第七十九話 カツアゲは年一の恒例行事
帝国歴二六三年 紫水晶月(二月)。
吉報! リュミナス懐妊!
去年頑張って仕込んだ甲斐があった!
ワリド始め、ゴシュート族や山の民が大歓喜!
女の子がいいなー。男の子でもいいけどさー。
尻尾と耳を持つ、子供になるんかなー。
ちょー可愛くね? 最強にヤバいでしょ。
そう言えば、嫡男アレウスたんも額に鬼人族の証である角が生え始めた。
もう、イケメンすぎて、パパは顔を見るだけでも失神しそう。
ユーリたんも健やかに成長してて、リゼのおっぱいを元気よく飲んでいる。
パパの分も少しは残しておいて欲しいものだ。
一方、お仕事の方は大仕掛けだったアレクサ王国への謀略が完了した。
ゴラン王率いる『正統アレクサ王国』に、魔王陛下の縁者である夢魔族のリゼルが輿入れして、相互不可侵条約が結ばれ、同盟国となった。
おかげでエルウィン家も国境を接するスラトとヒックス領に平穏が訪れている。
農民反乱軍は解散され、ゴラン王の『正統アレクサ王国』の兵となり、バルトラードは当初の予定通り、麾下の兵二〇〇を副官のアレックスに任せ、ヒックス城に駐留させ、自身はアシュレイ城にやってきていた。
アレックス君、地味で目立たない元領主兵の男だけど、山賊討伐ではバルトラード以上の結果を出した男。
自身の戦闘力は微妙だが、視野が広く兵を指揮させると攻守ともに存在感を増す男。
待望の守れる将候補なので、ミラー君同様、彼も大事に育てるリスト入りしててる。
そして、新年会に行くマリーダに頼んでおいたヴェーザー自由都市同盟のカツアゲ許可ももらえていた。
狙い目は、ヴァンドラのライバル都市のメトロワあたりだろうな。
戦争の名分は何でもいいけど……。
メトロワにおけるエランシア帝国商人の不当な扱いに抗議するといった形でいいかな。
ヴェーザー河西岸にある都市だから、陸路で一週間ほどで到達できるし、相手も必死で防戦するだろうから脳筋たちの血抜きにもなる。
ほどほどに脳筋たちの血抜きをしつつ、相手をビビらせたところで、賠償金を巻き上げるとしよう。
うちの度量衡を使うことにしたヴァンドラのジームスにも、メトロワに侵攻する連絡入れとかないとな。
うちがメトロワやったるから、チャンス逃さずに相手の商圏食い荒らせって送っておかないと。
ヴァンドラの利益は、回りまわってエルウィン家の利益。
さて、脳筋オールスターズ連れて、のんびりカツアゲ旅行にでも出かけるとするか。
すぐさま、マリーダに出陣の陣立てを伝え、翌日にはメトロワに向かって軍勢とともに出立した。
「いくさじゃ! いくさ! 血が滾るのぅ! あの街ごと破壊してもいいのか? そうなのか? ふおおおおおぉ! 妾の身体が疼いて困るのじゃ!」
「マリーダ、わしの獲物を奪うんじゃないぞ! だっしゃあぁっ! おらぁああ!」
「親父もオレの獲物を奪うなよ!」
「マリーダ様たちのあの溢れ出るヤル気。わたしも初手から竜化して、先陣を切った方がいいかもしれない」
「ガハハッ! いくさを前にこの余裕。やっぱエルウィン家に仕えてよかった」
脳筋当主始め、脳筋四天王、兵たちまでもが涎を垂らさんばかりに、防備を固め都市に籠ったメトロワの街を眺めている。
メトロワ防衛の仕事を請け負った傭兵団は可哀想だが、脳筋たちの餌食になってもらうしかあるまい。
これも弱肉強食の世の習い。
脳筋エルウィン家の近くに都市を築いたのが運の尽きだったと諦めてくれたまえ。
「動員した兵は三〇〇名、相手の傭兵団は五〇〇名。城壁は高く、全面は湿地帯で足元が悪い、背後はヴェーザー河で船を持ってきていないわが軍では攻撃不可。この場合、最小損害で敵に勝つ方法はありますかな?」
「「「「吶喊! 一人百殺!!」」」」
脳筋に答えを求めた俺がバカでした。
でも、それをやりきれる武力をもってしまった人類がいるんで、正解でもあるんだよな。
戦略という単位では脳筋はあまり役に立たないけど、戦術になると圧倒的な破壊力を持つ。
なので、戦略単位は俺が仕切らないとマズいが、戦術単位は達成目標の設定こそするが、詳細は脳筋たちに任せても問題はないと思われる。
「よろしい。武器を持った傭兵団と都市の市民以外への暴行略奪禁止だけは各自徹底で。違反者はどうなるかお分かりですね」
「「「「違反、即死罪!!」」」
「よろしい。では、よきいくさを」
「「「「ふぅううううううううううううううう!」」」」
軍配を振り下ろすと、当主マリーダを筆頭にエルウィンの脳筋たちがメトロワの城門に向け駆け出していった。
はい、ここからは実況解説をアルベルトが担当させてもらいます。
さて、ヴェーザー河を背にした城塞都市への攻略となっておりますが、脳筋たちの選択は『吶喊』一択でしたね。
実に頭の悪い攻略法だ。
まずはマリーダ選手が足元の悪い沼地をものともせず城壁の下に取り付いたぁ!
早い! 開始から五分経たずの城壁到達。
マリーダ選手、圧倒的な脚力を見せました。
さぁ、この素早いマリーダ選手の動きに焦った防衛側の傭兵たちが城壁から岩を落として迎撃するっ!
効かない! 効かない! マリーダ選手、大剣で器用に岩を打ち返し、その岩が傭兵がヘッドに命中! 命中したぁ! まさに神業!
傭兵たちがビビッて、岩を落とさなくなったぞ!
そんな傭兵たちの動揺を嗅ぎ取ったブレスト選手、二〇〇メートルほど離れた場所で大きな槍を構え始めた!
助走をつけて……投げたぁ! 飛んでく、飛んでく! 城壁の上にいた三人の傭兵たちの身体を貫いたぁ!
二投目、三投目、四投目! 城壁の上の傭兵たちがどんどんと串刺しになっていく。
これは一方的だ。
傭兵たちもたまらず、胸壁に姿を隠す!
カルア選手、このままでは自分の出番がなくなると見たのか、いきなり切り札の竜化を使う! 黒いもやが出て、翼だ! 翼! 飛んで城壁の上に出た!
これは傭兵たちも予想外! 急に現れたカルア選手の前に抵抗する暇のなく、撫で斬りにされていく。
一人、二人、三人、四人、城壁の上は倒れた傭兵の血によって血の池と化してるぞぉ!
すごい、すごい活躍だ! マリーダ選手の推薦で鳴り物入りの脳筋四天王入りした実力者にふさわしい戦いをしているぞ!
こうなってくると、最近脳筋四天王入りしたバルトラード選手も黙っていられない。
愛用の大槌を構えると、高さ五メートルはある城門の扉に打ちこむ! 打ち込む! もう一つおまけに打ち込む!
鉄で補強された固い城門も、バルトラード選手の怪力の前に軋む音を上げる!
渾身の力を込めて振り下ろした大槌は――壊した! 壊しました! かんぬきが折れ、門が開く!
やってやったと言わんばかりに、バルトラード選手は大槌を掲げて吠えているぞ!
一番最後にやってきたのはラトール選手、他の脳筋たちが先制攻撃を仕掛けると見越して、自身は戦闘をせず温存をしていたようだ!
さすが、脳筋の中では知性派でならした男。
バルトラード選手が城門をぶっこわした隙を狙って、一気に城内一番乗り達成! 他の脳筋たちが慌てて後を追うが、温存していた体力の差か。
どんどんと引き離していく。早い、早いぞ!
先行するラトール選手、動物的勘で傭兵団の首領の存在をキャッチ! 猟犬のように一目散に駆けつけると、一刀のもとに首を飛ばしたぁ!
狙いすました一撃、実に見事。
いやー、美味しいところかっさらっていきましたねー。
首領を討たれ混乱した傭兵団は、脳筋兵たちの執拗な追撃でどんどんと討ち取られるか降伏していってます。
これはもう勝負ありといったところでしょう。
あっとここで白旗! 白旗です! 敵は抗戦を断念しました!
脳筋VSメトロワ防衛傭兵団は、圧倒的な脳筋たちの戦闘力を前に、一時間もたず降伏の白旗があがった。
あがってきたリザルト報告では味方損害、死者なし、重傷者二〇名、軽傷者五〇名。
敵損害、死者二〇〇名、重傷者七〇名、軽傷者五〇名、捕虜二八〇名。
圧倒的な脳筋たちの異次元パワーの独壇場でした。
これで現地メトロワよりの実況解説は終わらせてもらいます。
またの機会にお会いできることを楽しみにしておりますね!
戦は終わりを告げ、すでに捕虜と死体の処理が始められていた。
エルウィン家にいると麻痺するんだが、普通のいくさで戦術を駆使したとしても、こんな圧倒的な勝利を収めることはほとんど起きない。
戦闘員の戦闘技術が隔絶しているがゆえに起きる珍事の範疇だと思っている。
俺が敵として対峙するなら、絶対に戦わない選択をする。
彼らが力を発揮できないよう、色んな謀略を絡めて、戦場に存在させないのが一番だ。
脳筋たちの戦闘結果を集計した報告書を読んでいた俺のもとに、降伏勧告の使者として市議会を訪ねていたカルアが戻ってきた。
「アルベルト様、メトロワ市議会が降伏を受諾いたしました。賠償金の帝国金貨二〇〇〇〇枚の支払いも併せて受諾しております」
頼みの綱だった傭兵団が瞬殺されたことと、市民への被害が皆無だったため市議会が折れるのも早かった。
金で解決できるなら、早々に支払って退散願いたいというのが向こうの本音だろう。
これでカツアゲ集金も終わりだな。
この金は非常時のために蔵に積んどくかー。
ジームスもメトロワの客をかなり奪ったみたいだし、ヴァンドラの懐が潤えば、うちへの用心棒代も支払いが滞らないですむ。
エルウィン家の商圏は、領内のみならず正統アレクサ王国が実効支配するザーツバルム地方からヴァンドラまで広がっている。
これからもできるだけ多くの商人たちを集め、領内で色々と物の売買してもらいたい。
さて、賠償金をふんだくって帰還するとしますか。
市議会が急いで用意した帝国金貨二〇〇〇〇枚分の金塊を荷馬車に積むと、軍勢を率いて帰還することにした。
帰還の途上、いくさの火照りを冷ますとの名目でマリーダが馬車の中で押し倒してきたのと、カルアも竜化の疼きを止めたいと言って襲い掛かってきた。
まぁ、予想はしてたので二人とも美味しくいただきましたけどね。
嫁と嫁の愛人の火照りを癒すのも旦那の務めということですよ。
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