第五十四話 後始末


 帝国歴二六一年 紅玉月(七月)


 戦争の影響はアルカナ領に深刻なダメージを与えていた。


 麦刈り寸前の敵の侵攻で、無抵抗を貫いたとはいえ畑が踏み荒らされ、収穫量減っているのだ。


 穀倉地帯のアシュレイ周辺で、このような事態に陥っていたら、さすがの俺のガチ切れして、殴り込みかけたかもしれないが、山岳地帯のアルカナ領だったので、我慢できる被害で収まっていた。


 アルカナ城攻略戦からのアレクサ王国撃退戦のリザルトの報告書が上がってきている。


 アルカナ城攻略戦及びアレクサ王国撃退戦収支報告書


 支出(帝国金貨換算)


 ・ステファンへの援軍協力費……帝国金貨5000枚

 ・ワリドへの情報工作費用……帝国金貨4320枚

 ・アルカナ領支援金……帝国金貨30000枚

 ・討伐出兵費用……帝国金貨8670枚

 ・損耗品補充……帝国金貨3264枚


 収入(帝国金貨換算)

 

 ・『アルカナ領』の財宝及び接収物資……帝国金貨5425枚

 ・『領主連合軍』身代金代……帝国金貨24500枚

 ・皇帝下賜金……帝国金貨5000枚


 収支総計:帝国金貨16329枚減


 出費が痛い。アルカナ城攻略までで終わる予定だったのが、アレクサ王国の大規模侵攻まで重なり、出費が増えた。


 アルカナ領支援金の多くは銀山開発費用であるが、農村支援金も多めに加算してある。


 自家用の食糧支援態勢も整えて、戦が続いたアルカナ領の住民を慰撫し、銀山開発のお手伝いをしてもらわなければならなかった。


「麦の件はすまなかったな。アレクサ王国が攻め寄せるとは思ってなかった」


「いえ、有り余るほどの支援を頂いておりますから、アルカナ領の住民を代表してお礼を申し上げます」


 アシュレイ城の執務室にいた俺と喋っているのはニコラスだ。


 アレクサ王国の侵攻戦で、アルカナ領への帰還が遅れているが、エルウィン家の戦士長として迎えられ、アルカナ領の代官を任せられていた。


 この人事は俺が、シュトラールにゴリ押ししたもので、銀山開発にニコラスの力が必要なためだ。


 本当なら家老職のブレスト辺りの派遣して統治するのが、序列的に納まりがいいが、例の如く内政の力がアレなので、ニコラスに代官をさせた方が数百倍マシだ。


 アルカナ領総代官ニコラス。


 って感じで、地元の顔役をトップの代官に据えて、バッチリ地元密着型に替えました。


 エルウィン家の者はアルカナに置かない。


 それが、リヒトから得た教訓だ。


 リストに載ってた奴らも地元に帰して、それぞれニコラスの統治を助けさせた。


 領民たちもエルウィン家が打ち出した租税の一年免除によって、新領地にしては穏やかに統治を受け入れている。


 アルカナ城降兵が籠っていた関所も再建し、きちんとした砦クラスのしっかりとした物に作り直しておいた。


 対アレクサ王国の出撃拠点として再整備してある。


 あ、忘れてたけど、アレクサ王国侵攻中に例のリヒト君は処刑されました。


 理由は国家反逆罪。『傍系の魔王陛下就任ハンターイ! ハンターイ!』って言ってたから、首切られてもしょうがないよね。


 口は災いの元。危ない。危ない。


 あと、ミラー君。俺の部下だって魔王陛下に知られて、褒詞もらってた。


 アルコー家の家老候補だから、実績を積んでもらうと引き上げやすい。


 今回の戦は初めて俺も指揮を執ったし、アルコー家の農兵たちにも軍事教練を行えたので、戦力的には底上げになったかと思われる。


 魔王陛下が空手形でくれた新たな領地も増えたが、それ以上に出費も増えたので、また税制改革が遅れそうな勢いだ。


 今回の戦でエルウィン家も三城を持つ中堅貴族に片足を突っ込んだ規模になった。


 これからの舵取りももっと難しくなるだろうなぁ。


 はぁ、ちょっと去年末から戦だらけだったから、嫁とイチャイチャしよう。


 マリーダ。お腹の子は無事に育ってるかい~。みんな、子作りするよ~。



「なんじゃ、アルベルト。また、妾のお腹に耳を当てにきたのか?」


 仕事を終え、お腹が大きくなり始めたマリーダの寝室に訪れるとリシェールとリュミナス、フリンが迎えに出てきていた。


「お城に居る時は、私がマッサージ役と申していたはず? ダメ?」


「ふむ、そうじゃったな。じゃがのぅ、おっぱいを揉むのは如何なものかと思うのじゃ」


「母親から母乳が出ねば困る」


「フリンなら母乳が出るぞ。どうやら、妾の妊娠に触発され、母乳が出るようになったそうだ」


 マジで!! そんな話初耳っ!!


 俺はすぐにフリンに視線を向け真偽を問い質す。


「本当か?」


「え、えーっと。本当ですけど。懐妊はしてません。マリーダ様のお腹が大きくなるのを見てたら、急に出るように……って、ああぁ」


 俺はフリンの服を脱がすとその大きな乳房を軽くまさぐる。


 すると、母乳が滴り落ちた。


「母乳だ……」


「妾のものじゃぞ。アルベルト」


 マリーダが、フリンを抱き寄せると彼女の乳房に吸い付いていた。


「マリーダ様、おやめください。これはマリーダ様の子に取っておかねば」


「子の栄養補給じゃ」


「あぅううう」


 うむ、背徳的過ぎる。


 とりあえず俺もごちそうになるとしよう。


 その後、フリンの母乳をマリーダと堪能しつつ、マッサージと皆を呼んでの子作りに夜明けまで励むことにした。

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