第八十九話 兵站業務の委託先
帝国歴二六三年 青玉月(九月)
山積した決済の山を乗り切り、城内では、村長たちによる今年の納税が粛々と行われている。
数年前では考えられないほど、城内の倉庫も整然と整理され、腐ったものや腐りかけの食い物は一掃された。
少し暑いのが続いてたから、心配してたが、村長たちの顔を見てると今年もいっぱい実ったようだ。
戦争代を捻出するため、脳筋たちが行った特別徴収がなくなって、きちんと納税しても手元に残る額が増えたとか喜んでたしな。
おかげで色々と協力もしてもらえるし、開拓村に金をかけても文句が出ないですんでいる。
「今年もまたアルベルト殿には世話になりますなぁ」
納税の様子を見ていた俺の隣にいたのは、酒保商人のフランだった。
「今年は売らんよ」
「え!?」
「白々しい演技はいいから。やり手の酒保商人フラン殿が、帝国内の物資の動き知らんわけではないでしょう」
「では、やはり東部の奪還に向けて大いくさが」
「ああ、そこでフラン殿には我が家の兵站業務を頼みたいのだよ。もちろん、儲けられるように手は打つ」
今回のいくさは、脳筋たちだけでは手が足らず、農兵までも動員しないといけないため、輜重隊を編成しないといけない。
輜重隊まで自前農兵で編成するととんでもない人数が必要となるため、金で解決できる酒保商人のフランに兵站業務を委託しようと思っている。
生産力の要である自領民の損害は、なるべく抑えたいという思惑もあるからだ。
酒保商人たちは戦場を駆け回る商人で、生き残ってきてる連中は危険を察知する能力も高い。
「エルウィン家の兵站業務ですか……激戦区でしょうなぁ」
さすが生き残ってるだけあって、フランの危機察知能力は高そうだ。
「どこから、どこへ物資を運ぶって聞いた瞬間、うちの軍機を知ったということで情報統制下に入るよ」
情報が外に漏れるのは困るので、やると言った瞬間から、守秘義務契約の効力を発生を匂わせる。
「さすが、アルベルト殿だ。タダでは情報をもらえませんなぁ」
「業務委託料は帝国金貨五〇〇〇枚、あと戦地購入品は市価の五割増し購入とかでどう?」
すでに前哨基地予定の場所には、たんまりと物資を溜め込んであるため、戦地購入するまで長期戦は予定してない。
「私が集めた情報だとベイルリア家のテルイエ領に大量の物資が集められているとか、いないとか。マリーダ殿は魔王陛下直属ではあるけれど、辺境伯のステファン殿の義妹。エルウィン家が請け負う戦線は――」
「そこから先は承知したとみなすよ」
「おっと、危ない。想像している戦場が危なすぎて帝国金貨五〇〇〇枚では採算が」
さすがにこんな金額じゃ受けてくれないか。
まぁ、俺だって嫌だしな。
自前の護衛も雇うなると、倍くらいもらわないと採算が取れない仕事になる。
帝国金貨五〇〇〇枚で請け負うって言ってたら、丁重にお断りして自前で編成するつもりだったしね。
途中でトンズラされるのも困るし。
「なら、帝国金貨一〇〇〇〇枚と、物資輸送完遂ごとに帝国金貨五〇枚の褒賞金付きでどう?」
これなら、戦争が長引けば長引くほどフランが儲けられる。
うちとしてはできるだけ短期決戦したいところだが、相手が相手だけに一撃必殺という感じには行かない気がしている。
「承知。エルウィン家の兵站業務はこのフランが請け負いました。これより、アルベルト殿の指揮下に入ります」
「助かる。金は即金で渡しますんで金蔵の担当者にコレを出しておいて。あと、情報漏洩が発覚した場合は死罪となることは承知しといて」
「分かっております。エルウィン家の金棒アルベルトに睨まれたら、エランシア帝国内では生き残れませんしね」
「ご理解が早くて助かるよ」
フランと握手をして、エルウィン家の兵站業務を請け負ってもらうとともに、情報の守秘義務契約の締結をする。
「それで輸送先は?」
「私たちはゴンドトルーネ連合機構国内深くまで侵攻予定。具体的な侵攻先は敵国内の情報が集まり次第だけどね」
「やはり激戦区でしたなぁ。逆侵攻作戦ですか。敵中補給とか久し振りです。さっそく、こちらもテルイエ領に入り準備を進めておきます」
「頼むよ」
フランは俺から委託料の帝国金貨一〇〇〇〇枚の書き付けを受け取ると、金蔵へ向けて駆け去った。
兵站業務はこれで手を打てたし、オライト排除はどうなったかなぁ。
ふと空を見上げた俺の前に、クラリスが降ってきた。
「降りる場所、しくじった」
クラリスのパンツが俺の顔面を直撃している。
なぜ、上空から降ってくるんだ。
「クラリスは私にパンツを見せつけたいのか?」
「違うって、急いで来たから降りる場所を間違えたの! ワリドから伝書鳩がきた。『老害排除完了セリ』って」
お、やってくれたようだ。
オライト君、不運なことに東部には
身体も動かせず、口もうごかせないのは可哀想だけど、脳みそ溶けちゃってるから、しょうがないよね。
意識はあるんだろうけど、馬にも乗れなきゃ、指揮も取れないし。
ああ、あとオライト派の主要人物たちが一堂に会した反抗作戦会議の席上で、提供されたキノコ鍋に見知らぬ毒キノコが入ってたのも不幸な事故だったと思う。
本当に不幸な事故だけには気を付けておきたいね。うんうん。
ちなみに、うちは毒に詳しい山の民が毒見してくれたモノしか、口を付けないように徹底してる。
ちょっと冷めるけど、死ぬよりはマシ。
「続報はあるかい?」
クラリスのパンツを堪能するのもよかったが、オライト派排除の情報確認を最優先することにした。
地面に降りたクラリスは、めくれ上がったスカートを整え、続報を読み上げる。
「『主戦派意気消沈、若君、演説大成功。イントス領、撤兵準備中』だって」
ヨアヒムは、俺が与えた金棒アルベルトセットに身を包み、東部奪還作戦とともに与えたノット家再興プランの演説を行ってくれたようだ。
吠えるのと被害を出すだけで戦果が出なかったオライトとは違い、ヨアヒムは奪還するための具体的な作戦を策定していたと家臣の前で発表しているはずだ。
俺が作った奪還作戦だが、表向きはヨアヒムが策定した作戦となるようにしてある。
魔王陛下への密告……もとい、正式な戦況報告もヨアヒムにさせていた。
まぁ、予想通り魔王陛下も状況は把握してたようで、親征軍二万の編成を即断、すでに兵と物資を集結させつつある。
相変わらず動くときは、疾風の如く動き出す魔王陛下だった。
オライト率いる主戦派に引きずられていた家臣も、幼い当主の決断と実行力、そして作戦後の復興プランの緻密さに感銘を受けて指揮下に加わったと思われる。
なにせ、今回の侵攻で大量の死者が出てて、男子後継者が全滅した貴族家とかもけっこうあって、戦後そういった領地を再配分する予定をしてある。
あとオライトと主戦派の主要人物は、領地の大幅削減もされるだろうしね。
生き残って武勲を挙げれば大出世もありえる状況。
「さて、うちもそろそろ準備しないとね。軍議やるよ。軍議。みんな呼んで」
「はいはい、すぐに連絡するって」
これでしばらくは戦地だな。
アレウスたんとユーリたんともまた離ればなれか。
パパ、この戦争が終わったら、君たちといっぱい遊ぶから許してくれ。
あ、ヤベ。なんかコレ、死亡フラグっぽい気がしてきた。
折っとけ、折っとけ。
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