第十七話 税の種類

 新たに雇った人族の文官たちは、三五名と少ないが精鋭たちであった。


 ミレビスが泣きを入れた帳簿関係は正式な物が半年はかかると見ていたが、村長一族出身者たちがハチャメチャにやる気出して城下街の戸籍調査と店を構える商家の売り上げ基礎台帳がほんの一ヵ月ほどで整理されて俺の目の前にできていた。


 ああ、マジ優秀。帳面もきちんと指示した書式で書いてある。実に読みやすいし、書きやすい。


 文官たちの必死の努力で完成させた戸籍調査結果によれば、アシュレイ城下街の人口は、籠城時に城に籠る予定の城下街まで含め、五二三六名。


 マリーダの女男爵という爵位から考えれば破格の人口を抱える城下街を抱えていた。人口五〇〇〇以上といえば、エレンシア帝国では中規模クラスの貴族が領有していてもおかしくない土地であるのだ。


 元々、街道が交差する好立地の場所で農業するにも最適な平地と水利を持つ地であるため、人口は多かったのかもしれない。


 人口の多さは税収の多さに直結するため、あらためてエルウィン家が放置統治で破綻しなかったのは、豊かな領地からの税収のおかげだと思われた。


 話が逸れたが、城下街の人口が大体把握できたので、この人口数を元に領地が包囲された時のことを考えて、城下街の住民がすべて城に籠城することを想定して、倉庫に入っている備蓄食料で最大籠城できる日数も算出しておいた。


 これも、ミレビスを筆頭に文官たちが目をキラキラさせて取り組んでくれた結果、最大で籠城できる日数は六〇日と出た。


 これは全領民が城に籠って二食配給という想定での日数で、領民なしでエルウィン家の家臣たちだけで籠れば数年は籠れる。


 この人口数を元に、現在の備蓄糧食での籠城日数を出すと、二ヶ月程度は喰える計算だった。


 魔窟化した倉庫の大整理をしたとはいえ、わりと備蓄食料は積み上がっていたようだ。


 マリーダが魔王から仲介を受けた婚約者を半殺しにしたせいで、あとを継いで当主になったブレストも謹慎してこの数年間はいくさへの出兵がなく小競り合いに終始していたため、備蓄食料が積み上がったのが主な理由であった。


 このアシュレイ城は交通の要衝に建つ城であり、アレクサ王国との最前線の領地であり彼の国との大規模な戦が起きれば、即座に包囲される可能性もある。


 備蓄はなるべくあった方がいい。ただ、腐るほどはいらないがな。


 それに、そろそろ今年の小麦ができてくると思うし。今年からはミレビスとイレーナがしっかりと倉庫の管理もしてくれるはずなので、魔窟化は避けられるはずだ。


 倉庫の在庫管理こそまともになったが、ただ税収の正確な額の把握は農村分が不明であり、道半ばではある。


 そのためには農村分の色々な台帳も整備していかなければならないが。

 

 ちなみに現状でエルウィン家が取り立てている税をざっと、紹介すると。


 ・地代……安全保障費として、支配下になった農村に生産物を貢納させる税。

 ・人頭税……領民一人一人から徴収される税。

 ・入市税……城下街へ入るための税。

 ・施設使用税……水車の粉挽き、パン焼き窯、葡萄圧搾機等の施設利用の際に徴収される税。

 ・相続税……子が親の土地や財産を継承する際に発生する税。

 ・土地売買税……農民が土地を他人に売買する際に発生する税。

 ・賦役免除税……領主が科す賦役免除を受けるための税。

 ・売り上げ税……商人の売り上げに対して掛けられる税。

 ・生活必需品税……塩・薪などの必需品にかけられる税。


 っと、まぁ九種類ほどの税の取り立てがある。

 

 地代と人頭税の生産物貢納以外は金銭によって贖われることになっている。


 税の新設権や税率は領主が独自で設定できるが、税をかけ過ぎて激怒した民衆が『領主、ぬっころす!』って蜂起されたら困るので、バンバン税率を上げるのも問題がある。


 エルウィン家の武力で一応の平和が保たれているが、この世は何が起きるか分からない、なるべく安全第一でいきたい。


 ちなみにその脳筋一族は朝から『調練だー!』って騒いでいたから、お外で野生動物狩りをさせている。


 戦闘しかできない彼らの食い扶持は自分たちで稼がせることにしていた。調練代もタダじゃないんで、肉や皮を仕入れてもらい少しでも金を稼いでもらうことにしてある。


 坊主(狩猟成果ゼロ)で帰ってきたら、調練禁止三日間が確定しているので、ちょっと頭を使って訓練するだろう。


 内政大事。領主の収入源は領地から上がる税収が基本だ。


 戦闘無双な領主も足元の領地経営がガタついてしまえば、力を発揮することもできない。


 俺が見るところ、エルウィン領はもっと税が上がる領地だと思う。


 税収が上がれば、養える兵も増える。兵が増えれば、武功を挙げて新たな領地を得られる可能性も上がる。


 戦闘で活躍する場は俺にはない。っていうか、あまり近づきたくもない。はっきり言って腕っぷしは当主のマリーダが担ってくれる。


 安全な文官枠で内政・外交・謀略で貢献して、嫁であるマリーダを出世させて、嫁と嫁の愛人たちとイチャイチャして、まったり生活を満喫するのだ。


 そのためにも、今日もせっせと汗を流して帳簿と格闘するのだ。


「アルベルト様、少し休憩をされていかがですか、朝から根を詰めてお仕事をし過ぎかと思います」


 傍らで手伝っていたイレーナが、俺に身体寄せてくる。


 息抜きの休憩か。徴税業務は長丁場だし、ちょっと一息入れるか。


 え? 一息って何って? そんなのは決まってるじゃないですか?


 ご休憩タイムですよ。リラックスタイム。ええ、リラックスタイムですとも。大事なことなんで二回言いましたよ。


 俺はその後しっぽりとイレーナとご休憩タイムを楽しむことにした。

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