


 マリーダとブレストが食い散らかした兵をさらに細かく粉砕するのが、バルトラードのお仕事。


 最後に俺自身が率いる村長連合の農兵部隊が粉砕された兵を美味しく処理するお仕事。


 って大まかな役割分担。


「オレが親父の副将だって! なんで副将なんだ! アルベルト、この編成には承服――」


「じゃあ、ラトールは留守番。ブレストの副将にはアレックスに書き換えて」


「待て! いくさには行く!」


「なら編成に口を挟まない」


「ぐぅ!」


「アルベルトの編成に逆らうとは、ワシの息子はこうもあほうだったか。これはしっかりと教育し直さねばならんな」


「親父には言われたくねぇ! 今回はオレが副将をやってやるが、日和ったいくさをしたら即座に大将を譲れよ!」


「お前のようなケツの青い小僧が、大いくさの中でまともな指揮など取れるわけがなかろう。ワシの後ろでとくと勉強せよ!」


「うるせぇ!」


 ラトールは万能型の将にするのを諦めたので、父親のあとを継がせ攻撃特化の将としての経験を積ませるため、今回の編成にした。


 将来の家老候補なので、色んないくさできるやつになって欲しかったけど、下手に矯正するよりも自由にやらせた方が伸びる気もする。


 なんだかんだ喧嘩するが、親子仲はそこまで悪くないので、お互いに尻を叩き合って敵を食い散らかしてくれると思っている。


「妾の副将はカルアたんか。戦場で催したら色々と頼むのじゃ」


「はい、大将の命令は絶対なので、何でも致します!」


 まぁ、マリーダたちは放っておいても、戦場を無人の野の如く駆け抜けれる変態どもだから、目標だけ与えて放任しとく方がいい。


 さすがのマリーダも戦場のど真ん中で、カルアといちゃつくことはないと願いたい。


「歩兵か、騎乗は苦手だから正直ありがたいな。強いやつがいるか楽しみだ」


「私はアルベルト様の直卒部隊か。アレックス殿、よろしく頼む」


「正直、バルトラード親分の副将だと思ってたが、農兵部隊の指揮官だったとは。ミラー殿、ご指導お願いします」


「リゼ様、わたくしたちはマリーダ様の帰る場所を守るお役目ですね。しっかりと頑張りましょう」


「うん、でも無茶はダメだってさ。ニコラスさんとよく話し合って、守ろっか」


「お二人が城に籠ってもらえれば、私が援軍でアルカナ兵を引き連れ駆け付けますぞ。そうすれば敵も簡単には城を落とせなくなるはず」


「承知しました。お互いに連絡は密にいたしましょう」


「うん、そうだね」


 他の将たちも編成を確認しながら、お互いの役割を再確認していく。


 将たちが編成の確認を終えた頃、イレーナに東部領域とゴンドトルーネ連合機構国内の地図を広げさせた。


「編成は以上。次は東部奪還作戦の現状確認。地図に注目。まず、ノット家のヨアヒム殿が自家の兵四〇〇〇を掌握してイントス領に集結中」


 イントス領は、べネワ山地からさらに西寄りの領地だが、帝都からの主要街道上のため、大軍の補給がとてもしやすい地である。


 そこに大軍を置き、敵の耳目を集める餌にする予定。


「魔王陛下も親征軍二万を率いてイントス領へ急行中。イントス領に二万四〇〇〇の兵がいれば、敵も容易に前線をあげないと思われる」


 まぁ、魔王陛下の親征軍とヨアヒムの軍は、完全に敵を引き付けとく囮だけどね。


 大軍が目と鼻の先にいれば、どうしてもそっちが気になっちゃうのは仕方ないこと。


「で、ステファン軍と共同してやるうちの仕事の出発地点はここ!」


 地図で指したのはステファンの領地の東北端にあるテルイエ領。


 ステファンの領地で、唯一ゴンドトルーネ連合機構国と境を接している領地だ。

 

「うちの兵三三〇〇とステファン軍五〇〇〇でテルイエ領から、ゴンドトルーネ連合機構国内へ向けて逆侵攻作戦を実施する」


 指揮棒でテルイエ領からゴンドトルーネ連合機構国内の主要都市を次々に差していく。


 脳筋たちの顔に狂暴そうな笑みが浮かんでいた。


「どの地を襲うかは、我らに協力を約束してくれたゴンドトルーネ連合機構国の理事殿からご説明してもらおう」


 クラリスに合図をすると、ずたぼろの服に顔を腫らした男が軍議の場に引きずり出されてきた。


 彼はゴンドトルーネ連合機構国の南東部選出の理事殿である。


 ちょっと聞きたいことがあったので、倉鼠の中にいた綺麗どころの女の子たちに美人局を頼み、我が家にご招待させてもらっていたのだ。


「ひぃ! お願いだ! 殺さないでくれ! 頼む!」


 狂暴そうなうちの連中からの視線に晒されて、ずたぼろの理事殿は股を濡らし腰を抜かした。


「殺すなんてとんでもない。ただ、南東部の防衛体制を私たちに、教えてもらえればいいだけなのですよ」


「とアルベルトが申しておるのじゃ。喋った方が身のためじゃぞ」


 腰を抜かした理事殿の首にマリーダの腕が絡まる。


 マリーダの怪力でキュっと絞めれば、即首の骨が折れてあの世行きだ。


「しゃ、喋る! 防衛体制だな! 具体的に何が知りたい!」


「兵数を地図にある都市名の上に書いて頂ければ、戦争終結後、無事に解放させてもらいますよ」


「す、すぐに書く。ペンを!」


 理事殿は羽ペンをひったくると、地図に記された都市名の上に兵数を書いていく。


 命が惜しいのか、理事殿は聞いていない都市防衛設備の有無、城壁の高さまでも地図に必死に書き込んでいた。


「これが私が知る情報全部だ! これで、こ、殺さないでくれるな!」


「生きるか死ぬかは、これから私たちが答え合わせをしてきた後で決めさせてもらいます。別荘をご用意しておりますので、いくさが終わるまでは、そちらでくつろいでおいてください」


「解放すると言った――ぐえぇ」


 マリーダが理事殿の首を腕でキュと絞めると気絶した。


 気絶した理事殿は倉鼠の手の者によって運び出されていく。


「ということで、敵の防衛体制が大まかに把握できた。これをもとに敵国内を荒らしまわる。基本戦略は防衛の弱い都市を襲い、苛立った敵が野戦を挑んできたところで撃破するといった感じを予定している。よろしいか?」


「「「「承知」」」」


「では、これよりエルウィン軍は作戦開始地点のテルイエ領に向け出立するのじゃ! 皆のものかかれ!」


「「「「おうっ!」」」


 マリーダの号令がかかると、軍議の場にいた者たちはそれぞれの役割を果たすべく一斉に駆け出した。


 さて、これでしばらくは戦地で過ごすことになる。


 戦場では『まさか』が起こりかねないから、命大事にで無事に帰ってこないとな。


 即日で出立の準備を終えたエルウィン軍とともに、俺も馬車でテルイエ領向けて出発した。




――――――――


後書き


 毎日更新を続けてまいりましたが、他作品の書籍化作業に入るため、初稿作業終了まで明日より二日に一回の更新に変更させてもらいます。(次回更新は8/20予定)


 更新通知漏れがないよう、ブクマして頂けると助かります。

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 今後とも『異世界転生軍師戦記』の応援のほどよろしくお願いいたします。


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