第八十話 脳筋オリンピックもとい、エランシア帝国大武闘大会開催!

 帝国歴二六三年 金剛石月(四月)。


 今、俺は帝都にある大闘技場の観覧席にいた。


 なんでかって? そりゃあ、魔王陛下からの召集令状がうちの家に来たからさ。


 日頃の政務の疲れを癒すため、アレウスたんとユーリたんの世話をしてた俺のもとに、マリーダがニコニコした顔で持ってきた一枚の書状が事の発端だったんだよ。


 脳筋オリンピックもとい、エランシア帝国大武闘大会。


 通称、エランシア一強いのは俺だ! 私だ! 選手権。


 エランシア帝国建国時から続く恒例行事で、四年に一度領内全土から脳筋たちを集め、エランシア最強の称号を賭けた武術大会が行われる。


 優勝すると、帝国金貨二〇〇〇〇枚の賞金及び優勝者が属する貴族家の名声が上がり、皇帝選挙にも影響するとかいうトンデモイベント。


 ちなみに開催期間中、エランシア帝国は積極的な攻勢に出ないと他国も知っているため、自然休戦期間になることが多い。


 で、うち人類最強の脳筋は、連覇を成し遂げたが急逝した父親の代わりに一五歳で初出場し、女性初の優勝者となり、その名をエランシア帝国内に轟かせた変態。


 二連覇がかかった開催直前、例の婚約者騒動を引き起こし、エランシア帝国から遁走。


 代わりに当主になったブレストも、マリーダの責任をひっかぶり、前回のエランシア帝国大武闘大会には出場できず、鬼人族四連覇という偉業は達成できなかったそうだ。


 そして、今回は対アレクサ王国戦での功績により、エルウィン家は大会参加資格を回復された。


 まぁ、魔王陛下からしたら、シュゲモリー家の番犬とも言えるエルウィン家を参加させないと、他家に最強の称号を持っていかれ、次代の皇帝選挙で不利になるとみなしたのだと思う。


 魔王陛下の超政治的判断で参加を許されたのだが、エルウィン家には最低でも個人戦優勝、最高は他家を圧倒する武力を見せての総合優勝という目標設定がされている。


 大会内容は、個人戦と団体戦。


 個人戦は各家代表一人。


 団体は代表五人。


 武器あり、ただし刃を落とした物を使用に限る。


 相手が気絶か、参ったというまで時間無制限。


 四皇家推薦枠の四家と予選リーグを突破した一二家が、トーナメント方式で頂点を目指す。


 もちろん、うちは四皇家の一つシュゲモリー家の推薦枠でいきなり本選スタートが決定している。


 なので、今は予選リーグ戦を眺めながら、スカウトできそうな脳筋がいないか観覧席から眺めているところだ。


「やっぱり予選リーグだとキラリと光る人はいませんねー。並みの鬼人族の戦士の方が強く見えます」


 世話役として付いてきたリシェールが、眼下で行われいる予選会の参加選手を値踏みしていた。


 うちは最低武力75ないと、エルウィン家の正規兵にもなれんからな。


 求められるレベルが段違い過ぎて、見劣りしてしまうのが否めない。


「あのおっぱいバインバインの女の子可愛いのじゃ! 妾の世話係に雇って欲しいのじゃ!」


 どれどれ、ほぉ、あれはたしかにバイン、バイン。


 綺麗な顔立ちでいい乳をしてて、アレウスたんやユーリたんも喜ぶし、俺も喜ぶ――。


 って! 魔王陛下のメイドさんじゃないか! ダメ、絶対!


 おっぱい大きな可愛いメイドさんくださいって言ったら、絶対に対価として劣勢の場所への無償援軍要請がセットでついてくるに決まってる。


「ダメです! マリーダ様にはリシェールという立派なメイドがいるでしょう!」


「リシェールはおっぱいは大きいし、顔も綺麗じゃが、妾に厳しいのじゃ! 妾は甘やかされたいのじゃ!」


「あたしが厳しいとのことなので、今からタップリとご奉仕させてもらいますね。マリーダ様」


「ひゃぅ、そこはやめるのじゃ! 皆が見ておる場所じゃぞ! あぅ、リシェール」


「大丈夫、ここは他の席から中は見えませんので」


「らめぇええええっ!」


 マリーダさんは、がくがくと震えてどこか別世界に旅立たれたので、予選リーグの続きを眺めるとするか。


 それにしてもエランシア帝国はいろんな種族がいるなぁ。


 人族によって迫害された少数民族が寄り集まってできた帝国だって聞いてるが。


 獣人も多いけど、蜥蜴人みたいなのとか、蛙人みたいなのとか、かと思えば軟体生物みたいな人もいる。


 人族からしてみたら、魔物の国とか言われてもおかしくないラインナップだな。


 鳥人族なんて、俯瞰視点で戦場を見れるから、いい偵察兵になりそうなんだけどなぁ。


 一方で人族の参加者も多いみたいだ。


 支配層の亜人種は二割、被支配層の人族は八割って割合だから、人族の出場者も多いのも頷ける。


 この大会でいい結果を残せば、支配階級への出世も約束されてるから、ヤル気も出るってことだな。


「ワシらも予選から出たかったのぅ。マリーダの不祥事がなければ、個人戦くらい他家の代表で出れたのに」


「親父、そんな裏技あんのかよ!」


「マリーダの父親がエルウィン家の個人戦代表の時、ワシはシュゲモリー家の個人戦代表で出場しておったからな。受け入れてくれる貴族家があれば個人戦代表にはなれるぞ」


 そんなことしたら、個人戦決勝進出者のうち五人がエルウィン家になるじゃん。


 ただでさえ、対アレクサ王国戦で武勲挙げすぎて、他家のやっかみを集めてるんだから、脳筋オリンピックくらいは大人しくしておいて欲しい。


「わたしも他家の代表として個人戦でマリーダ様と戦いたかった」


「エランシア帝国最強の称号は一度は得てみたいものだな」


「カルアもバルトラードもこの大会では自重してくれると助かるが。アシュレイ城の中庭でなら、存分にやってくれてもかまわん」


 二人とも狂暴そうな顔で笑うのはやめてくれ。


 うちはもともと他家に嫌われてるから、さらにやっかみの度合いが増す。


 四皇家シュゲモリー家と、マリーダの姉が嫁いだステファンの家くらいしか交流はない。

 

 魔王陛下の威光でわりと好き勝手やっても、潰されずに存在できてるが……。


 魔王陛下が庇い切れないような大惨事を脳筋たちが引き起こした場合、味方になってくれそうな家を増やしておかないと。


 顔の広いステファンも帝都に来てるみたいだし、誰かうちと仲良くしてくれる貴族家ないか相談してみるか。


 最低でも伯爵級の家とかと仲良くしたい。


 そうと決まれば、ぬるい戦いをしてる予選を見てる暇はないな。


「マリーダ様、これよりステファン殿のところに顔を出そうと思うのですが、一緒に行かれますか?」


「いぐぅううううう! 一緒にいぐぅうううん! 姉上も来てるはずだから、いぐぅううううううううっ!」


「承知した。リシェール、支度を頼む」


「はいはーい。マリーダ様、よかったですね」


 ぐったりとしているマリーダをリシェールが引きずっていく。


 ああ見えて、リシェールは意外と力持ちらしい。


 おっぱい以外、引き締まった身体をしてるマリーダであるが、全身筋肉なので地味に体重はある方なのだ。


「ワシらはここで観戦しとってもええのか?」


「はい、くれぐれも血気にはやって、予選会場に殴り込まないでくださいね」


「さすがにワシらも魔王陛下の御前で粗相はせぬわ!」


 その言葉信じますよ。


 絶対に、絶対に粗相だけはしないでくださいね。


 一抹の不安を感じつつも、俺はリシェールとマリーダを伴って、ステファンが帝都に構えている邸宅に向かうことにした。

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