第八十一話 二股かけたっていいじゃないか!


「ライア姉ぇ~~、お久しぶりなのじゃ~」


「あら~、もう~、マリーダはいつまでたっても子供ねー。お膝がいいの?」


「そうなのじゃ! 妾はライア姉の膝がいいのじゃ!」


「仕方ないわね~、ちょっとだけよ」


「ライア姉~しゅき、しゅきなのじゃ~」


 マリーダは猫のようにライア近づき、膝の上に頭を置く。


 姉妹だし、お姉ちゃん大好きっ子だからしょうがないが、いちおう相手は辺境伯夫人だからね!


 どさくさに紛れて、お姉ちゃんの大きなおっぱいを揉まない!


 あと、大事なところに顔を埋めて匂いを嗅がない!


「すみません、うちのマリーダ様が奥方様に迷惑をおかけして」


「構わん。ライアもアレが来るのを楽しみにしておるからな。それにしても、アレクサ王国の件は予想以上に上手くいったな。さすが『金棒』アルベルトだけのことはある」


「いえ、私の力など微力。魔王陛下の英断と、ステファン殿の実行力、そしてマリーダたちの武力があればこそ達成できたことです」


「わしの前で他人行儀な謙遜するな。我が家とエルウィン家は親戚だぞ」


 ありがてぇ、持つべきものは頭のいい親戚。


 マリーダの親戚に、ステファンがいてくれなかったら、帰参の時点で詰んでた。


 功績を重ね伯爵から辺境伯に出世して、魔王直系の子飼い部将として名声を高めている頼れる親戚。


 舵取りをミスり、エルウィン家がお取り潰しになったら、うちの子供たちはステファンに頼むことにしよう。


 盆暮の進物は欠かさず送っておかないと。


「本当にいつも助けて頂きありがとうございます」


「よいよい、エルウィン家のおかげで我が家も今や辺境伯家まで出世した。今回のアレクサ王国への謀略戦の褒賞も頂き、領地もさらに広がった」


 裏切り一七家の領地は皇帝直轄領にされたんで、そのうち二領がステファンに褒賞として与えられたと聞いている。


 辺境伯の爵位に対し、領地が貧相だったことを気にしていたので、領地の加増はかなり嬉しかっただろうと思う。


「それはおめでとうございます!」


「で、こたびの来訪目的は、わしの伝手からエルウィン家に興味を持ってる貴族家を紹介して欲しいというところかな?」


 ぐぅ! さすがステファン! 俺の来訪目的をすでに察していただと!


 これだから切れ者は!


 いろんな意味で省略できて楽だけど、こっちの思考まで読まれるから、下手に嘘を吐けない。


「さすがステファン殿。こちらの思惑を見破っておりましたか」


「最近、我が家にも風当たりが強くてな。爵位の低いエルウィン家への風当たりはもっと強いだろうと察しておったところだ。我々はあまりにも勝ちすぎた」


「おっしゃる通り。今は魔王陛下が守ってくれていますが、庇い切れない時を考えて他家との縁を強化したく」


「魔王陛下も我らへの風当たりの強さを危惧されておる。わしにも、シュゲモリー家以外で懇意にできる家を作れとの命が下っておってな。思案を重ねておったところよ」


 やっぱ大出世したステファンも、かなりの風当たりがあるらしい。


 魔王陛下も自派閥重視をすれば、首を狙われかねないため、そろそろ無茶もできないって感じか。


 歴代皇帝が手を付けてこなかった、皇帝直轄領の増大及び積極開発、派閥推薦の陞爵しょうしゃくよりも、能力重視の陞爵しょうしゃくといった強権的な施策を出してるけど、それだけに既存の貴族からの反発も強い。


 下手すりゃ、派閥推薦で出世できない貴族によって暗殺されかねないって感じ。


 まぁ、でもあの魔王陛下だから簡単に首を取られるとは思えないし、暴発すればそれを理由に嬉々として改易お取り潰しを命じる人だ。


 怖い、怖い。


 触らぬ魔王に祟りなしってね。


「それでステファン殿はどの家を狙っておられますか?」


「いくつか縁を結ぼうとはしておるが……。やはり、アレクサ王国戦での功績がチクチクと言われてな。ワシも辟易気味なのだ。アルベルトだとしたら、どこを狙う。こちらが腑に落ちる家ならワシが窓口になってやるぞ」


 辺境伯のステファンが窓口なら、皇帝直系とはいえ子爵家にすぎないうちよりも色んな家に声を掛けられる。


 ステファンの話を聞いていたら、魔王陛下から例の無料出張の指令が、そのうち飛んできそうな気もするし、先制して相手の家とナカヨクしておいて用心棒代せしめた方がいいかもしれん。


「ステファン殿が窓口となってくれるなら、東部守護者たるノット家と縁を結びたく」


「はぁ!? ノット家だと!? 四皇家だぞ!」


 驚くのは分かる。


 四皇家は皇帝を輩出する家柄で、エランシア帝国のトップオブトップの貴族家だしね。


 普通の貴族なら、四皇家を股にかけて縁を結ばないってのも知ってる。


 うちは普通じゃないですから! 残念!


 子供たちを無事に生き残らせるためには、四皇家を股にかけて縁を持つくらいのことはやっておかないと。


「今、南のアレクサ王国の戦線はゴラン王のおかげで安定化しました。なれば、魔王陛下が次に手当をされるのは、劣勢の東部戦線。その劣勢戦線に投じられるのは、兵力に余裕ができた我ら南部勢かと」


「ふむ。あり得る話だな。で、あるから助っ人参戦前に東部守護者のノット家との縁を早急に強化しておくということか」


「はい、縁を深めておけば、援軍の際の意思の疎通にも齟齬がなくなります」


「ふむ、それも一理あるな。他の四皇家の領内となると独立国家みたいなものだし、色々と融通をしてもらえた方がいくさも上手く立ち回れるか」


 今まではシュゲモリー家が管理を任されている南部戦線だったから、色々と自由な行動をさせてもらったが。


 ノット家が管理を任されている東部戦線に出張となると、管理者の許可が必要になることが増える。


 できれば、魔王陛下に派遣される前に、管理者のノット家とはツーカーレベルの間柄になっておきたい。


 いろんな意味でエルウィン家は、他家合同の戦線に投じるには問題が多いし、単独行動の方が戦果をあげられるんで自由裁量権を認めて欲しい。


「です。私の予想では今年の収穫後、東部戦線への援軍命令が下るかと推測しておりますので、ステファン殿には早急に窓口として相手方と連絡を取ってもらえるとありがたいのですが」


「…………よかろう! ワシも手伝いいくさで手足を縛られるのは好まんからな。ノット家の家臣筋から当主と会見できるよう調整してみる。その際は、アルベルトもマリーダを連れて同席せよ」


「はは、承知しました」


 ステファンが動いてくれるなら、帝都滞在中にノット家との会見も準備されそうな気はするな。


 魔王陛下の耳には――いれなくても、帝都でゴソゴソしてたら諜報者から耳打ちが行くだろう。


 できれば、ノット家にも取り入って、かの地にある鉄鉱山の利権ちょろっともらえるとありがてぇ。


 鉄鉱石が格安輸入できるようになれば、未だ育ってない製造業への追い風になるはずだしな。


 はぁー、仕事ができる男は辛いわー。


 宿舎に帰ったら、ムチムチの嫁とバインバインメイドとバインバインの女剣士に疲れを癒してもらうかー。


「マリーダ様、そろそろ帰りますよ」


「嫌じゃ、今日はライア姉のところに泊まるのじゃ! 一緒の布団で寝るのじゃー!」


「あらー、ダメよ。マリーダは旦那様のお世話をするんでしょ。あ、そうだ。アレウスちゃんにって思ってコレ買っておいたから着せてあげて」


 ライアさん……アレウスたんのために……。


 キラキラと光る黄金のラメ入りの涎掛け!


 これをアレウスたんが! 眩しすぎて直視できないくらいイケメンになりすぎてしまう!


 はぁ~、マジでアシュレイ城に帰ったらすぐに着けてもらおう!


 これはぜひ、領民たちにも見てもらわねばならん!


 てか、マジで貴方は脳筋ワガママ性欲大王の姉なんだろうか。


 同じ血を引いてて、なぜこうも違うんだろうか。


 謎だ。謎すぎるぞ! 鬼人族!


 俺はライアに涎掛けのお礼を言って、リシェールとともに駄々をこねるマリーダを引きずり宿舎に帰ることにした。


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